月光の希望-Lunalight Hope-

Re;Stage

5.もう一度君と

3人の笑顔に囲まれたまま、ルルーシュは一度目を閉じる。
軽く深呼吸をして目を開けると、穏やかな色を浮かべた紫玉をスザクへ向けた。
「じゃあ、スザク。カレンたちに伝えてきてくれ。今はナナリーとダイニングにいるはずだから」
「わかった。あ、ニーナはどうする?」
「ロイドたちのところに。いざとなったら、彼らと脱出してもらう」
「了解。じゃあ、行ってくる」
軽く手を上げると、スザクは軽く足取りで部屋を出て行く。
扉が完全に閉まると同時に、その背を目で追っていたC.C.が息を吐き出した。
おもむろに歩き出したかと思うと、ベッドの下に腕を突っ込む。
「私も行くとするか。チーズ君を連れて行かなければならないからな」
「当たってたのか、それ」
取り出された黄色いぬいぐるみを見て、ライは驚きの表情を浮かべる。
前の世界では、気づいたときにはなかったそれ。
お気に入りのそのぬいぐるみを抱え、C.C.はにやりと笑った。
「ポイントの景品だからな。さすがに期間が短くて大変だったぞ」
「おかげでうちの家計は苦しいけどな」
「細かいことを言うな。500年ぶりの楽しみだ。ちょっとは楽しませろ」
「……わかったよ」
「珍しく素直だな。たまにはそういうのも可愛いぞ、ルルーシュ」
「かわ……っ!?」
楽しそうな笑顔で放たれた言葉に、ルルーシュは頬を赤く染めて絶句する。
それに楽しそうな笑みを零すと、C.C.はルルーシュが我に返る前に身を翻した。

「じゃあ、私はスザクと待っているとするか。手短に済ませよ、お前たち」

もう一度くすりと笑みを零すと、チーズ君を抱えたまま部屋を出て行く。
その声にルルーシュが我に返ったときには、既に碧の髪は扉の向こうに消えていた。
「……あの魔女め」
「いいじゃないか。C.C.らしくて」
思い切り舌打ちをしながら呟いた途端、隣から楽しそうな言葉が返ってくる。
くすくすと笑うライを、ルルーシュはぎろりと睨みつけた。
「ライ、お前最近C.C.に甘いぞ!」
「ごめん。彼女には苦労をかけたらしいから、頭が上がらなくて」
はっとルルーシュは目を瞠る。
扉を見つめたままのライは穏やかに微笑んでいたけれど、その目には僅かな痛みが浮かんでいた。
それを見てしまった瞬間、発してしまった言葉を後悔した。

「まったく……。ほら」

それを誤魔化すように、机の上に置いておいた銀の箱を手に取り、ライに向かって突き出す。
突然のそれに、さすがのライも反応できなかったらしい。
「え?」
「手を出せ」
きょとんとした表情を浮かべるライに向け、ぶっきらぼうに告げる。
素直に右手を出した彼の手に、銀の箱から取り出したものを握らせた。
手の中に生まれた、ひんやりとした感触。
それを不思議に思いながら手を開いた瞬間、ライの紫紺が大きく見開かれる。
そのままその瞳が、勢いよくルルーシュに向けられた。

「ルルーシュ……っ!これ……っ!」
「前はお前がくれたな。今度は俺が用意した」

箱の中からもうひとつ、同じものを取り出して、目の前に掲げる。
光を弾くそれを見て、ルルーシュはにやりと笑みを浮かべてみせた。

「俺たちの誓いの証だ」

彼の手からぶら下がっているのは、シルバーチェーンが通されたプラチナリング。
前の世界で、青月の日の後にライが用意し、ルルーシュに渡したものと同じペアリングだった。
紫のライトストーンが一粒だけはめ込まれたその内側には、やはりかつての指輪に彫られていたものと同じ文字が刻まれている。
ライの記憶の中では、完全に掠れてしまっていた、あの文字。
それが鮮明に浮かび上がっていることに、ライは胸がぎゅうっと締め付けられるような感覚を覚え、その指輪を抱き締めるように握り締める。
その姿を見て、ルルーシュは薄く微笑んだ。

「この指輪に、そして俺の全てにかけて誓うよ。俺は今度こそ、お前を1人しない。いつも、いかなる時も、お前の隣で歩き続ける。前の世界で、お前がそうしてくれたように。もう、お前を置いて逝ったりしない」

あの世界で、ライはずっと一緒にいてくれた。
卑劣な裏切り者として騎士団を追われた時も、迷わず追いかけてきてくれた。
世界に敵になろうとも、傍にいると言ってくれた。
それなのに、ルルーシュはライを置いていってしまった。
ルルーシュが独りにならないようにと、ずっと傍にいてくれた彼を独りにしてしまった。

だから、今度こそ誓う。
今度は、自分が彼にもらったいろいろなものを返す番だから。

「だから、また俺の傍にいてくれるか?」
「……ああ」

答えたライの声は、震えていた。
真っ直ぐにこちらに向けられた紫紺の瞳から。ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
それを軽く拭うと、ライは笑った。

「もちろんだよ、ルルーシュ。僕は、健やかなる時も病める時も、ずっと君の傍にいる。君を支え続ける。この指輪と、僕の全てにかけて誓う。今度こそ、絶対に」

ライの頬を拭いきれなかった涙が伝う。
新たに流れるそれを掬い取るように彼に頬に触れ、ルルーシュはふわりと笑った。

「……ありがとう、ライ」
「こちらこそ。ありがとう、ルルーシュ」

頬に触れた手を包み込んで、ライも柔らかく笑う。
手に触れるその温もりから、もう離れたくないと思った。
誰かに望まれることが、そんなにも嬉しいことだと知ったから。
今度こそ、彼と、そしてみんなと共に『明日』を生きたいと思った。

だから、今踏み出そう。
再び世界を壊し、世界を創るために。
彼らと――ライと共に生きる『明日』を手に入れるために。

「じゃあ、行くか。スザクとC.C.が待ってるしな」
「ああ」

名残惜しく思いつつも、ライの頬から手を放す。
けれど、温もりから離れてしまうことはなかった。
ライが、ルルーシュの手を掴んで握り込んだのだ。
途端に頬に熱が集まる。
おそらく自分の頬は真っ赤になっているだろう。
それすら満足そうに笑うから、結局ライを拒むことが出来なくて、ルルーシュは思わずため息をつく。
途端にライが不安そうな表情を浮かべたから、すぐににやりと笑い返してやった。
そうすれば、ライも不安を消して笑ってくれるから。
その笑顔を見て、ルルーシュも柔らかく微笑んだ。





もう二度と失くさない。
もうこの手を放さない。
誰かが――ルルーシュがいなくていい世界なんていらない。
彼がいることが当たり前の『明日』がほしい。

だから始めよう。
今度こそ、望む『明日』を手に入れるための反逆を。

だってルルーシュがいなければ、僕たちは笑うことなんてできないのだから。




2009.4.5~4.18 拍手掲載