絵空事の世界
後編
赤い部屋を、ルルーシュは必死に走っていた。
後ろから、ものすごい勢いで何かが追いかけてくる。
側にあった扉に飛びついて、手にした鍵を勢いよく差し込む。
それを回して、鍵を指したまま扉を開けると、そのまま中に飛び込んで勢いよく扉を閉めた。
ばんばんと扉を叩く音がする。
けれど、追いかけていたそれは自力では扉を開けることができないらしく、扉を開けて入ってこようとはしなかった。
「は……っ、くそ……っ」
小部屋の中で膝をつく。
走ったせいだけではなく、息が苦しい。
「薔薇が……」
胸の薔薇へと視線を落とせば、それは数枚花びらを失っていた。
おそらく先ほどの部屋で、額縁から上半身のみを実体化させ、床を這いながら追いかけていた女に飛びかかられたときに散らしてしまったのだろう。
なんとか引きはがして床に落ちていた鍵を取り、この部屋に飛び込んだ
「く……っ」
妙に重い体を引きずって、奥の扉を開ける。
開いたところには、また通路があった。
扉の前に、花瓶が置かれている。
「花瓶……」
花など刺さっていないそれを覗き込めば、水がたっぷりと入っていた。
ふと、胸が軽くなったような気がして、胸元を見る。
今なら薔薇が取れるような気がした。
手を触れてみると、それはあっさりと抜ける。
それを花瓶に差し込んでみた。
水に活けると、その途端薔薇に変化が起こる。
花びらを散らし、生気を失いかけていたそれは、水を吸うとたちまち元の色を取り戻していった。
散ったはずの花びらが、萼の部分から再び生えてきた。
「復活した……。そうか。この薔薇は水に活けると蘇るのか」
十分に復活したそれを、花瓶から抜き取る。
どうしようかと一瞬考えて、再び元の位置に差した。
手に持っているよりはずっといいような気がしていた。
「こいつを散らされたときから息が苦しくなった気がするが……」
体に傷などない。
けれど、この花を傷つけられたそのときから、体に痛みが走った。
そして、薔薇が蘇った途端に、その痛みも消えていた。
『そのバラ朽ちる時 あなたも朽ち果てる』
この薔薇を見つけた花瓶の側の部屋。
そこに貼られていたあの言葉。
その意味は、つまり。
「う……」
そこまで考えたそのとき、耳に何かが届いた。
「なんだ?」
人の声のように聞こえたそれに、ルルーシュは辺りを見回す。
「誰かいるのか!?」
動く美術品たちである可能性も、考えていないわけではなかった。
けれど、それでも呼びかけたのは、そうではないような気がしたからだった。
何となく、その声には聞き覚えがあるような気がした。
「る、る……」
「この声は……まさか……!」
再び聞こえたその声は、やはり聞き覚えがあった。
声が聞こえた方へと足を進める。
暫くすると、先へ続く床の上に何かが見えた。
暗いその空間の中で、はっきりと見えるその髪の色と自分と同じ制服を見て、ルルーシュは思わず息を呑んだ。
「ライ!?」
思わず名を呼んで駆け寄る。
抱き起こしてみれば、間違いない。
倒れていたのは、同じ生徒会のメンバーであるライだった。
「ライ!どうしたんだ?しっかりしろ!!」
揺さぶっても、ライが答える様子はない。
ただ苦しそうに顔を歪め、自身の胸を掴んで荒い息を吐いている。
「は……っ、ぐ……」
「ライ!」
あまりにも苦しそうなそれに、もう一度その体を揺さぶったそのとき、ライの体から何かが床に舞い落ちた。
壁も床も、何もかもが真っ赤な部屋の中で、それは妙に存在を主張した。
「青い花びら?」
ライの体から落ちたそれは、確かに花びらだった。
形状から察するに、おそらく薔薇の花びらだろう。
「まさか……」
それを見て、気づく。
ここに花びらがあるというのに、ライの周囲に青い薔薇は落ちていない。
はっと今やってきた道を振り返れば、先ほどは気づかなかったが、他にも花びらが落ちていた。
その花びらは、この廊下とは反対側の扉の方へと続いている。
つまり、ライは薔薇を奪われ、その犯人はあの扉の向こうへと去っていったのだ。
それに気づいたルルーシュは、ごくりと息を呑んだ。
その薔薇を取り返しに行くと言うことは、危険が伴う。
ライはかなり運動神経がよく、武術でも負けなしという成績を持つ。
それゆえに、学園で剣道部や柔道部が大会に出る際に欠員が出ると助っ人を頼まれる、ということも多々あった。
そのライが、あっさりと薔薇を奪われた。
彼に比べて運動神経がだいぶ劣る自分に、薔薇を取り返せるかどうかという不安はあった。
けれど、取り戻さなければ、ライはずっとこのまま。
もしくは……。
ライの体を抱く手に力が籠もりそうになる。
息を吐き出してそれを耐えると、彼の体をそっと床に横たえた。
「待っていろ。すぐ戻る」
一言そう声をかけ、立ち上がろうとして、ライの側に鍵が落ちていることに気づいた。
小さなそれを拾って立ち上がる。
そのまま目を向けたのは、床に落ちた花びらが続く部屋。
もう一度、深呼吸をするように息を吐き出すと、ルルーシュはその扉に向かって足を踏み出した。
ゆっくりと扉に近づいて、開ける。
慎重に覗き込んだ先には、何もいなかった。
薔薇の花も落ちてはいない。
周囲を見回すと、少し床の高くなっている場所に、空の花瓶を見つけた。
その周囲には、ルルーシュが薔薇を見つけたとき、近くに貼ってあった紙と同じ文章が書かれた紙が貼られている。
おそらく、ライはここで薔薇を手に入れたのだろう。
もう一度部屋を見回して、少し先に薔薇の花びらが落ちていることに気づいた。
その花びらの側には、入ってきた場所とは別の扉がある。
「この部屋か」
先ほど拾った鍵で施錠を解除し、ゆっくりと慎重に扉を開ける。
完全にそれを開いた瞬間、部屋の中に見えた光景に息を呑む。
そこには、先ほど自分を追いかけていた者と同じ、額縁から上半身だけを実体化させた女がいた。
無心に青い薔薇を毟っている青い服を着たそれは、ルルーシュの姿に気づくと、ぴたりと動きを止める。
その口元がにやりと笑ったかと思うと、手にした薔薇を投げ捨てて、こちらに向かって飛びかかってきた。
「うわあっ!?」
思わず声を上げ、勢いよく扉を閉じる。
扉が閉まった瞬間、向こう側に何かがぶつかる音がした。
おそらく、額縁の女が扉にぶつかったのだろう。
ばんばんと扉を叩くその音に、どくどくと心臓が鳴る。
扉を開かれないようドアノブを握ったまま、ルルーシュは鼓動と同様に早くなる息を吐き出した。
「あれがライの……?」
少しだけ冷静さを取り戻した思考で思い出す。
扉の向こうは部屋だった。
そうは広くない小部屋だ。
そして、先ほどの女は、自分に飛びかかってくる直前まで、何かを持っていた。
女の服と同じ色のそれは、きっとライの薔薇で間違いないだろう。
「しかし、どうやって取り返す?」
ルルーシュを見た途端、あの女は青い薔薇には興味を失ったかのようにこちらに飛びかかってきた。
おそらく今なら、あの薔薇は床に落ちていて、簡単に取り戻せると思う。
問題は、扉の前にいるだろうあの額縁の女を、どうやって回避するかだった。
ルルーシュは、どちらかというと運動は苦手な方だ。
足だって速いわけではない。
この狭い部屋の中に飛び込んでいったら、確実にあの女に捕まってしまうだろう。
「考えろ。あの狭い部屋で、あの女を撒くには……」
必死にその方法をシミュレートしようと、思考を巡らせ始めたそのときだった。
すぐ側で、ガラスの割れる音が響いた。
反射的にそちらを見れば、扉の側の小窓が割れていた。
そしてその小窓の下、少し離れた場所に、青い服を着た額縁の女がいた。
「な……」
思わず零してしまったその声に反応した目が、ぎょろりとこちらを見る。
その瞬間、ルルーシュの体に戦慄が走った。
「ほわあっ!」
目が合った瞬間、額縁の女が飛びかかってくる。
それを見たルルーシュは、反射的に背にした扉を開き、部屋の中に飛び込んでいた。
ほとんど反射とも言える勢いで、体当たりでもするかのように扉を閉める。
再び何が扉にぷつかるような音がして、ばんばんと目の前の扉が叩かれた。
ゆっくりと扉の側から離れる。
扉を叩く音は止まらないが、開けられる様子はない。
その様子を見て、ルルーシュはがくんと床に膝を突いた。
「は……っ」
一気に高まった緊張で詰まりかけた息を吐き出す。
ふと、視界に入ったものを見て、思わず眉間に皺を寄せた。
「あの椅子に乗って窓を割ったのか……」
最初に扉を開けたときには気づかなかったが、部屋の小窓の下に椅子があった。
おそらくあの額縁の女は、それに上って窓を破ったのだろう。
そして、ルルーシュのいた部屋に現れたのだ。
目の前の扉を開けようとするのではなく、わざわざ窓を破った。
そして今、扉を叩くだけで、一向に開けようとしない。
その動きで、気づく。
「扉は、開けられないようだな」
さっきの赤い服の女に襲われたときも、女は扉を開けて追ってこようとはしなかった。
だから、あくまで推測であるが、あの女たちはきっと扉は開けられないのだ。
扉の向こう側には、高い位置にある窓に手を届かせるような椅子はなかった。
あの花瓶のテーブルが使われてしまえば話は別だが、足がない彼女らではすぐには持ってくることはできないないだろう。
その事実に気づいて、ルルーシュはもう一度息を吐き出す。
ゆっくりと辺りを見回し、他には何もないことを確認すると、予想どおり床に放り出されたままの青い薔薇を拾い上げた。
花びらがかろうじて2枚ほどしか残っていないそれを見て、ほっと息を吐き出す。
「薔薇は手に入れた。しかし……」
割れた窓から外を伺う。
扉の外には、先ほどの額縁の女が徘徊していた。
あれをどうにかしなければ、自分がここから出ることができない。
だが、あんなものを倒せるはずもない。
ならば、取れる手はひとつ。
額縁の女が、扉から離れるのを待って走る。
ガラスの割れてしまった窓枠を見る。
幸いと言うべきか、そこには細かく砕けた破片が残っていた。
その破片の一つを取り、外に向かって投げつけた。
破片がぶつかり合う音が辺りに響き、額縁の女の注意がそちらに向く。
「今だ!」
女が完全に破片の方を向いた瞬間、ルルーシュは部屋を取び出した。
乱暴に扉を開いたことで、女の注意がこちらに戻る。
這いずりながらこちらに近づいてくる音を背に、もうひとつの扉へと全力で走った。
ドアノブを掴んだところで、何かが肩を掠めたような気がした。
それを理解するより先に扉の中に飛び込み、勢いよく締める。
そうしてしまえば、額縁の女はもう襲ってこなかった。
何度も何度も叩かれる扉から慎重に離れる。
「……な、なんとか切り抜けた……」
すっかり荒くなった息を整えながら、最初に入ってきた扉の前にある花瓶に近づく。
覗き込めば、水色のそれには、まだたっぷりと水が入ってきた。
「まだ水はあるな」
取り戻してから、ずっと左手で握っていた青い薔薇を活ける。
その途端、薔薇はみるみるうちに元気を取り戻していった。
毟られたはずの花びらは復活し、萎れかけていた茎も瑞々しさを取り戻す。
「よし……」
十分と思われる時間水を吸わせ、花瓶から薔薇を取り出す。
倒れていた彼の元に戻ろうとして廊下へと一歩足を踏み出したところで、気づいた。
向かう先で、何が動いた。
それは先ほどまで、意識を失っていた友人。
ゆっくりと起き上がった彼を見た瞬間、ルルーシュは走り出していた。
「僕は……?」
「ライ!」
呼びかけながら駆け寄れば、彼は驚いたように振り返った。
自分よりも深い紫の瞳が、大きく見開かれる。
「ルルーシュ!?」
「よかった……。気がついたんだな」
座り込んだままの彼の側に膝をつく。
ほっとして声をかければ、彼は不思議そうに首を傾げた。
「気がついた?」
「今にも死にそうな顔をして倒れていたんだぞ、お前」
そう伝えれば、ライは一瞬驚いたと言わんばかりの表情を浮かべた。
少し考えるような仕草をして、何かを思い出したように目を見張る。
「そうだ……。僕はルルーシュを探していて」
「俺を?」
「君が急にいなくなってしまったからな」
驚いて聞き返せば、ライは少し起こったような顔でこちらを見る。
「リヴァルにミレイさんたちへ伝言を頼んで、君を捜していたんだ。そしたら、絵の中に君に似ている人がいて……。気がついたら、ここにいた」
ライの言葉に、ルルーシュはさらに驚く。
つまり彼は、自分を追いかけてこのおかしな空間に来たというのか。
「青い薔薇を取った途端に、何かに襲われて……」
「その薔薇とは、こいつか?」
ライの言葉に、ルルーシュは先ほど取り返した薔薇の存在を思い出し、左手に持っていてたそれを差し出した。
それを見て、ライは驚いたように目を見張る。
「ああ、そうだ。ルルーシュ、これをどこで?」
「お前を襲ったと思われる女から奪い返してきた」
そう答えれば、ライはその紫紺の瞳を丸くする。
驚きの表情を向ける彼に少し怒りを感じながら息を吐き出すと、ルルーシュは冷静に言葉を続けた。
「どうやらこいつは、俺たち自身らしい」
「僕たち自身?」
「ああ。俺たちの命と言うべきか。ちなみに、俺も持っている」
胸に差した赤い薔薇を示せば、ライは初めてそれに気づいたらしい。
先ほどまでと同じ表情を浮かべた彼に、ルルーシュはほんの少し悩んだ後。自分の考えを伝えようと思った。
「お前の薔薇はその女に毟られて朽ちる直前だったんだが、花瓶の水に浸したら復活した。そして戻ってきたら、死にそうな顔をしていたお前も回復していた」
「それって……」
ルルーシュの言わんとしていることがわかったのか、ライが驚いたようにこちらを見る。
「おそらく、こいつが朽ちたとき、俺たちの命も朽ちる」
はっきりとそう告げると、ライはごくりと息を呑んだ。
ルルーシュの手に収まったままの青い薔薇に視線を落とす。
「つまり、僕は君に命を救われたんだな」
「そういうことになるな」
「そうか……」
ライの手が、そっと青い薔薇を持つルルーシュの手に伸びる。
薔薇を持つ手を、両手で優しく包まれ、ルルーシュは不思議そうに彼を見た。
「ありがとう、ルルーシュ」
その途端、柔らかい笑顔で微笑まれた。
その顔を直視しているのが何故か恥ずかしくて、思わず視線を逸らしてしまう。
「礼を言うのは当然だな。俺がいなければ、お前は死んでいたんだ」
「ああ。だから、ありがとう」
再び同じ笑顔で、あっさりとそう返されて、どうしたらいいかわからなくなる。
自分とライは、少し遠いけれど親戚関係にあり、家も近くて、彼の笑顔など見慣れていると思っていた。
「そ、それよりこれからどうする?」
なのに、何故かライと視線を合わせることができなくて、ルルーシュは無理矢理話を変えた。
こんな状況だからか、ライはそれを不審に思わなかったらしい。
「ここから出るのが最優先、だろ?」
「当然だな」
あっさりと返ってきた言葉に、ルルーシュは内心安堵しながら頷いた。
「ルルーシュが入ってきたところは?」
「戻ってみたが、階段が無くなっていた」
「そうか……。僕の方も同じだ」
「ということは、別の出口を探すしかないとうことか」
「だな」
結論が出ると、ライは軽々とした身のこなしで立ち上がる。
先ほどまで苦しそうな顔で気を失っていたとは思えないその動きに、ルルーシュは目を丸くした。
「よし、じゃあ行こうか」
「お前、体は大丈夫なのか?」
「ああ、君のおかげで」
手を差し出され、反射的に尋ねれば、ライはにっこりと微笑んだ。
本当に何でもなさそうなその表情にほっと息を吐く。
「そうか。なら行くか」
「ああ」
ますます笑みを深くするライに近づく。
きょとんとした表情を浮かべる彼の制服に、手に持ったままの青い薔薇を自分のものと同じように差し込んだ。
「これ、今度は奪われるなよ」
そう言ってぽんっと胸を軽く叩く。
驚いたように目を見張った彼を無視して、先へ行こうと、まだ言ったことのない廊下の先へ歩き出す。
「ルルーシュ」
「なんだ?」
呼ばれて足を止め、ルルーシュは振り返った。
「君は僕が全力で守るよ」
その途端言われた言葉に、目を見開いたのは無意識だった。
その場に立ち尽くしたままのライの紫紺が、真っ直ぐにこちらを見ている。
その言葉が、真剣すぎる視線が、何故か妙に恥ずかしくて、ルルーシュは頬が熱くなるのを自覚するより先に叫んでいた。
「い、いきなり何を言い出す!」
「だって君の体力じゃ、この先心配だからね」
「お、お前な……!」
あまりにも失礼なことを笑顔で言われ、思わずきつくライを睨む。
その途端、再び真剣な色を宿した紫紺と目が合った。
「だから、僕が君を守るよ。さっきは油断したけど、もうしない。二度と不覚は取らないから、安心して」
いつもより低く感じるその声に、頬がますます熱くなる。
理由のわからないそれに恥ずかしさを感じて、ルルーシュはふいっと顔を逸らした。
「好きにしろ」
「ありがとう」
素っ気なくそう言えば、嬉しそうなそんな声が返ってきた。
あまりにも素直なそれがやっぱり恥ずかしくて、ルルーシュはそのまま彼に背を向けて歩き出した。
先にどんどん進んでいくルルーシュを見て、ライは思わず笑みを浮かべる。
幼い頃から変わらないその態度に微笑ましさを感じて、こんな状況なのに和んでしまう。
その姿を見ながら、思う。
幼い頃から2人の弟妹を守ろうと一生懸命だったお幼なじみ。
その彼を、心から守りたいと。
「守るよ。……今度こそ」
そう呟いたのは無意識だった。
口にしてから、気づく。
「あ、れ?」
思わずこぼしたその声は、先を行くルルーシュにも聞こえてしまったらしい。
「どうした?」
「いや、何でもない」
振り返り、不思議そうに尋るられたその問いを、笑顔で誤魔化す。
ルルーシュは納得していないような表情を浮かべたが、「そうか」と呟くと再び前を向いて歩き出した。
その姿に、ほっと息を吐き出す。
だって、尋ねられても、ライ自身にだって答えられなかったから。
今自分は、『今度こそ守る』と考えた。
でも、何故そう思ったのかがわからない。
そう思う要因など、今までに一度もなかったというのに。
僕は、以前にどこかでルルーシュを守れなかったんだろうか?
先を歩くルルーシュの背を見つめ、感じた疑問の答えを探そうとした。
けれど、思い当たることは全く思い出せなくて、ただ首を傾げるだけだった。