Encounter of Truth
14
テレビの中で、犯人たちのリーダーと思われる男が宣言する。
それを聞き、驚きの声を上げた玉城は、解放されたばかりの腕を振り上げると、畳を勢いをつけて殴った。
どんっという予想以上に大きなその音に、学生たちはびくりと肩を跳ねさせる。
「おいおいおい!冗談じゃねぇ!特区を壊してゼロを渡せってのかよ!」
「どうして?ゼロって日本人の英雄なんでしょう?」
「特区の成立前はね」
ニーナのおかしいと言わんばかりの問いに答えたのは、ライだった。
それに、シャーリーが不安そうに眉を寄せて尋ねる。
「どういうこと?」
「特区に反発している日本人にとっては、ゼロはブリタニアの犬に成り下がった敵でしかないってことなんだ」
静かに答えるライは、無表情だった。
紫紺の瞳は、ただ静かにじっとニュースを見つめている。
「ふん。あの仮面を引き渡せるならそれもよいかもしれんな……」
「お姉様っ!!」
ぽつりとコーネリアが呟いた。
その途端、ユーフェミアが勢いよく彼女へ顔を向け、睨みつける。
「なんてことを仰るんです!ゼロは、私の大切なパートナーなんですよ!」
「あんな男をお前のパートナーだと認めるわけにはいかん」
「お姉様……!!」
はっきりとそう口にする姉に、ユーフェミアは憤慨する。
謎の仮面の男――それも、元々はブリタニアの敵であった男だ。
コーネリアの気持ちは、ブリタニア人ならきっとわからなくもない思いだろう。
けれど、ゼロを指示する日本人にとっては、それは聞くだけで不愉快以外の何でもない。
ふいっとコーネリアから視線を外した井上は気にしないふりをしてテレビを見つめる。
「一体こっちは誰が来てるの?」
「あれは……藤堂将軍か。ということは、たぶん四聖剣の部隊か?」
扇のその言葉に、スザクがはっと顔を上げる。
「藤堂さんが……」
「たぶん神楽耶様の判断だろうな。ゼロは、今特区を留守にしているから」
驚く彼に、ライが簡潔に説明する。
ゼロがいない場合、特区運営の日本側の次の責任者は、キョウト六家の頭首である神楽耶となる。
だから、それは自然に浮かぶ推測だった。
「ふん。こんな時に己の身の安全のために出こない腰抜けが」
コーネリアもその可能性を考えていたらしい。
ライがそれを肯定した途端、彼女はこの場にいないゼロを鼻で笑う。
それを聞いたカレンが、ぎろりとコーネリアを睨みつけた。
「あんたねぇっ!!ゼロは出てこないんじゃなくって……」
「カレンっ!!!」
カレンが何か言いかけた途端、室内に怒声が飛んだ。
突然の、誰も予想しなかったそれに、その場にいる者のほとんどがびくりと体を震わせる。
「うるさいぞっ!!静かにしろっ!!」
その途端、襖の外から見張りの怒声が浴びせられた。
それに誰もがはっとそちらを見る。
けれど、襖は開かない。
それにほっと息を吐き出し、顔を上げたカレンはびくりと体を震わせる。
ライが、その冷たい紫紺を真っ直ぐに自分に向けていた。
「ご、ごめん」
「今日はちょっと迂闊すぎるぞ。気をつけてくれ」
「え、ええ。わかってるわ」
彼が何を怒っているのか知っているから、カレンは素直に謝る。
暫く彼女を見つめていたライは、不意に表情を緩めると視線をはずした。
そのまま困惑したように自分を見ていた扇たちへ顔を向ける。
「とにかく相手の目的はわかりました。ユーフェミア代表がこちらにいる以上、藤堂将軍も迂闊に手出しできないでしょう。ブリタニア軍なら尚更だ」
「なら、どうするんだ?」
「代表や総督もいらっしゃるし、このままってわけにも……」
「わかってます」
扇とスザクの言葉に、ライは頷く。
その口元が、ほんの僅かに持ち上がり、弧を描く。
「外から手を出せないなら、内側から何とかすればいい」
普段よりも、ほんの少し低い声で、はっきりと口にされたその言葉。
笑みすら含んでいたそれを聞いた瞬間、周囲のほとんどは目を丸くした。
ただ2人、カレンとルルーシュはため息をつき、ユーフェミアは苦笑を浮かべる。
この3人だけは、こんなライの一面を知っていた。
「……言うと思ったわ」
「なるほど!俺たちであいつらをとっちめてやるわけだな!」
「まあ、そう言うことになるかな」
呆れるカレンの横で、ライの言葉の意味を理解したらしい玉城がきらきらと目を輝かせる。
それにあっさりと答えると、ライは唖然とした表情で自分を見ている扇を、そしてユーフェミアを見た。
「よろしいですか?扇副司令。それに、ユーフェミア総代表」
その表情は、彼らがよく知り、生徒会の面々はあまり知らない表情。
黒の騎士団の総帥補佐としての彼の顔だった。
「えっと、俺は……」
「わかりました」
逡巡するように視線を彷徨わせた扇とは裏原に、ユーフェミアははっきりと答える。
その言葉に、コーネリアは僅かに目を見開いて彼女を見た。
「行政特区日本総代表、ユーフェミア・リ・ブリタニアとしてお願いします。黒の騎士団のみなさん、この事態の収集に協力してください」
真っ直ぐに自分たちを見て頭を下げたユーフェミアに、扇たちは目を丸くする。
いや、彼女が黒の騎士団に対して真摯な姿勢を取ってくれていることは知っていた。
けれど、作戦のときにこうやって頭を下げられたのは初めてで、その光景にただ困惑する。
「ユフィ……」
「ユーフェミア総代表……」
カレンとスザクも、ユーフェミアがコーネリアの目の前でそこまでするとは予想外だったのだろう。
カレンは少し驚いた顔で、スザクは目を丸くして彼女を見つめていた。
けれど、ライは表情を変えない。
それどころか笑みを浮かべると、はっきりとわかるように頷いた。
「了解しました。作戦指揮は任せていただいても?」
「お願いします、ライ。あなた以上の適任者はいないと思いますから」
「わかりました」
ユーフェミアに、ライはにこりと笑顔を返す。
その笑みを消すと、唖然とした様子でユーフェミアを見ていた扇を振り返った。
「扇さんもよろしいですね?」
ライに声をかけられ、扇は漸く我に返った。
「あ、ああ。うちの作戦補佐以上の作戦なんて、俺たちには考えられないからな」
慌てて笑顔を浮かべ、答える。
それに短く礼を告げると、ふと別の方向から視線を感じ、ライはそちらに顔を向けた。
「ライ……」
そこにいたのは、沈んだこちらを見る生徒会の友人たち。
不安というよりも自分を心配してくれているらしいその表情を見て、ライは柔らかい笑みを浮かべる。
「大丈夫です、ミレイさん。無茶はしませんから」
そう告げると、ライは彼女たちから視線を外し、捕まったときも取り上げられることのなかったウェストポーチを開いた。
その中から出てきた、小さな黒く薄いそれを見て、カレンは目を丸くした。
「それ、持ってきてたの?」
「いつ何が起こるかわからないしね」
それはライが黒の騎士団で使っているミニパソコンだった。
閉じるとB5サイズになるそれを、彼は会議や打ち合わせのときに持ち歩いていた。
バッテリーは特注品らしく、かなり長い時間充電せずに稼働する。
その端末のスイッチを入れると、彼は手早くディスプレイに何かを呼び出した。
そのまま、それを手のひらの上でくるりと回して扇たちの方へ向ける。
「これがこの宿の見取り図です。ここが正面玄関。こっちが僕らのいる大広間。その印が各所の非常口です」
画面を示しながら説明をしていくライを、扇たちはぽかんとした目で見つめた。
「いつのまにこんなものを……」
「ちょっと事情がありましたから、念のため用意していたんですが」
杉山の問いにあっさりとそう返すと、ふと、ライは手を止めた。
ほんの一瞬、視線が動く。
それは、すぐに彼自身の手元に戻されてしまって、何を見たのかは扇たちにはわからなかった。
「……まさか、使うことになるとは思いませんでした」
酷く小さな声で呟かれたそれに、傍にいたカレンが遣る瀬無さそうに表情を歪める。
それに気づいたのか、ライは彼女に顔を向けて困ったような笑みを浮かべると、肩を竦めて見せた。
「それで、どうするつもりなんだい?」
スザクの問いに、ライは表情を引き締める。
「連中は中に篭もって外に出てないようだね。そして、まさか僕らがこうやって自由に行動しているとも思っていない」
「そういえば、見張り入ってこないな」
「そっか。全員縛ってるから大丈夫だと思ってるんだ」
リヴァルとシャーリーが襖を見て呟く。
それに頷くと、ライは扇たちに視線を戻した。
「その隙をついて、連中の頭を押さえる」
油断している隙をつく。
作戦としては王道だろう。
だが、ひとつだけ問題があった。
「それはいいけどよぉ。あいつらの親玉ってどこにいるんだよ」
「そうだ。居場所がわからなければ、押さえるどころじゃないだろう」
見取り図をじっと見つめながら口にされた玉城の問いに、南がはっと顔を上げて尋ねる。
その言葉に、ライは唐突に室内を見回した。
暫くそうしてから、視線を南へと戻す。
「……ここには、僕たちしかいないですね」
「あ、ああ」
「他のお客さんや従業員って、どこにいると思います?」
この大広間の中の襖は全て開け放たれたままだ。
人が隠れられる場所など、前方に造られたステージの舞台袖以外にはない。
なのに、ここには自分たちしかいない。
ここは旅館だ。
他の客はもちろん、従業員だっていなければおかしい。
つまり、彼らはこことは別の場所に閉じこめられているということになる。
それに気づいたスザクが、いち早く画面を覗き込む。
「他に大きな部屋は、こっちの第二宴会場だね」
「ああ。こっちなら正面玄関方向にあるテラスにも出られるし、頭がいるならこっちだろう」
正面玄関の上のテラス。
そこは先ほど、テレビに映った犯人が要求を叫んでいた場所だ。
「たぶんだけど、あいつらは特区の関係者だけ隔離したかったんだ。だから僕らはこっちに連れてこられた」
「でもよ。特区と関係ない奴らもいるぜ?」
玉城がちらりと生徒会の面々を見る。
その途端、彼らはびくりと体を震わせた。
「玉城。僕とカレンの友人を睨みつけるな」
「悪ぃ……って、ライ。お前、何で俺だけ呼び捨てなんだって!」
「たぶん総代表たちと一緒にいたから関係者だと思われたんです。だから一緒にこっちに連れてこられた」
「なるほど……」
玉城の文句など軽く無視して、ライは説明を続ける。
無視された玉城は憤慨して大声を出そうとしていたが、間一髪吉田がそれを止めた。
「それは、すみません。私たちが声をかけてしまったばかりに……」
「そんな!ユーフェミア様のせいじゃありません!」
「そうそう。悪いのはあの真日本解放軍とかいう奴らなんだから!」
ニーナが慌ててそう言うと、リヴァルも慌ててフォローに入る。
それにお礼を告げるユーフェミアを横目で見ながら、ライは再び説明に戻る。
「この宴会場とこっちの第二宴会場は別棟です。正面玄関を改装したときにできたとか。制圧するための最短ルートは、この渡り廊下になります」
そう言ってライが示したのは、ここから一番近い渡り廊下だ。
もう一つの宴会場は、この宴会場から見て線対称の場所にある。
その渡り廊下を抜ければ、階段を上り下りすることもなく第二宴会場へ乗り込めるだろう。
「でも最短ルートだと敵も多いんじゃないかな?」
「ああ。だから一度下に降りて、ここを通るルートにするつもりなんだが……」
スザクの問いに、ライが見取り図の1階を示そうとしたそのときだった。
「待て」
その声に、ライはぴたりと手を止める。
その紫紺の瞳が、ほんの少しだけ見開かれたような気がした。
ごくりと、息を飲むように彼の喉が動く。
「そちらに行くならば、もっといいルートがある」
ライがそれが誰の者かをしっかりと認識するよりも早く、再びその声が耳に届いた。
その言葉に、ライの目の前で目を見開いて固まっていたスザクが、その主の名を口にした。
「ルルーシュ……!?」
その声に、覚悟を決めて振り返る。
そこにいたのはスザクが口にしたとおりの、そしてライが無意識に思い浮かべていたとおりの人物だった。
「ルルーシュ……」
その名をぽつりと呼ぶ。
一瞬こちらを向いた紫玉の瞳が、すまなそうに細められた、気がした。
「なんだよ。ガキが口出すんじゃねぇよ」
玉城の声を無視して、ルルーシュはパソコンの前へ回る。
少しの間それをじっと見つめていた彼は、唐突にその一点を示した。
「ここだ」
白く細い指が、真っ直ぐにある場所に向けられる。
それを見たスザクと、横から覗き込んだ井上が首を傾げた。
「ここ?」
「ボイラー室、よね?」
ルルーシュが示したのは、この宴会場の近くにあるボイラー室と書かれた場所だった。
それは渡り廊下とは逆の方向にあるうえに、目的の第二宴会場とは逆方向にあった。
しかし、ルルーシュは迷いことなく口を開く。
「ここに、実は見取り図に載っていない隠し通路がある」
「えっ!?」
はっきりとそう告げられたその言葉に、その見取り図を覗き込んでいた誰もが――これを用意したライでさえも驚く。
「この通路はこちらの従業員区画に繋がっているはずだ」
ルルーシュの指が画面を滑り、第二宴会場に近い部屋の上で止まる。
それを呆然と見つめていたスザクは、はっと目を瞠ってルルーシュの顔を見た。
「ルルーシュ。どうして君はそんなことを……?」
「俺が自分の行く場所について、何も調べないと思っていたのか?スザク」
ルルーシュの問いに、スザクは続けようとしていた言葉を飲み込む。
彼の素性を考えれば、それくらいの警戒や準備は否定や非難することなんてできないから。
「……ルルーシュ」
「まだ調べ方が甘いな、ライ」
「いいのか?」
にやりと笑うルルーシュを睨みように見つめ、ライは尋ねる。
その問いに、彼は薄く笑みを浮かべると、わざとらしく尋ねた。
「何がだ?」
「茶化すな。……戻れなくなるかもしれないんだぞ」
「わかっているさ。だが……」
ルルーシュの視線が動く。
僅かに細められた紫玉が、こちらを向いている異母姉に向けられる。
「こうなった以上、こうするのが一番の最善だろう?」
その一言だけで、ライはルルーシュの考えていることを理解する。
だからこそ、まだ少し戸惑いはあったけれど、迷うことはしなかった。
「……わかった」
「ちょっとっ!?いいの?」
ライがあっさりと承諾したことに驚き、カレンは声を上げる。
今、ルルーシュが自分の正体を明かすことに、カレンは反対だった。
ライも反対すると思っていたのに、あっさりと了承するなんて予想していなかったのだ。
「こんなこと言い出したルルーシュが、こっちの言い分を聞いてくれるはずないだろう。それに……」
ライの視線が動く。
それは、先ほどルルーシュの視線が向いた先――コーネリアへ向けられていた。
「そうしないと、ルルーシュとナナリーは皇室に連れ戻されるかもしれない」
「……っ!?そんなの……っ」
「ああ。それの方が許せないだろう?」
ライの言葉に、カレンは息を飲む。
確かに、このままコーネリアが、ルルーシュとナナリーをアッシュフォードに帰すとは思えない。
ユーフェミアに対する反応を見る限り、彼女は2人をブリタニアに連れ戻そうとするだろう。
アッシュフォードにそれを阻止する力を期待することは、きっとできない。
そうなれば、2人はブリタニア本国へ連れていかれてしまう。
そうなったら、もう一緒にいられなくなってしまう。
そんなこと、許せるはずなどなかった。
「……そうね。わかったわ」
カレンの空色の瞳が、いつもより冷たい色を宿してコーネリアを睨みつける。
相手と目が合う前に視線を逸らすと、怒った顔のままルルーシュに向かってびしっと人差し指を突きつけた。
「ただし、危ない真似はほどほどにしておいてよね!」
「気をつけるさ」
くすりと、くすぐったそうな笑みを浮かべ、ルルーシュは笑う。
その笑顔を見たカレンは、はああと大きなため息を吐きながら腕を下ろした。
「ルルーシュ、一体……」
「本当によいのですか?ルルーシュ」
訳がわからないと言わんばかりの表情でルルーシュを見つめていたスザクが、何かを尋ねようとする。
けれど、ユーフェミアが言葉を発した瞬間、彼は慌てて口を閉じた。
一瞬スザクを見たルルーシュは、何事もなかったように視線を外すと、ユーフェミアに向かって薄く微笑んだ。
「聞いていたとおりだユフィ。俺は今、皇室に連れ戻される訳にはいかない。その理由は、君もよくわかっているはずだ」
「ええ、わかっているわ。でも……」
「だからこそ、もうこれ以上隠してはおけない。それに……」
そこまで言うと、ルルーシュは一度目を閉じる。
再びゆっくりと開かれたその瞳が、ユーフェミアから外された。
「この先、何があってもライとカレンが守ってくれるからな」
傍に立っていたライとカレンを振り返って、ルルーシュは笑う。
一瞬きょとんとしたカレンは、すぐににっこりと笑った。
「当然よ」
「ブリタニア風に言うのなら、僕たちはルルーシュとナナリーの騎士だから」
はっきりと、ライがそう答える。
それを聞いた瞬間、声を上げたのは黒の騎士団の面々だった。
「ラ、ライ!?カレンっ!?」
「お、おい!ブリタニアの騎士なんて、正気かよっ!!」
扇が驚いて2人の名を呼び、玉城が2人を怒鳴りつける。
その声に、カレンは振り返らずに、視線だけで玉城を睨みつけた。
「黙ってて、玉城」
「黙ってられるはずねぇだろう!俺たちは黒の騎士団で……」
「玉城」
反論しようとした玉城の言葉をライが遮る。
その声に、玉城の体は無意識に震え上がっていた。
「何も知らないお前は、少し黙ってろ」
酷く冷たい声で、そう命じる。
行政特区設立の後、ライは記憶を取り戻したらしく、時折冷たい表情を垣間見せるようになってはいた。
しかし、ここまで――体が震え上がってるほど冷たい表情を見せたことはなかった。
「ラ、ライ……」
思わず玉城がライを呼ぶ。
そんな彼を一瞥すると、ライは興味を失ったように玉城から視線を逸らした。
「何だよ……。俺が何を知らないってんだよ」
ぶつぶと不満そうに文句を呟く玉城の言葉など、聞こえていないふりをする。
そんなやりとりを聞きながら、ユーフェミアは目を閉じる。
暫くの間そうしていた彼女は、やがてゆっくりと目を開けた。
「……わかりました」
ユーフェミアが、真っ直ぐにルルーシュを見る。
紫玉の瞳へ自分の瞳を向けたまま、口を開いた。
「今回の件、あなたに全てお任せします」
ユーフェミアがはっきりとそう宣言した。
「えっ!?」
「ユフィっ!!」
それに生徒会の面々と黒の騎士団が驚いて声を上げ、コーネリアが妹の名を呼んだ。
その声に、ユーフェミアは傍にいる姉へ顔を向けた。
「何でしょう?お姉様」
「わかっているのか?ルルーシュは民間人として暮らしてきたのだぞ?戦場に出すなど……」
「コーネリア総督」
ユーフェミアが、はっきりとした声でコーネリアの言葉を遮る。
突然総督と呼ばれた彼女は、思わず言葉を止めた。
ユーフェミアが彼女のことを『総督』と呼ぶことは、公の場以外ではほとんどない。
なのに、彼女は今、コーネリアを敢えて『総督』と呼んだ。
その薄い紫の瞳が、真っ直ぐにコーネリアに向けられる。
「何も知らず、気づこうともしなかったあなたは黙っていなさい」
「ユフィ……っ!?」
はっきりと告げられたその言葉に、コーネリアは驚く。
まるで、自分の方が愚かなのだと宣告するような、冷たい視線と声。
思わず妹の名を呼んだコーネリアに答えることなく視線を外したユーフェミアは、再びルルーシュへと向き直った。
目の前に立つ彼は、薄っすらとではあったが、穏やかな笑みを浮かべていた。
「ありがとう、ユフィ」
「いいえ。わたくしにはこんなことくらいしかできないもの」
礼を告げるルルーシュに、ユーフェミアは首を横に振る。
それでも、ルルーシュにとって、それは十分な支援だった。
今のこの段階でルルーシュが自由に動くには、どうしてもユーフェミアの了解が必要だった。
自分のしようとしている行動は、彼女にも迷惑をかけることだったから。
だからルルーシュはもう一度礼を告げる。
そうすれば、彼女は困ったようににこりと笑みを返してくれた。
「ルルーシュ、気をつけて。ライさん、カレンさん。ルルーシュをよろしくお願いします」
「はい」
「了解」
ライとカレンが、迷いを見せることなく頷く。
全てを知った上でそうしてくれる2人に、気づかれないように微笑むと、ルルーシュは顔を上げた。
「……ということだ。聞いていたな、魔女」
「ああ」
ステージを見て、呼びかける。
その途端、誰もいないと思っていたそこから答えが返ってきた。
はっきりとしたその声に、その場にいる、ルルーシュ以外の全員が驚く。
ただ1人、ライだけは呆れたように息を吐き出しただけだった。
ステージの袖にある扉がゆっくりと開く音がする。
「ちゃんと聞いていたぞ、ルルーシュ」
そこからゆったりとした足取りでステージの上に現れたのは、黒い服を身に纏い、両手に3つのボストンバックを抱えた1人の少女。
腰よりも長い碧の髪を持ったその少女は、その金の瞳をルルーシュへと向けると、薄い笑みを浮かべた。