Last Knights After
決意と願いのその先に-6
思いも寄らないどころか、全く想定していなかった来客。
その姿にルルーシュは動揺していた。
見開かれた紫玉の瞳が、扉の前に立つ4人を見つめる。
無意識にごくりと息を呑んで、体の震えを抑えようと、彼らに見えないように拳を握った。
「どう、して……」
「この階にいたところを、僕らが見つけて連れて来た。僕らの権限で」
漸く搾り出したその言葉に、答えたのはライだった。
反射的に視線を向ければ、先ほどまでの笑みを消したライが、その紫紺の瞳を真っ直ぐにこちらに向けている。
隣に立つスザクも同じように笑みを消し、翡翠の瞳でじっとこちらを見つめていた。
「あれからもう四カ月だ、ルルーシュ」
あの、ダモクレスが消え、戦争が終わった日から、四カ月。
ライとスザクがゼロレクイエムという計画の真実を、自分自身の本音を世界にぶちまけた日から、存在し続けることで罪を償うのだと決めたあの日から、それだけの月日が経っていた。
「そろそろ、ちゃんと話をしないとならないだろう?僕らは、生きているんだから」
「それ、は……」
あの日まで、自分たちはいなくなるつもりだった。
だからこそ、話をしなかった。
巻き込むつもりはなかったから。
彼らには幸せな明日を生きて欲しかったから、何も話さずに、全てを終わらせるつもりだった。
けれど、その計画はライによって覆され、全てを背負って消えるはずだったこの身は、今もこの世界で生きている。
世界に認められる形で罪を償おうと、歩み続けている。
だからこそ、ちゃんと話をしようと、ライは言うのだ。
もう彼らと無関係でいる必要は、何処にもないのだから。
動揺し、答えを返せずにいたその時、すっとジェレミアが動いた。
彼は無言でカレンたちの側を通り抜け、扉の前で足を止める。
くるりと振り返ると、洗礼された動作で恭しく頭を下げた。
「では、私はこれで」
「待ってください、ジェレミアさん」
扉に手をかけようとしたジェレミアを、ライが止める。
その彼を、ジェレミアは不思議そうに振り返った。
「少しの間、ここにいていただきたいんです」
「よいのか?」
「ええ。あなたの『力』が、必要ですから」
細められたライの紫紺が、一瞬ジェレミアから外れる。
ぐるりと巡り、再び自分に戻ったその視線に、彼が何を言いたいのかを察した。
「……わかった」
学園とは全く関係ない自分がここに残ることに抵抗を感じながらも、ジェレミアは頷く。
それに笑みを浮かべたライが、ちらりと隣を見る。
その視線の先にいたスザクが、静かに頷いた。
「ルルーシュ」
スザクが、もう一度ルルーシュを呼ぶ。
俯いてしまっていたルルーシュは、その声に目を閉じた。
はあっと、扉の傍に立つジェレミアにすら聞こえるほど大きなため息をつく。
椅子を引き寄せると、そこに腰を下ろし、ゆっくりと顔を上げた。
そこには、もう先ほどまでの動揺など欠片もない。
真っ直ぐな紫玉の瞳が、こちらを睨むように見つめる少年たちを見つめる。
視線が絡み合ったその瞬間、彼はにこりと微笑んだ。
「お久しぶりです、会長、リヴァル。カレンとジノも」
漸く自分たちに向けられた視線と、声。
それにごくりと息を呑み、真っ直ぐに目の前にいる若き皇帝を見つめる。
何を話せばよいのかわからず、戸惑い、結局何も言えないまま立ち尽くすことしかできない彼らの中で、真っ先に口を開いたのはミレイだった。
「ルルーシュ……。あなた、本当にルルーシュなのよね?」
「ええ。そうですよ、会長」
彼女のその問いに、ルルーシュはますます笑みを深める。
作り物のようなそれに、ミレイがごくりと息を呑んだ。
「俺は、アッシュフォード学園のルルーシュ・ランペルージです」
はっきりとそう答えれば、ミレイとリヴァルが僅かに目を瞠り、カレンがふいっと視線を逸らす。
彼女の隣に立つジノは、その蒼い瞳を僅かに細めた。
「でも、あなたは……」
「ええ。今の俺は、神聖ブリタニア帝国皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアでもある」
「っどうしてだよ!ルルーシュ!」
はっきりとそう言い切ったその瞬間、リヴァルが声を上げた。
僅かに涙を浮かべた目が、真っ直ぐにルルーシュを見つめる。
「どうして、俺に……俺たちに何も言ってくれなかったんだよっ!」
「言う必要が、なかったからだな」
「必要ないって……っ!」
驚愕に目を見開くリヴァルに、ルルーシュは目を細める。
その瞳に浮かび上がった感情を正確に読み取って、ふっと笑みを浮かべた。
「必要なんてなかったんだ。俺は、戻るつもりはなかったから」
「え……?」
リヴァルが、ミレイが、ジノが、驚いて目を瞠り、カレンが勢いよく顔を向ける。
彼らが想像しただろう言葉。
それも、あながち間違いではない。
実際に、即位したときには、それがルルーシュに、そしてスザクにとっては真実だった。
けれど、今は違うから。
一度目を閉じると、ルルーシュは浮かべた笑みを深め、真っ直ぐに彼らを見た。
「アッシュフォード学園にいた頃は、皇族に復帰するつもりは、これっぽっちもなかったんだ」
これも、真実。
本当に、戻るつもりはなかったのだ。
Cの世界で人々の願いを知るまでは。
全てが終わったその時、自分がいたいと願った場所は、ここではなかった。
「復帰って……それじゃあ、本当に……」
「ああ。俺は第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアと皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの間に生まれたヴィ家の長子、元皇位継承17位、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」
リヴァルの問いに、はっきりと答える。
その言葉に、リヴァルはごくりと息を呑み、ミレイがその青い瞳を大きく見開いた。
「マリアンヌ様の、ご長男……。あなたが……」
「知らなかったのか?アッシュフォードは、ヴィ家の後ろ盾だって聞いたけど」
「え、ええ。ナナリー様のことは、知っていたのだけれど」
「え?」
ジノの問いに、ミレイはナナリーを窺うように見て、答える。
そのやり取りに、ナナリーがぴくりと反応した。
驚いたようにミレイを見つめ、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「ミレイさん。何を仰っているのですか?」
「え?」
「ナナリー様……?」
「だって、ミレイさんは、お兄様のこと、ちゃんと知って……」
「ナナリー」
問いかけようとした言葉は、けれど肩に触れられると同時に名前を呼ばれ、遮られた。
突然のそれに、ナナリーは驚いたようにそちらを見る。
そこは、兄の騎士にして幼馴染の少年が立っていた。
「スザクさん……?」
いつの間にか傍に来ていたスザクを、ナナリーは不思議そうに見上げる。
純粋な疑問を浮かべる瞳に、スザクは微笑むだけで、何も答えない。
それに焦れ、どうして止めるのかと問いかけようとしたその瞬間、別の場所から聞こえた声に、言葉を止めた。
「違いますよ、ミレイさん」
はっきりと耳に届いたその声に、全員が視線を動かす。
その先にいたのは、ミレイたちをこの部屋へと招き入れた銀の騎士。
ニーナと共に、ゆっくりとした足取りでルルーシュの隣に立った彼は、その紫紺の瞳で真っ直ぐに彼女たちを見つめていた。
「ライ?」
「あなたは知らないんじゃない。忘れているだけです」
「え……?」
「なあ?カレン」
不思議そうに聞き返すと、微笑んだライがカレンの名を呼ぶ。
その途端、カレンの体が、これでもかというほどびくんと震えた。
「え?」
「カレン?」
ミレイとリヴァルが視線を向け、ジノが不思議そうにカレンを呼ぶ。
全員の視線を集めるカレンは、俯いたまま顔を上げようとしない。
その彼女の姿に、ライは僅かに目を細めた。
「カレン、君は知っているはずだ。アッシュフォードが、何故ルルーシュの存在だけを忘れているか。学園の生徒が、何故生徒会のメンバーを残して全て入れ替えられてしまったのか。そして、ミレイさんとリヴァルの中にある、記憶の食い違い。バベルタワーの事件の直後のゼロの復活。それまでにゼロの正体を知っていた者だけが知る、真実を」
淡々としたライの言葉に、カレンはぎゅっと拳を握る。
それは黒の騎士団の中でも、本当に僅かな者しか知らない事実。
自分とライとC.C.、そして今はもういない卜部しか知らなかった、真実。
「……記憶の、改竄」
顔を俯けたまま、ぽつりと答える。
その声は本当に小さくて、ナナリーはもちろん、ミレイとリヴァルの耳にも届かなかった。
唯一はっきりとそれを聞き取ったジノが、不思議そうにカレンを見つめる。
「カレン?何言って……」
「記憶を、書き換えられたの。学園に残った生徒会の人たち、みんなが。会長とリヴァルだけじゃない。シャーリーも」
カレンの言葉に、ジノは目を見開く。
ミレイとリヴァルは、言っていることがわからないとばかりに首を傾げ、ナナリーは不安そうにルルーシュを見上げた。
きゅっと服の裾を掴むナナリーに薄く微笑みを返すと、ルルーシュはミレイたちへと視線を戻す。
そして、ゆっくりと息を吐き出し、薄い笑みを浮かべた。
「それは、俺自身も例外ではなかったわけだがな」
「お兄様……?」
「ルルーシュ……」
自嘲のようなそれに、ナナリーが不安そうに声をかけ、スザクが小さく名前を呼ぶ。
痛みを持った翡翠に薄い笑みを返すと、ルルーシュは一度目を閉じた。
瞼の向こうに隠れた紫玉が再び開かれたときには、彼の顔にそれまでの笑みはなかった。
王としての表情を浮かべたルルーシュの視線が、扉の傍で控えるジェレミアに向けられる。
「ジェレミア」
「イエス、ユアマジェスティ」
その一言で主の意思を理解したジェレミアが、扉から離れ、ミレイたちの傍へと歩み寄る。
その目がこちらに向けられたことに気づいて、ルルーシュはふっと微笑んだ。
「俺にはかけるなよ」
「承知いたしました」
その意図を理解して答えれば、ジェレミアは恭しく頭を下げる。
それに満足した微笑んだ途端、隣から聞こえた言葉に、ルルーシュは驚き、目を見開いた。
「ああ、僕にもかけないで下さい」
「自分にも」
「駄目だっ!」
当たり前のように自分と同じ言葉を口にしたライとスザクに、反射的に声を上げた。
その途端、不機嫌を露にした紫紺と翡翠が、ぎろりとルルーシュを睨みつける。
そのままにっこりと微笑まれれば、いくら気の知れた相手とはいえ、恐ろしくないわけがない。
特に、この笑顔を浮かべたときのライの恐ろしさは、嫌というほど知っていた。
「どうして君にそんなことを言われなくちゃならないのかな?ルルーシュ」
「こ、これは、お前たちにとってもいい機会だろう」
「「は?」」
震えそうになる声を必死に抑えて、答える。
その途端、言われた意味がわからないと言わんばかりに、2人は揃って顔をしかめた。
ますます不機嫌さが強まったその表情に、ルルーシュは逃げ出したくなるのを必死に耐えた。
ここで逃げ出すと、後が厄介だ。
それはここ四カ月の間に、嫌というほどわかっていた。
だから、2人の機嫌をこれ以上崩さないように、慎重に言葉を選ぶ。
「みんなと一緒に、ジェレミアに解いてもらえ。俺が、お前たちにかけた呪いを」
その瞬間、ライとスザクが大きく目を見開く。
何故か驚いたような2人の様子にも構わず、ルルーシュは言葉を続けた。
「そうすれば、お前たちは解放される。自由に、なれるんだ」
ルルーシュが2人にかけた、『生きろ』という呪い。
ジェレミアのギアスキャンセラーがあれば、2人はそれから解放される。
今までは、特にジェレミアにそれを使わせる理由もなかったから、そのままにしておいたけれど、これはいい機会だ。
スザクを苦しめ続け、それなのにライにもかけてしまったその呪いを、今。
過去を求め続けた前皇帝が、ミレイたちにかけた呪いと共に解除してしまえ。
そうすれば、彼らを縛り付けるものは何もなくなるのだから。
驚きの表情のままルルーシュを見つめていたライが、ふとため息をついた。
それにルルーシュがびくりと震えるのにも構わず、反対側にいるスザクを睨みつける。
きょとんとしていたスザクは、怒りの篭った紫紺と視線が合った瞬間、びくっと肩を跳ねさせた。
「スザク。後で殴らせろよ」
「わかってる。甘んじて受けるよ」
一瞬目を瞬かせたスザクは、ライの言葉に意味に気づき、ため息と共に答えを返す。
そのやり取りの意味がわからず、2人を交互に見つめていたルルーシュを、スザクから視線を外したライが真っ直ぐに見つめた。
「ルルーシュ」
名を呼べば、ルルーシュは体を僅かに震わせ、ライを振り返る。
視線が絡み合った瞬間、ライがすっと手を上げた。
その手に、角度に、平手打ちが来るのだと直感で悟り、ルルーシュはびくりと体を震わせ、ぎゅっと目を閉じた。
一瞬遅れて、ひゅっと空を切る音が耳に届く。
けれど、予想していた痛みは一向に襲ってこなかった。
代わりに頬に微かな風が当たる感覚。
何かと思ったその瞬間、突然額に痛みが走った。
予想外のところにやってきたそれに、ルルーシュは思わず声を上げ、額を押さえる。
「……つっ!ラ、ライ?」
目を見開けば、目の前には先ほどと変わらず、ライが立っていた。
その右手は振り切られてはおらず、変わりにルルーシュの目の前で止められていた。
親指と人差し指だけ伸ばされたそれを見て、気づく。
恐らく彼は、ルルーシュの頬を叩く直前で平手を止め、指で額を弾いたのだ。
驚いて顔を上げれば、目の前にあったのは不機嫌に細められた紫紺の瞳。
けれど、そこには彼独特の冷たい表情は浮かんでいなかった。
「ふさげるな。これは呪いじゃないだろ」
両手を腰に当て、はっきりとそう告げた彼の顔に浮かぶのは、感情を露にした顔。
ナイトオブゼロになる以前によく見せていた、少年らしい感情を見せた怒りの表情だった。
ここのところ、ライは宰相として、騎士として、かつて王だった頃に浮かべていた冷たい表情でしか怒りを表していなかったから、すっかり忘れていた。
彼も、こんな顔で怒るのだ。
「僕とスザクにかかったこれは、君の願いそのものだ」
はっきりと告げられたそれに、目を見開く。
「違……」
「違わない。本心で願っていなければ、あんな状況で、あの言葉が出るもんか」
慌てて否定しようとしたそれさえ、あっさりと切り捨てられ、思わず言葉を飲み込んだ。
思わず俯いてしまったルルーシュを見て、ライは目を細める。
その口元に、ふっと笑みが浮かんだ。
ルルーシュがスザクにギアスをかけたのは、もう1年以上どころか、1年半近く前になるのではないかと思われる、あの式根島の戦場だ。
黒の騎士団の一員として、青月下のパイロットとして、ライもあそこにいた。
あの時、ルルーシュがスザクにかけたギアスは、『生きろ』という一言だった。
それは、他でもないルルーシュが、スザクに生きて欲しいと願ったからだ。
『俺を庇え』や『俺を生かせ』なんて、ルルーシュ1人だけが助かる言葉はいくつもあったはずだ。
けれど、ルルーシュはスザクに『生きろ』と命じた。
本心からそれを願っていなければ、あの状況でその言葉が出るとは思えない。
それが、この言葉がルルーシュの願いである、何よりもの証だった。
「僕にかけたときも同じだ。僕は何でもいいと言ったのに、君はあの言葉をくれた。それは、君が僕とスザクに、そう願ってくれたからだ」
確かにあの日、ライは目的を達するまで生き抜き、守るための力が欲しいと言った。
だが、そのための言葉は指定しなかった。
その力を得るための言葉は、考えられる限りいくつもあるはずだ。
数多に用意された選択の中で、ルルーシュが選んだのは『生きろ』という言葉だった。
散々悩んだ後、それが浮かんだということは、ルルーシュが本心からそれを望んでくれた証だ。
「だから、これが君の願いだから、僕たちはこの言葉を自分の力にできる。何の迷いもなく、あの言葉を受け入れることができる」
死にたがりだった自分たちにルルーシュが望んだ、単純な、けれども何よりも重い願い。
それが本心からのものだと知っているからこそ、ライもスザクも、それを叶えたいと願うことができる。
彼と一緒に生きたいと、はっきりとそう望むことができる。
「君の願いであるあの言葉に、僕らは縛られていたいんだ」
「君が願ってくれたから、僕たちは何があっても『生きる』よ、ルルーシュ」
ふわりとライが、そしてスザクが微笑んだ。
怒りも何もない、ただ純粋な想いだけを宿すそれに、ルルーシュは目を瞠り、目の前にいるライを、ナナリーの傍に立つスザクを見つめる。
「ライ……、スザク……」
呆然と名前を呼べば、2人はますます笑みを深めた。
それに笑い返そうとしたその瞬間、不意にライの表情が変わる。
突然びしっと目の前に指を突きつけられ、ルルーシュはぱちぱちと目を瞬かせた。
「そもそも!君だって本当はそう思ってるんだろう?」
はっきりと告げられたその言葉の意味がわからず、ライを見上げた。
視線が交わったその瞬間、ライの口元に笑みが浮かぶ。
「呪いだと思っているなら、今一緒に解いてもらえばいい。あの日、僕が君に押し付けた言葉を」
その言葉に、ルルーシュは紫玉の瞳を大きく見開いた。
その反応に、ますます笑みを深めたライが、ゆっくりと手を下して口を開く。
「それを拒否したのは、君が僕の言葉を、願いだと受け止めてくれたからだろう?」
「それは……」
ライの言うとおりだ。
ギアスにかかっているのは、ルルーシュも同じだった。
あの日、ダモクレスでライがかけた、『生きろ』というギアス。
今回のこれは、ルルーシュがその『呪い』を解除する絶好の機会でもあったのだ。
けれど、ルルーシュはそれをしようとしなかった。
真っ先に、ジェレミアに自分にはギアスキャンセラーをかけるなと命じた。
それが示す答えに、ライが気づかないはずがない。
「僕たちだって、それをなかったことにするのはごめんだ」
「だから、僕らはこのままでいいんだよ、ルルーシュ」
はっきりと言い切ったライの言葉を引き継ぎ、スザクが笑顔で答える。
柔らかで温かいその笑顔に、僅かな間見入っていたルルーシュは、不意に目を閉じ、大きく息を吐き出した。
「……まったく。お前たちは……」
紫玉の瞳が開かれると同時にその顔に浮かび上がったのは、柔らかな笑み。
嬉しそうなそれに、ライとスザクも自然と笑みを深める。
それに一層深い笑みを返そうとして、ふと腕を引かれた。
不思議に思って隣を見れば、ナナリーがじっと自分を見つめていた。
「お兄様」
「ナナリー?」
真っ直ぐに自分を見つめる妹の名を、不思議そうに呼ぶ。
その途端、ナナリーがふわりと微笑んだ。
一瞬目を瞠ったルルーシュは、すぐに彼女の意図に気づき、笑みを浮かべた。
「……ああ、ありがとう」
素直に礼を告げれば、ナナリーは満足したように笑みを深める。
それに掴まれた腕を取り、ぎゅっと手を繋ぐことで答えて、ルルーシュは前を向いた。
その視線の先には、先ほどからずっとこちらのやり取りを静観していたジェレミアがいる。
真っ直ぐに自分を見つめるジェレミアに頷いてみせると、彼はすぐに頷き返した。
琥珀の瞳がルルーシュから外れる。
ゆっくりとそれを向けた先にいるのは、2人の騎士。
ルルーシュと同じく、真っ直ぐに自分を見つめる2人を見返し、訪ねた。
「では、よいのだな?」
「ええ。お願いします、ジェレミアさん」
「了解した」
ライのその答えに、頷くスザクに、笑みを浮かべる。
そのまま2人から視線を外し、目の前にいる4人の少年少女を見下すと、ジェレミアは左目を覆うその仮面を開いた。
2014.9.28 加筆修正