Encounter of Truth
18
ゼロとライがテロリストたちを制圧し、軍と黒の騎士団が宿の中に入ってくる。
2人やカレンが指示をしたのか、宴会場にやってきた黒の騎士団の団員によって漸く解放されたミレイたちは、彼らに促されるまま、扇たちと共に外に出た。
その途端目に入った紅いナイトメアの足下に見知った姿を見つけ、ミレイは声をかける。
「ライ!カレン!」
呼びかければ、2人は顔を上げ、安心したような表情を浮かべた。
「会長、みんな」
「2人とも、怪我はないの?」
「ええ、おかげさまで」
駆け寄って尋ねれば、ライはにこりと笑って答える。
その横で、カレンが心配そうにこちらを覗き込んできた。
「みんなも大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」
笑顔で答えれば、カレンはほっとしたような表情を浮かべる。
確認は、それだけで十分だった。
「びっくりしたわよ!てっきりライたちが外に行ったと思ってから……」
「すみません」
茶化すようにそう責めてみれば、ライが困ったように笑う。
「敵を欺くにはまず味方から、じゃないですけど、もしもあそこに見張り以外の敵が潜んでいたらという可能性を考えていたものですから」
「でも、せめて先に話しておいてほしかったけどね」
「ごめん、カレン。タイミングがなくて」
「まあ、いいけど」
カレンが拗ねたような表情でそっぽを向く。
どうやら、カレンには詳しい話はされていなかったらしい。
私だけ知らなかった、なんて呟きが聞こえたから、C.C.と呼ばれていたあの緑の髪の少女も知っていたのだろう。
「ライ、カレンさん」
背中からかかった声に、ミレイははっと振り返る。
そこには、先ほどコーネリアと共にブリタニア軍の方へ向かったはずのユーフェミアがいた。
その姿を見たライが、ミレイに微笑んでから、彼女の前へと進み出る。
「ユーフェミア総代表。みなさんも、ご無事で何よりでした」
「あなたたちのおかげです、本当にありがとう」
ライが微笑んで話しかければ、ユーフェミアもにっこりと笑った。
傍でその姿を見ていたニーナが、ミレイの背に隠れるようにしてその笑顔に見惚れている。
彼女がこちらを見て、口を開こうとしたそのときだった。
「ユーフェミア総代表」
機械を通したような、くぐもった声が聞こえた。
びくりと体が震えてしまったのは、無意識だ。
振り返れば、そこには予想通りの人物――ゼロがいた。
「ル……」
「シャーリー」
思わず本当の名前で呼びかけようとしたシャーリーを、ライが名を呼んで止める。
「あ……、えと……」
はっと自分の口を両手で押さえたシャーリーは、困惑したように辺りを見回していた。
無理もない、と思う。
ミレイだって、彼女がいなかったら自分が同じ反応をしただろうと思っていた。
「ゼロ。駆けつけてくださってありがとうございます」
そんなシャーリーを見ていたユーフェミアは、何事もなかったかのようにゼロに笑いかけた。
「ご無事のようで何よりです。コーネリア総督も」
「……ああ」
ゼロの言葉に驚いて頭を見回す。
見れば、ユーフェミアから少し離れた場所にコーネリアが立っていた。
その目は、じっとゼロを睨みつけている。
その視線など気にもしていないという素振りで、ゼロは視線を自分の部下たちへと向けた。
「扇。お前たちの方は大事無いか?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
「そうか。ならばすまないが、藤堂たちと合流して手伝いを頼む」
「わ、わかった」
扇と呼ばれた男が、ゼロの言葉に頷く。
その返事がどうにも歯切れが悪いのは、きっとゼロの正体を知ってしまったからだろう。
気持ちは、わかる。
自分たちだって、まだ信じられていないのだから。
「行くぞ、みんな」
「あ、ああ」
扇と呼ばれた男が、部下たちを伴って黒の騎士団の団員だろう人たちが集まっている方へと走っていく。
それを見送ったゼロは、再びユーフェミアへと向き直った。
「総代表。あなたも……」
「ええ、わかっています」
ゼロの言葉に、ユーフェミアは頷いた。
そのままくるりと、ゼロを睨みつけてたままのコーネリアに向き直る。
「それではお姉様。わたくしはここで一度失礼いたします」
「専任騎士殿が見えている。総督は軍に合流されるとよろしいでしょう」
「……わかった」
優雅に一礼をしたユーフェミアの隣で、ゼロが告げる。
そう言われれば退くしかないと思ったのか、コーネリアは渋々と言った様子で頷くと、ゼロの示した方へと歩き出した。
それを見送ったユーフェミアは、安心したようにため息を吐き出した。
けれど、すぐにその表情を引き締めると、少し離れたところで遠巻きにこちらを見ていたスザクに向き直る。
「それでは、スザク」
「はい」
「お休みだったところを申し訳ないのですが」
「い、いえ。緊急事態です。自分もお供いたします」
「ごめんなさい、ありがとう」
ユーフェミアがにこりと笑ってそう告げると、スザクは困ったような顔をして首を振った。
それからミレイへと向き直る。
「すみません、会長」
「いいのよ。行ってらっしゃい」
笑顔でそう答えれば、彼は軽く頭を下げ、歩き出したユーフェミアと共に特区から来た軍の方へと歩いていく。
その姿を見送っていたライが、ふいにこちらを向いた。
「ミレイさん。僕たちも行かないとなので」
「そう、よね」
ライにそう言われ、思わず言いよどんでしまったのは、本当は聞きたいことがあったからだ。
けれど、特区の代表者を巻き込んだこんな事件があった以上、ライとカレンは黒の騎士団の一員として特区に戻らなければならない。
それは、わかっていた。
わかっていたけれど。
「ミレイさん」
ライに名を呼ばれ、はっと顔を上げる。
目が合った瞬間、彼は困ったような顔をして微笑んだ。
「ルルーシュの件については、後日ちゃんと説明の場を設けるように提案しておきますから」
周囲には告げられないように、小声で告げられたそれ。
その言葉に、ミレイははっと彼を見る。
目が合った彼はにこりと微笑むと、そのままゆっくりと頭を下げた。
「ナナリーを、お願いします」
それに習うようにカレンも頭を下げる。
ゼロだけは、2人のようなことをすることはなかった。
けれど、ちらちらとこちらを気にしているのが、何となく気配で分かる。
それを見た瞬間、ほんの少しだけ心が軽くなったような気がした。
「……ええ、わかったわ」
にこりと微笑んで答えれば、ライは満足したような表情で顔を上げた。
それにいたずらっぽく微笑み返せば、ますます満足したような笑みを浮かべる。
「それじゃあ」
「ええ。また学校で」
「はい。学校で」
軽く挨拶を交わすと、歩き出したゼロに従う2人に向かって手を振る。
歩きながら振り返った2人は、笑顔を浮かべて答えてくれた。
3人の姿が黒の騎士団員の中に消えてしまってから、ミレイはふうっと息を吐き出す。
「会長……」
見られてしまったのだろう、リヴァルが心配そうな顔で声をかけてきた。
「大丈夫よ」
そんな彼に向かってはっきりと答える。
くるりと友人たちに向けたその顔には、満面の笑みを浮かべて見せた。
「きっとルルーシュは話してくれるわ」
「そう、ですよね……」
「ルル……」
服を必死に掴んでくるニーナの頭を撫でながら、ミレイはにこりと笑った。