Encounter of Truth
02
「そういうわけで、すまないが、ユフィ」
「ええ、かまわないわ」
行政特区日本の政庁の一室。
ユーフェミアの私室であるその場所で、ゼロの衣装を纏ったルルーシュは部屋の主と向き直っていた。
人払いは済んでいるため、ゼロの仮面は外している。
侍女が退室する前に入れていった紅茶を口にし、ユーフェミアが微笑む。
ほんの少し困ったような、けれど慈愛の込められたそれは、ルルーシュの好きな笑顔だった。
「ルルーシュがいないのに、スザクたちにも休まれてしまうと、ちょっと厳しいかもしれないけれど、ナナリーのためですもの」
くすくすと笑うユーフェミアは、秋の学園祭以来会っていない少女の姿を思い描き、微笑む。
柔らかな、本当に優しい笑顔で。
「楽しみにしているんでしょう?ナナリーも」
「ああ。話をしたら、すごく嬉しそうだった」
昨日のナナリーの姿を思い出したルルーシュの顔に、自然と笑みが浮かぶ。
それを見たユーフェミアも、楽しそうに笑った。
「ふふっ。あなたも相当嬉しそうよ、ルルーシュ」
「……まあな」
一瞬驚きの表情を浮かべたルルーシュは、けれどすぐに柔らかな笑顔を浮かべた。
「ナナリーと旅行に行けるなんて、なかなかないから」
「それだけではないのでしょう?」
「ん?」
「ライやカレンさん、他の皆さんと遊びに行くの、すっごく楽しみにしている顔です」
「な……っ!?ユ、ユフィっ!?」
「ふふっ。ごめんなさい」
途端に顔を真っ赤に染めたルルーシュを見て、ユーフェミアは楽しそうに笑った。
「……兄をからかうんじゃない」
あまりにも楽しそうな異母妹に対して、ルルーシュが言えたのはそれだけだった。
ぷいっと、まるで子供のように視線を逸らしたルルーシュに、ユーフェミアの笑いがますます大きくなる。
ぎろりと睨みつけるルルーシュにもう一度謝ると、一度深く深呼吸をしてみせた。
「でも、嬉しいわ」
「ん?」
「ルルーシュが、そうやって笑うようになってくれて」
「え?」
にこりと微笑むユーフェミアの言葉の意味がわからず、聞き返す。
ユーフェミアの表情に、僅かに影が落ちた。
それに驚いている間もなく紡がれたのは、ほんの少し寂しそうな言葉。
「だって、再会してからのあなたは、ずっと思いつめた顔をしていたんですもの」
そう言って笑うユーフェミアの表情は、声と同じように寂しそうで。
何か言おうと口を開くけれど、どうしても言葉にならない。
かけるべき言葉が見つからなくてぐるぐると考え込んでいると、ふいに目の前からくすっと笑う声が聞こえた。
顔を上げれば、先ほどまで寂しそうな表情をしていたユーフェミアは、もうその表情を消し去り、綺麗に微笑んでいた。
「特区に参加してくれて、一緒にやっていくようになってから、ルルーシュの笑っている顔がよく見られるようになって、私は嬉しいです」
「ユ、ユフィ……。からかわないでくれ」
「からかってないわ。本心よ。これも、2人のおかげかしら?」
常にゼロの傍に立つ、2人の騎士。
紅色の少女と、銀色の少年。
ゼロの正体を、過去を、持っている力を知った上で、ゼロを信じる、黒の騎士団の双璧。
ゼロである彼も、ルルーシュである彼も守ろうと全力を尽くす2人の姿を思い浮かべ、ルルーシュは微笑む。
「ああ。2人のおかげだ。カレンと、……ライの」
自分と同じ力を持つ、銀色の少年。
彼がいなければ、この未来はなかっただろう。
暴走したギアスにかかったユーフェミアは日本人を虐殺し、きっと取り返しのつかないことになっていた。
それを同じギアスの力で止めてくれたのは、ライだ。
ライがいたから、今の現実がある。
大切な異母妹と手を取り合い、進んでいける、優しくて暖かい現実が。
「ルルーシュってば、本当にライのことが好きなのね」
「え?」
「だって、すごく優しい顔してるわ。ナナリーのことを話しているときみたいに。カレンさんのことを話しているときも優しい顔をしているけれど、それ以上みたい」
「ユ、ユフィっ!?」
顔を真っ赤に染めて慌てるルルーシュを見て、ユーフェミアは楽しそうに笑う。
暫く怒っていたルルーシュは、けれど楽しそうな異母妹の笑顔に折れ、大きなため息をついた。
「旅行、楽しんできてくださいね。私は大丈夫。一週間くらいゼロがいなくても、精一杯がんばるわ」
「……ああ。ありがとう、ユフィ」
笑顔でそう言ってくれるユーフェミアに、ルルーシュも柔らかな笑顔を浮かべて応えた。