Encounter of Truth
19
民宿占領事件から数日が経った。
特区の執務室で、ルルーシュは窓から外を見下ろしていた。
この部屋とゼロの住居を兼ねた扉続きの部屋の窓はマジックミラーになっていて、外から部屋の中を覗くことは出来ない。
これは、特区設立前からゼロの正体を知っていたユーフェミアの配慮によるものだ。
仮面をず外していても、外から正体を見られてしまう心配はなかった。
ちょうどこの窓の反対側にある扉のブザーがなる。
相手を確認して許可を出すと、扉が静かな音を立てて開いた。
「失礼します、ゼロ」
入ってきたのはカレンとライだ。
扉が完全に閉まったのを確認すると、ルルーシュは振り返った。
「全員揃ったわ」
「そう、か……」
目が合った途端にされた報告に、視線を床に落とす。
その様子にため息を吐き出したカレンは、少し迷うように視線を動かした後、共にやってきたライへと顔を向けた。
「言われたとおり、ディートハルト以外の幹部は全員集めたけど、よかったの?」
「彼には、言わない方がいい気がしたからね」
「……そう」
はっきりとそう言ったライに、カレンが複雑そうに答える声が聞こえた。
今日、2人に幹部を集めてもらったのは他でもない。
ゼロの正体を、特区の上層部限定で明かそうという理由からだった。
あの民宿で、友人たちと扇たち、そしてコーネリアに正体がばれた以上、このまま隠しておくことは出来ない。
ならば全部話して、その上で決めてもらおうと、そうルルーシュに提案したのはライだった。
「桐原老と神楽耶様も?」
「ええ。先ほど到着されたみたい」
ルルーシュが尋ねれば、カレンははっきりと頷いた。
「ブリタニア側は?」
「スザクの上司2人と、コーネリアの騎士と、えっと、ダールトン将軍が来てるわ。あとは全員あの日のメンバーよ」
ブリタニア側の出席者の選定は、全てユーフェミアに任せた。
彼女が呼んだのがその4人だというのなら、きっと彼らは信用できるのだろう。
そう思うけれど、なかなか足を踏み出せない。
その感情を、今の自分はよく知っていた。
「行けるかい?ルルーシュ」
「……ああ」
ライが心配そうに顔を覗き込んでくる。
それに短く答えると、ルルーシュは仮面を取った。
それを被ると、いつも通りの足取りで執務室を出る。
何も言わなくても、2人は後をついてきた。
ひとつ下のフロアにある会議室へと向かう。
その扉の前で足を止めると、小さく深呼吸をした。
「ライ」
名を呼べば、すぐ傍にいる彼は頷き、パネルを操作して扉を開いた。
「お待たせしました」
先に部屋に入った彼が、中にいる者たちに声をかける。
その声に、全員の視線が、一斉にこちらに向けられた。
「ゼロ」
扇が、少し戸惑ったような声で名を呼ぶ。
入り口の傍の席にいた彼の周りには、あの日民宿にいた旧扇グループの面々がいた。
そのすぐに後ろに藤堂と四聖剣、神楽耶と桐原、ラクシャータが腰を下ろしている。
ブリタニア側の人間は、通路を挟んで反対側にいた。
ユーフェミアとコーネリアが最前列に座り、その傍にその騎士ギルフォードとダールトンがいる。
その後ろにスザクの上司だという研究者2人が座り、そこから少し開けて生徒会の面々とナナリー、咲世子が座っていた。
スザクだけは、一番後ろの席にいた。
「これは一体何の集まりなんだい?特区と関係ない人間もいるようだけど?」
「騎士団ではなくブリタニア側の人間まで、説明してほしいのだが?」
一向に口を開かないこちらに痺れを切らしたのか、朝比奈と千葉が、訝しげな表情でこちらを見る。
千葉に至っては、睨んでいるようにすら見えた。
「そのためにゼロは皆さんを集めたんですよ、おふたりとも」
ライが、その顔に薄い笑みを浮かべて2人を制する。
2人が渋々口を閉ざしたのを確認すると、彼は室内を見回した。
「まず、そちらの学生組は、先日のテロ事件に巻き込まれた僕とカレン、スザクの友人たちです」
ライの言葉に、あの場に居合わせなかった者たちが後ろを振り返る。
一斉に視線を受けた友人たちは、一瞬体を硬直させたように見えた。
一番前に座ったミレイが、軽く会釈をする。
戸惑う彼らに、ライが安心させるように微笑みかける。
リヴァルやシャーリーが少しだけほっとしたように力を抜いたのを見ると、ライは再び口を開いた。
「彼女たちとコーネリア総督に来ていただいたのは、あのとき、彼らがゼロの正体を知ってしまったからです」
はっきりとそう言ったライの言葉に、室内から驚きの声が上がった。
「へえ。じゃああのとき、ゼロはあの旅館にいたってことだねぇ」
スザクの上司らしい眼鏡の研究者――確か、名をロイドと言ったか――が、感心するしたような口調で言った。
「休暇を取って温泉旅行かぁ。いい身分だねぇ」
「す、すみません」
朝比奈の言葉に、扇が反射的に謝罪をする。
その言葉に、朝比奈が扇を見てにやりと笑う。
おそらく、彼は本気でその言葉を口にしたわけではないのだろう。
そんなことを聞いていると、不意にラクシャータが口を開いた。
「つまり何ぃ?もしかして、ゼロの正体を教えてくれるってわけぇ?」
その言葉に、体が震えそうになるのを、マントの下に隠した拳を力一杯握り締め、耐える。
今にも震えそうになる声を必死に律して、一言だけ答えた。
「……そうだ」
その言葉に、あの日民宿にいなかった者たちが驚きの表情を浮かべる。
扇グループにはライが口止めをしていたと聞いていたけれど、ブリタニア側の者たちも同じ表情をしたということは、コーネリアもスザクも 彼らに話をしていなかったということか。
「よいのか?ゼロ」
ふと、耳に届いた声に、ルルーシュは顔を上げた。
視線を向ければ、桐原が真っ直ぐにこちらを見ていた。
「桐原翁……」
「そなたの正体、知られれば特区は崩れるやもしれん」
その言葉に、神楽耶と四聖剣が驚いたように桐原を見る。
疑問を宿した彼らの視線には答えることなく、桐原は目を伏せた。
「儂は、墓場までそなたの秘密を持っていくつもりじゃった」
「まあ。では桐原。あなたはゼロ様の正体を知っているんですの?」
「ああ、知っておる」
神楽耶の問いに、桐原は目を伏せたまま答えた。
その表情に、彼女は困惑したようにこちらを見る。
何となくその目を見るのが戸惑われて、ルルーシュは仮面の下で視線だけを彼女から逸らした。
「私も、そのつもりだった」
最初は、特区設立前にゼロの正体を知った者たちに以外、自分の正体をばらすつもりはなかった。
ライがユーフェミアを救い、特区が成立したあの日から、ずっとゼロを演じ続けていくつもりだった。
「しかし、コーネリア総督に顔を見られた以上、黙っているわけにもいきますまい」
コーネリアに、ユーフェミア以外のブリタニア皇族に、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが生きていると知られてしまった以上、このままではゼロを演じていくことは出来なくなるとわかっていた。
姉は、絶対に自分とナナリーを本国へ連れ戻そうとするだろう。
ゼロを続けて行くにしても、正体を公表する他に手段はないのだ。
「そうか……。そうじゃの」
桐原もそれがわかったのか、小さく息を吐き出すと、諦めたように目を閉じる。
ずっと協力してくれた彼に心の中で謝罪を告げると、ルルーシュは仮面に手を伸ばした。
「私は……」
その仮面を取ろうとした、そのときだった。
「ゼロ」
不意に、名前を呼ばれた。
仮面から手を放し、声のした方向を見れば、そこには真っ直ぐにこちらを見る銀髪の少年。
「ライ?」
「先に言っておく」
そのタイミングで何だと不思議に思い、名を呼べば、彼はこちらを見たまま、いつもより強い口調で口を開いた。
「もしもこの件で君がここにいられなくなったとしても、僕は君についていく」
はっきりとそう告げられた言葉に、ルルーシュは仮面の下で目を見開く。
「ライ?」
扇が戸惑ったように彼に声をかける。
一瞬だけそちらに視線を向けたライは、けれどすぐに真っ直ぐな目をこちらに向けた。
「前にも言ったよ。君のいる場所が僕の居場所だ。僕にとっては、黒の騎士団も、君がいないのなら意味がない」
はっきりと言ったその言葉に、黒の騎士団の面々が驚くのが目に入る。
彼らだけではなく、ブリタニア側の者たちも、驚いたような表情を浮かべていた。
「わ、私も!」
沈黙ではないけれど、騒然としたわけでもない妙な空間。
その空間を破るかのように、声が響いた。
驚いてそちらを見れば、ライの傍に立ったカレンが、真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「私も、あなたがいなくなるのなら、ついて行きます!」
「カレン!?」
カレンの宣言に、扇が驚きの声を上げる。
小さく黄色い悲鳴も聞こえた気がしたが、それは気のせいだと思うことにする。
それが幻聴だったかと思うくらい自然に、隣に立つライがカレンへと視線を向け、尋ねた。
「カレン、君には家族がいるだろう」
「そうだけど、でも決めたもの」
真っ直ぐにライを見てそう告げた彼女は、その空色の瞳をこちらに向けると、はっきりと口を開いた。
「私はゼロを守るの。仮面の彼も、仮面を取った彼も。だから、ゼロがここにいられなくなるなら、私も一緒に行きます」
大切な母親よりも、ゼロを守る。
そう宣言するカレンの言葉に、ルルーシュはますますその目を見開く。
「ライ……。カレン……」
名を呼べば、ライは薄い笑みを浮かべ、カレンはじっとこちらを見つめる。
「……ありがとう、2人とも」
仮面の下で呟いたその言葉は、2人に届いただろうか。
一度伏せた視線を上げると、ルルーシュはユーフェミアへと顔を向けた。
ルルーシュの視線が自分を見たことに気づいたのか、ユーフェミアは頷く。
それに小さく頷き返すと、ルルーシュは今度こそ仮面に手をかけた。
何かが外れるような小さな音がして、仮面が外れるようになる。
後ろ部分が格納されたそれを外すと、ルルーシュはゆっくりと顔を上げた。
「え……」
「ひゅう」
顔を曝した途端、誰かが声を漏らす。
「こ、子供……?」
「スザク君やそこの2人と同じくらいかな?」
首を傾げてそう尋ねたのは、ロイドだ。
「そのとおりだ」
彼の問いに、ルルーシュははっきりと答える。
「俺は、アッシュフォード学園の学生だ」
アッシュフォード学園。
黒の騎士団の面々も、その学園の名は知っている。
カレンとライが通っている場所が、そうだったはずだ。
「ってことは、ブリタニア人か!?」
「ブリタニア人が、何故反ブリタニア組織など……」
卜部と仙波が驚きの表情で声を漏らした。
それは、きっと藤堂や神楽耶も感じている疑問だろう。
それに答えようとするよりも早く、がたっと椅子の鳴る音がした。
発生源へと視線を向ける。
そこには、顔を伏せたまま立ち上がったコーネリアがいた。
「何故だ?ルルーシュ」
コーネリアがそのまま席から離れ、こちらに向かってやってくる。
彼女の行動を、ルルーシュはただ黙って見つめていた。
その姿が目の前に来た瞬間、視界がぶれる。
コーネリアが、ルルーシュの胸ぐらを掴み、思い切り引き寄せたのだ。
「何故お前がゼロなど……、何故クロヴィスを殺した!?」
思い切り睨みつけられたまま怒鳴りつけられる。
怒りを瞳に宿す異母姉を、ルルーシュはただ見つめていた。
「姫様!?」
「総督!?」
突然のコーネリアの、暴挙とも取れる行動に、彼女の騎士と側近が驚いたように立ち上がる。
「お姉様!!」
「ユフィ」
姉の暴挙を止めようと、ユーフェミアが立ち上がろうとしたそのとき、漸くルルーシュは声を発した。
コーネリアの向こうに見える彼女に視線を向ける。
「ルルーシュ……」
その声と視線に、ユーフェミアはそのまま口を噤んだ。
心配そうな表情を浮かべる彼女に薄く笑みを向けると、ルルーシュはその視線をコーネリアに移す。
「もう、察しはついているのではないですか?姉上」
コーネリアに向けて、尋ねる。
「え?」
「姉上……って、ことは……」
その言葉を聞き取ったのか、あの日、あの旅館に居合わせなかった者たちが何かを呟くのが聞こえた。
その声には答えることなく、ルルーシュはその紫玉の瞳で真っ直ぐにコーネリアを見つめていた。
どれくらいの時間が流れただろうか。
やがて、ルルーシュの服を掴んでいた手から、ほんの少しだけ力が抜けた。
「……復讐か」
「そうです」
絞り出すようなその声に、ルルーシュははっきりと答える。
その紫玉の瞳に、ほんの僅かな怒りが浮かび上がる。
「俺と、我が妹ナナリーを日本に売り、見殺しにしたブリタニアへの復讐のためでした」
睨むようなその瞳が、ほんの僅かに揺れる。
自嘲のような色を持ったそれは、コーネリアの向こうにいる異母妹へ向けられた。
「こんな形で、ユフィに阻止されるとは思っていませんでしたけど」
どこか力の抜けた、諦めたようなその声に、ユーフェミアがほんの少しだけ悲しそうに眉を寄せたのが見える。
彼女にそんな顔をさせたいわけではなかった。
けれど、その状態では慰めになど行けなくて、ルルーシュは申し訳ない気持ちと共に彼女から視線を外す。
「まさか……」
ふと、聞こえてきた声に視線を動かした。
見れば、そこには驚きの表情を浮かべている藤堂がいた。
「君は枢木神社にいた……?」
「藤堂さん、覚えているんですか?」
思わずと言った様子でそう尋ねたのはスザクだ。
その言葉に、神楽耶が驚いて後ろを振り返り、桐原が視線を逸らすように目を伏せた。
それを視界の隅に止めながら、ルルーシュはもう一度目の前のコーネリアへと視線を戻した。
「俺は、あなたたちブリタニアが切り捨てたマリアンヌ皇妃の子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」
はっきりと告げたその言葉に、驚きの声が上がる。
「ゼロが……」
「ブリタニアの、皇子……」
聞こえるその声は予想どおりだった。
胸が痛むわけではない。
けれど、何故か酷く苦しい気がした。
「そして、私が」
耳に届いた声に、ルルーシュは目を見開く。
その声は、このタイミングで発せられるはずのない声だった。
室内の全員が声の主を振り返る。
そこには、車椅子の少女がいた。
「私がルルーシュ兄様の妹、ナナリー・ヴィ・ブリタニアです」
はっきりとそう名乗った彼女に、ルルーシュはコーネリアに服を掴まれたままなのも忘れて叫んだ。
「ナナリー!?ここでお前が名乗り出る必要は……」
「いいえ、お兄様」
ルルーシュの言葉に、けれど、ナナリーは首を振る。
瞼が閉じられたままのその顔が、真っ直ぐにこちらへと向けられる。
「あの日旅館にいた黒の騎士団の皆さんは、もう知っていることです。それに、お兄様ひとりに全部押し付けるなんて、ナナリーは嫌です」
はっきりとナナリーは告げる。
その姿は神々しく、力強かった。
おそらく、その目が開いていたのなら、瞳には強い光を宿していただろうと思うほどに。
「お兄様が全てを打ち明けてくれた日に、私も、お兄様と共に歩くと決めたのですから」
その言葉もどこまでも力強かった。
「ナナリー……」
呆然とその名を呼びながら、ルルーシュは思う。
この子は、いつのまにこんなに強くなったのだろう。
その姿に思わず見入っていると、不意にナナリーはにこりと笑った。
「それに、いざとなったら、ライさんとカレンさんが守ってくださいます」
その言葉に、ルルーシュは思わず目を丸くする。
「うん」
「もちろんよ!」
一拍置いて聞こえた答えに、思わずその主を見た。
ライとカレンは笑顔を浮かべ、ナナリーを見つめている。
「ちょっと君たち。彼らはブリタニア皇族だよ?わかってる?」
「元、ですし」
朝比奈の問いに、ライはあっさりと答える。
「それに、桐原翁がルルーシュをブリタニアの敵と認めて、黒の騎士団への支援を強化して下さったのは事実です」
正体を明かした後に話した、あの、初めてキョウトに呼ばれたフジヤマプラントでの行動の真実。
それを、ライは告げる。
「そうじゃ」
その彼の意図を察したかのように桐原が口を開いた。
「儂はその者が幼い頃からブリタニアを憎んでおることを知っておった」
桐原の言葉に、騎士団の面々が驚いたように彼を振り返る。
隣に座っていた神楽耶も、その翡翠の瞳を丸くして彼を覗き込んだ。
「桐原。あなたは、ゼロ様とお知り合いだったのですね」
「あなたも一度くらいはお会いしたことがあるはずですぞ、神楽耶殿」
「え?」
桐原の言葉に、神楽耶はわからないとばかりに首を傾げた。
「彼らは、戦前にブリタニアから人質として日本に送られてきたのですから」
その言葉に、神楽耶は小さく驚きの声を上げる。
ユーフェミアとスザクが、彼らから視線を逸らしたのが目に入った。
自分の目の前にいるコーネリアすらも、思うところがあるのか、その視線をルルーシュから逸らす。
軽く息を吸うと、ルルーシュはそのコーネリアを睨むように見つめたまま、口を開いた。
「ブリタニアは、俺とナナリーがいるのにも構わず、日本に戦争を仕掛けてきた」
「それは……」
「ちょうど良かったですよ、姉上」
困惑した表情のまま、言い訳でも口にしようとしたらしいコーネリアに向けて、ルルーシュは笑みを浮かべてみせる。
「あの戦争を利用して、『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』と『ナナリー・ヴィ・ブリタニア』は死んだことにできた」
「何故そんなことを……」
「生きて宮殿に戻ったとして、あの場所に俺たちの居場所などない!」
思わずと言った様子でコーネリアが尋ねた瞬間、ルルーシュは叫んだ。
勢いよく腕を振り、胸ぐらを掴んだままのコーネリアの手を振り払う。
そのまま数歩後ろに下がると、彼は怒りを宿した瞳でコーネリアを睨みつけた。
「母が暗殺され、一度人質に出された俺たちなど、戻ったところでまた政治の道具にされるのはわかっていた!そんな場所に戻ることなどできるものか!!」
「そんなことは……」
「させないと言えるのか!お前たち皇族は、皇帝の決定には逆らえないだろう!!」
否定をしようとしたコーネリアの言葉を、ルルーシュはばっさりと切り落とす。
図星なのか、コーネリアは口にしようとした言葉を思わずと言った様子で飲み込んだ。
返す言葉をなくした彼女を睨みつけ、ルルーシュは語り出す。
「終戦後に日本に来たアッシュフォード家。母の後ろ盾だったあの家に頼んで、俺たち兄妹は死亡したと発表してもらった。そのあと、俺たちは名を変えて生きてきた」
それは一部の者しか知らない自身の過去。
嘘に塗り固めて隠してきた、ルルーシュとナナリーの真実。
それを初めて聞いたリヴァルが、驚いたようにミレイを見る。
「じゃあ、会長がルルーシュたちのことを知っていたのは……」
「お祖父様から聞いていたからよ」
ミレイは、俯いていた。
答えるその声にも、いつもの覇気がない。
それに申し訳なさを感じながらも、表情には出さない。
そのまま、怒りを押し殺したような表情を浮かべ、ルルーシュはもう一度コーネリアを見た。
「姉上。先の事件の日、あなたは私に謝られましたね」
その問いに、コーネリアははっとルルーシュを見る。
あの民宿の事件のとき、コーネリアは確かにルルーシュとナナリーに謝罪をした。
ルルーシュたちの母マリアンヌを守れなかったことを。
「だが、俺は許さない。母を守らず、俺たちを捨てた皇帝を。その男に従う、お前たちブリタニアも!」
憎しみを込めた瞳で、ルルーシュはコーネリアを睨みつける。
その姿を、コーネリアは複雑な表情で見つめていた。
やがて、その唇が、重苦しく開く。
「それでゼロになったというのか……?」
「そうだ」
コーネリアの問いに、ルルーシュははっきりとそう答える。
けれど、次の瞬間その表情が崩れた。
「いや、もう『そうだった』と言うべきだな」
急に弱々しくなった声に驚いたのか、コーネリアはそれを隠そうともせずにこちらを見る。
その彼女から視線を外すと、ルルーシュはコーネリアの向こうにいるユーフェミアを見た。
目が合った瞬間、ユーフェミアは驚いたように、ほんの少しだけ目を見張った。
その顔を見て、息を吐き出す。
「俺は、ユフィに負けたのだから」
その言葉に、ユーフェミアは目を見開いた。
「ルルーシュ……」
自分を呼ぶその声には答えず、視線を逸らす。
彼女と手を取れたことが嬉しい。
その気持ちに嘘はない。
けれど、負けたと思うのはまた事実だったから、否定もしない。
ユーフェミアの、ルルーシュを呼ぶ声を最後に、室内に沈黙が落ちる。
誰も、何も言おうとも、尋ねようともしなかった。
だから、それが答えなのだと思った。
「咲世子さん」
呼びかければ、ナナリーの傍にいる彼女は顔を上げる。
「はい」
「ナナリーをこちらに」
「かしこまりました」
軽く会釈をして立ち上がった彼女は、困惑するナナリーの車椅子を押して傍へとやってくる。
不安そうに見上げるナナリーに、見えないとわかっていて薄く笑いかけると、ルルーシュは後ろを振り返った。
「ライ、カレン」
ずっとそこにいた、己の騎士を名乗ってくれる友人たちに声をかける。
ただじっと状況を見守ってくれた2人は、その声にこちらを見た。
「行くぞ」
「え?」
カレンが驚きの声を上げる。
目を細めたライに何も答えることなく、そのまま背を向け、扉に向かおうとしたそのときだった。
「お待ちください、ゼロ様」
静かに、けれどはっきりと室内に響いた声。
その声に、ルルーシュは思わず足を止めた。