Encounter of Truth
04
「じゃあ、ナナリーのこと頼みます」
「OK~。任せてちょうだい」
「行きましょう、ナナリー」
「はい」
女性陣が揃って向かいの部屋へ入っていく。
和風のこの旅館の客室は基本的に和室だが、女子部屋の上がり口は広くなっているようだった。
おそらく、ナナリーが一緒ということで、ミレイが気を使ってくれたのだろう。
車椅子も楽々入ることの出来る部屋と、何よりカレンが一緒にいるという事実。
それにほっと安堵の息をついて、ルルーシュは向かいの男子部屋と入った。
「ふう~。漸く一息つけたな」
「本当だよ……」
中に入れば、荷物を降ろして伸びをしているリヴァルと、ぐったりと座り込んでいるライが目に入る。
無理もない。
まさかここで黒の騎士団創設メンバーと鉢合わせするなんて、一体誰が予想できたというのだろう。
傍目にもわかる疲労具合に、さすがに心配になったらしいスザクが声をかけた。
「大丈夫かい?ライ。ずいぶん疲れているように見えるけど」
「ああ、うん。たぶん大丈夫」
にこりと微笑むと、ライはひとつ大きな息を吐き出す。
それで気持ちを切り替えたのか、学園で見せる笑顔を浮かべると、近くに投げ出してあった荷物を引き寄せた。
「それより、早く荷物を片してミレイさんたちと合流しよう」
「そうだな。さっさと始めるか」
言うなり、リヴァルはさっさと部屋の奥にあるクローゼットに向かう。
観音開きのそれを遠慮なく開けて中を覗き込んだ途端、歓声を上げた。
「おおっ!これかっ!噂の浴衣って!」
引っ張り出したのは、濃い緑の浴衣。
始めてみるらしく、ひっくり返したりばさばさと叩いてみたりしながら、くるりとこちらを振り返った。
「なあスザクー!どうやってきるんだぁ?これ」
「はいはい。今教えてあげるから、待っててリヴァル」
自分の荷物の整理をしていたスザクが、苦笑しながら立ち上がる。
彼がリヴァルの傍に寄るのを待って、ルルーシュは立ち上がったライに声をかけた。
「……ライ」
「ん?何?ルルーシュも着方がわからないかな?」
「そうではなく……」
「大丈夫だよ、君には僕が教えてあげるから。前にカレンに教えてもらったんだ」
「おい……っ!」
一向に話を聞かないライに焦れ、思わず声の調子を強くした、そのときだった。
「着付けしながら聞くから、ちょっと待ってて」
一瞬だけ顔を近づけたライが耳打ちする。
思わず頬を染めたルルーシュは、その言葉の意味を正確に読み取り、頷いた。
着付けをするならば、ほんの少しだとしても、自然に体を近づけることが出来る。
その状態で話した方がスザクに怪しまれないと、そう考えての結論なのだろう。
ルルーシュの答えに満足したように笑うと、ライはくるりと振り返り、クローゼットの前に立つ2人に声をかけた。
「スザク、2着取ってくれ」
「わかった。どの色がいい?」
「似合わない色じゃなきゃどれでもいいよ」
「うーん。そう言われても……」
「じゃあこれ!これだろやっぱ!」
そう言ってリヴァルがクローゼットの中を示す。
これと言われても、ルルーシュとライからは距離があって、中が見えるはずもない。
リヴァルから濃い緑の浴衣を受け取ったばかりだったスザクが、横から中を覗き込んだ。
「これってどれだい?リヴァル」
「スザクは白だな!んで、ライが青で、ルルーシュが黒っ!」
「……なんか、まんま」
「んー?何か言ったかー?ライ」
「何でもないよ。じゃあ、それ取ってくれ」
「おうよー!」
返事と共に、リヴァルが2着の浴衣を投げる。
ばらばらに飛んできたそれを器用にキャッチすると、ライは軽く礼を告げ、くるりとこちらを振り返った。
「それじゃあ着方教えるから。とりあえず服脱いで、ルルーシュ」
その言葉に、再びルルーシュが頬を染める。
一瞬きょとんとしたライは、すぐにその意味に気づいたのか、くすくすと笑った。
「別に変な意味じゃないよ。ほら、着替えるんだろう?」
「あ、ああ」
言われるままに上着と黒のアンダー、そしてスラックスを脱ぐ。
そうしている間に、何故かライがすっと場所を動いた。
「?何をしている?」
「別に。気にしないで」
にこりと微笑む彼の行動の理由がわからず、首を傾げる。
しかし、こんな表情をしている彼に問いかけてもはぐらかされるということも既に理解していたから、ルルーシュは納得しないまま服を座椅子にかけた。
「じゃあ、これに腕を通してくれ」
「ああ」
言われるままに黒い浴衣に腕を通す。
右と左、どちらを前にするべきか悩んでいると、「貸して」とライが手を伸ばしてきた。
そのライが、先ほどからずっと必死にルルーシュの肌を見ないようにしていることに、彼は気づいていないだろう。
実のところ、先ほど立ち位置を変えたのも、スザクやリヴァルからルルーシュの肌を隠すためだった。
ライの中の葛藤に気づくはずもないルルーシュが、ライが帯を手に体を密着させたところで、他の2人に聞こえないように囁く。
「それで、さっきの件だが……」
「ごめん。本当に僕もカレンも知らなかったんだ」
「……まったく。あいつらは……」
「もしも横領があったら、あとでみっちり言い聞かせておくから」
「手加減はするな」
「了解」
ライが答えるのと同時に、ルルーシュの背からしゅっと布の擦れる音がした。
にっこりと笑ったライが、ルルーシュから体を離す。
「はい、ルルーシュ終わり」
その言葉に、リヴァルの背中に回って帯を結んでいたスザクが顔を上げた。
「うわ……。ライ、結構手際いいね」
「スザク、僕だって一応半分日本人」
「知ってるよ。はい、リヴァルも終わり」
きゅっと帯を結び終え、スザクが手を放す。
その途端、リヴァルは両腕を広げて自分の体を見回した。
「おおーっ!すげぇー」
「少し足が寒いがな」
「仕方ないよ、布一枚だから。それに、ルルーシュは昔着たことあるだろ、これ」
「あれ?そうなのか?」
バックの中から鳥の羽を模したチョーカーを取り出し、首にかけるルルーシュに、リヴァルが尋ねる。
「スザクの実家で祭をやったときに借りたんだ」
「祭?スザクんちって祭やんの?」
「うちは神社だったからね。縁日ってわかる?」
「おおっ!知ってるぜ!学園祭のときみたいな出店がいっぱい並んだお祭だよな?」
「うん。あんな感じ。懐かしいなぁ」
目を細めて語るスザクに、どこか寂しげな雰囲気を感じ、ライが目を細める。
そんな些細な変化に気づかないリヴァルは、目をきらきらと輝かせて身を乗り出した。
「風流があっていいって、前にカレンが言ってたんだよなぁ。なぁ、今度行ってもいいか?」
「あ~、ごめん。もうやってないんだ。7年前の戦争で、みんな家を出ちゃったから」
「あ……。悪りぃ……」
「気にしてないよ」
申し訳なさそうに身を竦めるリヴァルに、スザクはにこりと微笑む。
それでも居た堪れなさそうにしている彼に、今度はライが声をかけた。
「だったらリヴァル。今年の夏に特区に来るといいよ。この辺りのお祭、特区の中で復活させることになってるから」
「マジっ!?行く行くっ!行きますともっ!みんなで行っていいよな!」
「もちろん。カレンも喜ぶし」
「ライ、ナナリーも連れて行っていいか?」
「もちろん。なんなら僕らで案内するよ。な?スザク」
「え?あ……、うん。もちろん」
ライが笑顔を向ければ、ぽかんとしていたスザクも笑顔で答える。
それにほっと表情を緩ませたルルーシュは、畳み終わった私服をバックの上へと置いた。
「さてと。スザクは終わったかい?」
話をしながら着替えていたライが、帯を結び終わると同時にスザクに声をかける。
「うん。ライも終わったね」
「ああ」
「なら行こうか。女性陣もそろそろ用意が終わるだろう」
「ルルーシュぅ。お前は早くナナリーの浴衣が見たいだけだろ?」
「そう言うリヴァルは会長の浴衣だろ?」
「うぐ……っ!ラ、ライはカレンのだろ?」
涼しい顔で指摘され、リヴァルは無理矢理ライに話を振った。
けれど、普段黒の騎士団でいろいろと鍛えられているライが、それくらいで動じるはずがない。
「さあ?どうかな。スザクは?」
「みんなそれぞれ可愛いと思うよ」
「同感」
「だが一番はナナリーだ」
「ルルーシュらいしなぁ」
はっきりと自身の見解を告げれば、ライがくすくすと笑う。
「このシスコン~」
「何か言ったか?リヴァル」
「何でもないですよぉ~」
ぎろりと睨みつければ、リヴァルはぷいっと視線を逸らし、口笛を吹いた。
いつもどおりのそのやり取りに、スザクとライがくすくすと笑う。
「でも、みんなはどんな柄だろうね。ちょっと楽しみかも」
「へぇ。スザクの口からそんな言葉が出る日が来るなんて思わなかったよ」
「ライに言われたくない」
「いいから行くぞ、お前たち」
そのままいつもの調子で話をしながら、部屋を出る。
「ああっ!ちょっと待てよっ!」
1人置いて行かれそうなったリヴァルも、慌ててそれを追いかけた。