月光の希望-Lunalight Hope-

Last Knights

Story13 ダモクレスの空

徐々に上昇を続ける空中要塞。
その下方――フレイヤ発射口の傍で、2機のランスロットが戦っていた。
黒の騎士団の暁を屠り、ダモクレスを追いかける2人の騎士に、徐々に焦りが募っていく。
「くそ……っ!後はあれを落とすだけだって言うのに……っ!」
「よくもこれだけ巨大なブレイズルミナスを……!さすが、絶対の制空権を得るための要塞……っ!」
何度攻撃を仕掛けようが、その全てがシールドに防がれる。
それはハドロン砲も同じことで、全てが要塞に届く前に四散してしまった。
「いくらフレイヤを封じたとはいえ、これでは傍観と変わらない……っ!うぁ……っ!」
同じく傍まで来ていた桃色のランスロット――C.C.のランスロット・フロンティアが、被弾する。
「C.C.っ!?」
「雑魚が群がるなっ!!」
ランスロットクラブのエナジーウィングから放されたエネルギー矢が、フロンティアを攻撃した暁隊を襲う。
隙間なく降り注ぐそれに逃れるすべもなく、暁は爆散し、コックピットが射出された。
「大丈夫か!?」
「ああ、すまない」
普段どおりのその声に、ライはほっと息をつく。
フロンティアの損傷も、かすり傷だったらしく、目立った外傷は見られなかった。
けれど、安堵したのは一瞬。
次の瞬間、C.C.の金の瞳が大きく見開かれた。

「っ!?フレイヤ発射口のブレイズルミナスが……っ!?」

その叫びに、ライが、スザクが、はっと視線をダモクレスに戻る。
その瞬間、一部のみ解除されたブレイズルミナスの隙間から、黒い塊が飛び出した。
ミサイルのようなその形は、間違いない。

「そんなっ!フレイヤが……っ!?」
「まさか、気づかれたっ!?ルルーシュっ!!」

放たれた兵器は、真っ直ぐにアヴァロンに向かっていく。
それに思わず悲鳴を上げた、そのときだった。

『スザク!ライ!C.C.!そこから退けっ!!』

通信から響いたルルーシュの声に我に返る。
その瞬間、反射的に通信をオープンにしたライが叫んだ。

「地上部隊っ!全機フロートシステム起動せよっ!!」

ランスロットが、フロンティアの腕を掴んだランスロットクラブが、一気に上昇する。
高度がダモクレスよりも高い位置に達すると同時に、地響きが周囲に轟き、数瞬遅れて富士の火口が爆発した。
吹き出し、飛び散ったマグマがフレイヤを、火口上空にいた暁隊を飲み込んでいく。
地上に降り注いだ紅い炎が、大地に残っていた機体を次々に飲み込んでいった。

「サクラダイト……」
「これまで使うことになるなんて……」

スザクが表情を歪め、ライが舌打ちをする。
ライのギアスは、1年以上前に一度使ってしまっているシュナイゼルには効果を発揮しない。
それに気づかれなければ、フレイヤは封じられるはずだった。
だが、あの虚無の皇子は気づいた。
自分だけが、女神の裁きを放てる事実に。

「どうやら、あれだけの大芝居を打った賭けには負けたみたいだな」
『だが十分だ』

C.C.が皮肉の笑みを浮かべたそのとき、再び通信が開いた。
今度はオープンではなくプライベート回線で開かれたそれに、3人はモニターへ視線を落とす。

「ルルーシュ」
『おかげで目処がついた。ライ、お前の覚悟に感謝する。……スザク』
「ああ、わかった」
『よし。……何っ!?』

笑みを浮かべたと思った瞬間、ルルーシュの顔が歪んだ。
はっとレーダーに視線を移せば、先ほどまで何もなかったはずの空間に、無数の赤い点が表示されていることに気づく。

「アヴァロンの後方に敵影っ!?」
「黒の騎士団!?」
『回り込んだのか、星刻っ!?』

ルルーシュの叫びと同時に通信が切れる。
それに舌打ちし、スザクとライは機体をアヴァロンへと向けた。
エナジーウィングの形態を変え、加速する。

「アヴァロンを落とさせはしないっ!」

既存のナイトメアを超えた速度を持つ2機の機体が、アヴァロンの後ろへ躍り出る。
そのままエナジーウィングの形態を戻すと、先にランスロットクラブがMVSを抜き放った。

「黎星刻!」
『ライか!?』
「ここから先は行かせない!」
『貴様たちのような、道理なき者などにっ!?』

MVSと神虎の巨大中国刀がぶつかる。
何度か斬り合いを続けた後、ランスロットクラブが後ろへ引いた。
MVSを引き、回し蹴りを繰り出す。
それを神虎が避ける。
その位置を狙って、腰から引き抜いたヴァリスを構えた。
引き金を引こうとしたその瞬間、背後から突如コックピットに衝撃が走った。

「ぐ……っ!?」
「ライっ!?」
「こ、れは……っ!」

視界の端に、紅い髪を靡かせた黒いナイトメアが映る。
真っ直ぐにランスロットクラブに向かうそれの前に、ランスロットが飛び込んだ。

『枢木ぃっ!!』
「藤堂っ!?」

振り下ろされた制動刀を、ランスロットのMVSが受け止める。
先ほどの富士の噴火に巻き込まれたのか、斬月は機体の各所から火花を散らしていた。

「そんな状態でよく……っ!」
『国を捨て、位のみに固執する醜い存在と成り果てたな!お前の願いはどこにあるっ!』
「自分は……俺たちはただ、明日を望んでいるだけだっ!」
『お前たちが望む明日などっ!!』
「ならシュナイゼルの与える未来を享受するのか、お前たちはっ!!」

ランスロットクラブのMVSが、神虎の飛翔滑走翼を切り飛ばす。
衝撃に、オープンになっている通信から星刻の呻き声が聞こえた

『ぐ……っ!だが、これで……っ!?』
「な……っ!?」

ぐらりと傾いたはずの神虎が、その胸部の電粒子重砲を放った。
ランスロットクラブの脇をすり抜けたそれが、真っ直ぐに一点に向かう。
その先にあるのは、ブリタニア軍の旗艦――ルルーシュの乗る、アヴァロン。

「しまったっ!?」
「アヴァロンっ!!」

被弾した箇所のブレイズルミナスが消える。
小規模な爆発が起こり、煙を噴き上げた。

「くそっ!まだ中には……っ!?」
『行かせるかぁっ!!』

ランスロットが襲い掛かる斬月を交わし、勢いのままMVSを振り下ろす。
赤い剣は、寸部の狂いもなく黒い機体の中央部を切り裂いた。

『……不覚っ!?』

斬月が四散し、コックピットが射出される。
それを確認して視線を動かせば、ライも隙を突かれ、神虎に抜かれてしまったらしい。
ただ1機、その場に留まるランスロットクラブの姿が、そこにあった。
神虎を始めとし、暁や小型艇がアヴァロンに突入していく。

「くそっ!?中に……」
「すまない!僕が油断しなければ……」
「君だけのせいじゃないよ、ライ」

スザクも油断した。
お互いの油断がこの失態の原因だ。
その失態を悔いている暇も、今はない。

「これ以上は……っ!!」

さらに群がる暁を、ヴァリスで、エネルギー矢で撃ち落とす。
次々に爆散し、射出されるコックピット。
その合間を抜けて、遅れて戻ってきたランスロット・フロンティアが、後部格納庫へと入っていくのが見えた。

「ルルーシュ……、C.C.……っ」

どうか、無事でいてくれ……。

徐々に高度を下げるアヴァロンの姿に、そう願わずにはいられなかった。




2008.10.18
2014.9.6 加筆修正