月光の希望-Lunalight Hope-

Last Knights

Prologue 世界を変える少年

「第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアは私が殺した。よって、次の皇帝には私がなる」

皇宮の玉座で、失われたはずだった皇子が宣言する。
その言葉に誰もが驚愕し、ざわめきが起きる中、第一皇女が声を上げた。
「あの痴れ者を排除なさい!皇帝陛下を弑逆した大罪人です!」
ギネヴィアの命令に、周囲に控えていた近衛兵が一斉に槍を向け、ルルーシュに襲い掛かる。
その瞬間、天井から1人の少年が降ってきた。
空中で全ての槍を折り、兵士を蹴り飛ばした少年は、アッシュフォード学園の制服を着た皇帝を名乗る皇子の前に降り立つと、ゆっくりと立ち上がる。
同じ学園の制服を身に着けた、けれどもよく知る少年の姿に、その場にいる誰もが目を瞠った。
「くっ!?」
兵士の1人が、腰に下がった剣を抜き、立ち上がろうとしたその瞬間。
ひゅっと空気を切る音がして、兵士の手が剣が弾き飛ぶ。
「ぐああああっ!?」
悲鳴を上げた兵士の腕には、銀色に輝くナイフが突き刺さっていた。
どこから飛んできたのかわからないそれに、間近で見ていた者たちが息を呑んだ、そのとき。

「前方だけじゃなく、四方に気を使ってくれないか、スザク」

唐突に玉座の間に声が響く。
反射的に、その場にいる全員の目が、先ほどルルーシュが現れた舞台袖に向けられた。

「陛下が怪我をしたらどうするつもりだったんだ」

そこから現れたのは、2人と同じアッシュフォード学園の制服を身に着けた、1人の少年。
光を弾く銀の髪に、夜の始まりを思わせる紫紺の瞳を持つ少年。
その姿を認めた瞬間、スザクは笑った。

「君がいるのに、必要なかっただろう?ライ」

にやりと笑う翡翠の瞳を受け止め、銀の少年が笑う。
彼がルルーシュの左側に立つと同時に、スザクはルルーシュの右側へ身を引いた。

「紹介しよう。我が騎士枢木スザク。同じくラインハルト・ロイ・エイヴァラル。彼らにはラウンズを超えるラウンズとして、ナイトオブゼロの称号を与える」

片手で2人を示し、皇帝を名乗る皇子は宣言する。
その言葉に、騎士と呼ばれた2人の少年は笑みを浮かべる。
得意そうな、世界を嘲笑うような笑みを。

「いけないよ、ルルーシュ。枢木卿とそちらの少年も。国際中継でこんな冗談を」
「そうですか。ならばわかりやすくお話しましょう」

長兄である第一皇子の言葉に、ルルーシュはゆっくりと立ち上がる。
その手が双眸の上を横切った瞬間、至高の紫であったはずの瞳は、刻印を浮かべる紅に変わっていた。

「我を認めよっ!」

双眸に浮かび上がった刻印が羽ばたく。
ルルーシュを説得しようとしていたオデュッセウスは、その羽ばたきを見た瞬間、言葉を止めた。

「……イエス、ユアマジェスティ」
「「オール・ハイル・ルルーシュっ!」」

一転して了解の意を示した第一皇子の言葉に続き、集まった皇族が、貴族たちが、一体に新皇帝を認め、称え始めた。
暫くの間それを満足そうに見下ろしていたルルーシュは、片手を上げてそれを止めさせると、ゆったりとした動作で玉座に腰を下ろした。
もう一度双眸に手をかざし、真紅だった瞳を紫玉に戻す。
ゆっくりと顔を上げた彼は、満足そうな笑みを浮かべて目の前に立つ2人の騎士を見た。

「スザク」

皇族たちを見下ろしていた白の騎士が、ゆっくりと振り返る。
翡翠と紫玉が交わった瞬間、ルルーシュは唇の端を持ち上げ、口を開いた。

「汝、ここに誓約を立て、ブリタニアの騎士として戦うことを、我欲を捨て、大いなる剣となり盾となることを望むか?」

主となる少年の問いに、スザクも笑みを浮かべる。
膝を折り、ゆっくりとした動作で跪くと、真っ直ぐに目の前の彼を見上げた。

「イエス・ユアマジェスティ。あなたが誓いを破らない限り、自分はあなたを守り、共に歩くことを誓います」

聞きようによっては不穏な誓いの言葉。
それにすら、ルルーシュは満足そうな笑みを浮かべる。
紫玉の瞳が、ゆっくりとスザクの隣に立つ銀色の少年に向けられた。

「ラインハルト」

名前を呼ばれた少年は、スザクとは違い、すぐに跪くようなことはしなかった。
ルルーシュに似た、けれどもっと冷たい光を浮かべた紫紺の瞳が、彼を見下ろす。

「ルルーシュ」

呼称をつけずに、名前を呼ぶ。
既に即位宣言をしたルルーシュに対して、それが不敬罪に当たることは、2人ともよく知っている。
けれど、それすら許容するかのように笑うと、ルルーシュは視線だけで彼に続きを促した。

「僕は言ったからな」
「ああ、何度もな」

くつりと笑って答えれば、銀の少年は呆れたようにため息をつく。
一度伏せた目を再び上げると、彼は漸くルルーシュの前に跪いた。

「……イエス・ユアマジェスティ。あなたと交わした誓約のもとに、あなたの傍であなたを支え、共に歩くことを誓います」

それは1年前以上も前の誓い。
まだ学生であったときに交わした、神聖な誓い。
一度目は、それを捨てて去った。逃げ出した。
二度目は、ただ希望を失いたくなくて、傍を離れた。
ふたつの悲劇は、裏切りは、その間に起こっていた。
だから、もしもう一度同じことが、三度目があるのだとしたら、今度こそ繰り返さない。

「今度こそ、あなたを守り通してみせる」

そう宣言して新皇帝を見上げた紫紺には、強い光が宿っていた。
それを見て、紫玉の瞳を持つ若き皇帝は笑う。



かつて黒の皇子と呼ばれた捨てられた少年は、こうして世界の頂点に立つ国の皇帝となった。
ひと月前、交わした誓いを、絡み合った願いを、叶えるために。




2008.9.8
2014.8.20 加筆修正