月光の希望-Lunalight Hope-

Heretical Cage

住宅地の外れにある、少し大きめの一軒家。
つい先ほどまで貸家の広告が貼られていたそこに、1人の少年が入る。
買い物袋を手に提げた少年は、銀の髪を風に遊ばせ、上機嫌で玄関のドアノブに手をかけた。
「……あ、れ?」
ふとした感触で気づく、違和感。
玄関の扉が、ほんの少しだけ開いていた。

おかしい。
自分も同居人である彼も、きっちり扉を閉めるタイプだ。
こんな風に開けたまま出かけることはない。
それ以前に、この扉は完全に開け放した場合以外は自然に閉まってしまうタイプの扉だ。
こんな風に、中途半端に開いたままなんてこと、まずありえない。

焦燥感に駆られて、扉を開く。
その直後、扉が閉まっていなかった理由は判明した。
扉の下方に、ペンが落ちていた。
宅急便などを受け取るときのために玄関に常備しているものだ。
何故それがこんなところにと考える間もなく、銀の少年は家の中に飛び込んだ。
途中、首に巻きつけたスカーフが引っかかりそうになり、それを慌てて掴んでリビングへと駆け込む。
中途半端に開いていたそれを開け放った瞬間、戦慄が体を駆け抜けた。
手がぶるりと震え、持っていた買い物袋がどさりと床に落ちる。

「ルルーシュ……っ!?」

目の前に広がったのは、出かける前とは真逆の光景。
乱暴に荒らされたリビングが、そこにあった。






体に感じた違和感に、意識が浮上する。
ぼんやりとする頭を無理矢理動かして、重たい瞼をゆっくりと開いた。
目の前に広がったのは、見たこともない場所。
光が入らないのか、薄暗いそこに、ぼんやりと光るものが目に入った。
最初は光を放つそれをぼんやりと見つめていたが、意識がはっきりとしてくるに従ってその正体に気づき、目を瞠る。
そこにあったのは、緑色の液体に満たされた、巨大な装置だった。
「こ、こは……?」
自分のいる場所を知ろうとして、体が動かないことに気づく。
体を見下ろすと、意識を失う前とは違う服を着せられていた。
「これは……拘束服か……?」
昔、ほんの一時期だったけれど、身近にあった拘束服。
一度だけ着せられたことだってあった。
嫌な過去を思い出し、軽く頭を振る。
「俺は……、くそ……っ」
悪態をついて、目を閉じる。
深呼吸をして心を落ち着ける。
そうすることで、漸く意識を失う前のことを思い出すことが出来た。

そうだ……。俺は、襲われた……。

ライが買い物に出ている間に来た、宅急便の配達員を装った男に襲われたのだ。
ネットで買い物をして、今日が配送予定日だったから、すっかり油断していた。
ライがいない日は居留守を使って受け取る時間をずらしていたのに、今日に限ってそれを失念してしまったのだ。
自分の失態に思わず舌打ちをした瞬間、がちゃりという音が聞こえた。
どうやら、ここからは見えない位置にある扉が開いたらしい。
少し遅れてついた照明に、目が眩みそうになる。
それを避けようと目を細め、顔を背けていると、視界の隅に黒い影が入った。
「お?おいおい。目ェ覚ましたみたいだぞ?」
その声に顔をそちらへと向ける。
そこには白衣を着た男が2人立っていた。
片方は眼鏡をかけており、片方は特に特徴のない、見るも明らかに科学者と言った風貌の2人組。
その男たちが、こちらを見て驚いたような表情を浮かべている。
「驚いたな。投与した睡眠薬は致死量に近かったのだが、さすが魔王様は違うと見える」
「誰だ、貴様ら……っ」
ぎろりと男たちを睨みつける。
その途端、眼鏡をかけていない方の男がくすりと笑った。

「ギアス嚮団。そう名乗ればわかってくださるのではないですか?魔王様?」

しゃがみ込んで顎を掴まれ、持ち上げられる。
くつりと笑う男の言葉に、頭の隅にあった可能性が肯定されたことを知り、思わず舌打ちをしたくなった。

ギアス嚮団――数百年前に壊滅したはずのその組織が復活していた可能性は、知っていた。
尤も、彼らは自分たちの知るような組織ではない。
文献か何かで偶然ギアスやコードのことを知った科学者たちが、不老不死を求めてその研究をしている程度だ。
ギアス能力者もおらず、コード所有者が後ろについているわけでもない彼らが、数十年前からコード所有者を探していることは知っていた。
そして、彼らがブリタニアの歴史に刻まれた『魔王』と『魔女』の存在を知り、それが実は生きているということも突き止め、探していることも。
実際に、昔一度襲われたことがあったのだ。
そのときはライが傍にいたから、捕まることなく撃退し、人目に絶対に触れることのない場所に引きこもった。

けれど、それはもう何十年も昔の話。
そろそろ大丈夫だろうと踏んで、久しぶりに町で暮らそうと外界に出てきた途端にこんなことが起こってしまった。
これでは、もうあの場所では暮らせないなと、内心ため息をつく。
せっかく株で稼いだ金で借りた、自分たちには豪華なくらいの家だったのに。
あの家に合わせて家具も揃えて、さあこれから、というときにこれだ。
先ほどまでは別の意味で怒りが湧いてきて、思わず目の前の男を睨みつける。
それをどう取ったのか、男は楽しそうに笑った。
「おい!いつまで見てるんだよ!魔女が来る前に、さっさと培養液に放り込んじまおうぜ」
「まあ、待て。すぐに実験体にするのはつまらないだろう?」
顎を掴み、顔を上げされていた男の手が、唐突に離れる。
その手が、何の前触れもなく拘束服の止め具に触れた。
ぞわりとした悪寒を覚える間もなく、その手が止め具を外し、襟元から一気にジッパーを引き下ろす。
「な……っ!?」
突然肌を晒される状態になったルルーシュは、予想もしなかった相手の行動に息を呑んだ。

照明の下に晒された、男にしては白い肌。
そこに、妙に存在を主張する紅い刻印があった。

「ほう。これが不老不死の証か」
「へぇ。こいつが」
鎖骨のすぐ下に刻まれたその刻印を、男がまじまじと見つめる。
その言葉に興味を持ったのか、眼鏡の男もルルーシュの肌を覗き込んできた。
2人の男に肌をまじまじと見つめられるという状況に、ルルーシュは羞恥に顔を逸らす。
それに気づいた男がくすりと笑みを零し、眼鏡の男を振り返った。
「なあ、これを舐めれば不老不死になる、なんて可能性、有り得ると思わないか?」
「なっ!?」
「ええー?そんなことでなれたら苦労しないだろう?」
「試してみないとわからないだろう?失礼しますよ、魔王様」
「や、やめろっ!……ひっ!」
男の手が刻印の上を這う。
その手つきに、背中を悪寒が駆け抜け、体が無意識にぶるりと震えた。
その反応を見て男が楽しそうに笑う。
「へえ。ずいぶん感度がいいですね。もしかして、こういう経験ありとか?」
「く……っ」
「綺麗な顔だと思っていたが、羞恥と屈辱に染まった顔も美しいな」
男が再びルルーシュの顎を掴み、自分の方へと向けられる。
拘束服で手足の自由を奪われているルルーシュに、抵抗などできるはずがない。
せめてもの抵抗として、ぎろりと男を睨みつけた。
そのやり取りを見て、眼鏡の男が盛大にため息を吐き出す。
「うわぁ……。お前、そういう趣味?」
「お前だって、最初にこれを見たときは興奮していただろう?」
「それは、女かと思ったからな」
「ここまでいい外見をしているんだ。変わらないだろう?実験体にする前に、味見をしてみようか」
男の言葉にルルーシュは目を見開く。
ここまでされれば、いくらこちらの知識に鈍いという自覚のあるルルーシュでも、その言葉の意味が理解できる。
「やめろっ!!俺に触るなっ!!」
身を捩って逃げようとするが、すぐに男に取り押さえられ、抵抗できなくなる。
にやりと笑った男は、中途半端な場所で止まっていたジッパーを一気に腹まで下ろした。
完全に露出された白い肌。
それに男たちがごくりと息を飲み込む。
「これは……上玉だな」
男がくつりと笑って、ルルーシュの肌に手を這わす。
それが気持ち悪くて、思わずぎゅっと目を閉じた。

「嫌だ……。ライ……っ!!」

無意識に永遠を誓った存在の名を呼んだその瞬間、ぱんっという乾いた音が辺りに響いた。
「ぐあっ!!」
それと同時にルルーシュの上に覆い被さっていた男が鈍い悲鳴を上げる。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
悲鳴を上げた男は、そのままごろりと横に倒れる。
肩口から溢れた赤が、男の着ている白衣をじわじわと紅く染め上げていた。
「な、何だっ!?誰だっ!!」
眼鏡の男が懐から慌てた様子で扉があるのだろう方向を振り返る。
視線でそれを追えば、そこに1人の少年が立っていた。

「我が誓約者から離れてもらおうか」

耳に届いたその声に、視界に入った銀色に、ルルーシュは目を見開く。
そこにいたのは、今まさに助けを求めた最愛の誓約者だったのだから。

「誰だ貴様は!……ぎゃあああっ!?」
撃たれた男が懐から銃を取り出す。
その瞬間、再び破裂音が辺りに響き、男の腕から鮮血が飛び出した。
悲鳴を上げた男に、銃を手にしたまま、首にスカーフを巻いた銀の少年が近づく。
そして無表情のまま、男の顔に向かって銃口を向けた。
「彼から離れろ」
「ひ、ひいっ!?」
先ほどよりもずっと低い声で命令され、男が慌てて離れていく。
十分な距離が出来たことを確認すると、銀の少年は銃を下ろし、壁際に座り込んだままのルルーシュヘ視線を向けた。
先ほどまで無表情に近かったその顔が、瞬く間に歪む。
酷く不安そうな表情になった彼は、早足でこちらに寄ってきた。
「大丈夫か?L.L.」
「ラ……R.R.……」
先ほどとは全く違う、ルルーシュのよく知る声で彼――ライがルルーシュの今の名を呼ぶ。
それに安堵し、思わず本当の名を呼びそうになったルルーシュは、慌てて名前を呼び直した。
目の前で膝をついたライの表情が、ほんの少しだけ安心したように緩む。
「ごめん。来るのが遅くなった」
「本当だ。もっと早く気づけ、この馬鹿」
「うん。ごめん」
よく知る体温に抱き起こされ、安堵の息を吐き出す間に、彼は拘束服の下げられたジッパーを上げ、腕の拘束を解いてくれた。
そのまま抱き締められて、今度こそ本当に安堵の息を吐く。
そうして初めて、自分の体が震えていることに気づいた。
それを抑えたくて、ライの背に手を回そうとした、その瞬間。

「死ね!」

先ほどの男の声が聞こえたと思うと同時に、勢いよく横に突き飛ばされた。
一瞬遅れて、耳に破裂音が届く。
目の前にあった銀が、ぐらりと傾いた。
その背から、鮮血が飛び散る。
「っ!R.R.っ!?」
伸ばした手が届くよりも早く、ライの体がばたりと倒れる。
服を赤く染めた場所から流れ落ちた赤が、床を同じ色に染め始めた。
倒れた彼は、ぴくりとも動かない。
「は……はは……っ!」
思わぬ事態に呆然としていると、突然笑い声が響いた。
顔を上げれば、先ほどライに腕を撃たれた男が銃を持った腕を震わせて笑っていた。
「ははははっ!馬鹿めっ!銃を持った奴に、背を向けるからだっ!!」
「き、さま……っ!!」
ライを馬鹿にしたように笑うその男が、気に食わなかった。
何より、ライをこんな目に合わせたことが許せなかった。
だから撃ち殺してやろうと、ライの手に握られた銃を取ろうとしたその瞬間、その手を突然掴まれた。

「……そう、だな」

突然部屋に声が響いた。
その声に、笑っていた男は、その下品な声をぴたりと止める。
「え……?」
「私が甘かった。いくら元に戻るとはいえ、危うく我が誓約者に傷を負わせるところだった」
ルルーシュの目の前で倒れた体が、ゆっくりと起き上がる。
銀の髪が揺れ、しっかりとした光を宿した紫紺の瞳が、呆然とこちらを見つめる男をぎろりと睨みつけた。
「な……っ!?」
起き上がったライを見て、男たちは言葉を失う。
あの位置は、丁度心臓の真後ろだったはずだ。
普通の人間なら、まず即死。
即死を免れたとしても、これほどの出血をすれば起き上がるどころか、意識が戻ることなんてまずない。

そう、普通の人間ならば。

撃たれた反動で解けたらしいスカーフが、ライの動きに合わせてひらりと落ちる。
その下――左の首筋に現れたものを見て、男たちはその目を大きく見開いた。
「首に、魔王と同じ刻印……っ!?」
「そんな……馬鹿な……っ!?……ひいっ!?」
室内に再び破裂音が響き、ライを撃った男のすぐ傍の資材が弾ける。
立ち上がったライの手に握られた銃弾が、男の傍にあったそれを撃ち向いたのだ。
その銃口が、再び真っ直ぐに男へと向けられる。
自分たちに向けられたその銃口にがたがたと震え出した男たちを見て、ライは口元に笑みを浮かべた。

「その忠告だけは、感謝しようか」

くすりと零すライの表情は、背後に庇われたルルーシュからは見えない。
けれど、長い付き合いの中で、ライがこんなときにどんな表情を浮かべるかなんてとっくに理解していた。
彼は今、大昔『狂王』と呼ばれていた頃と同じ笑みを浮かべているに違いない。
その笑みを間近で見せられるはめになった男が、呆然とした表情でライを見上げる。
「何故だ……。不老不死者は、『魔王』コードLと、『魔女』コードCだけのはず……。お前は、何だ……っ!?」
「貴様に教える筋合いはない」
その男に向かい、はっきりと言い捨てると、ライはそれきり男たちからは興味を失ったとばかりに視線を逸らした。
王の笑みを消し、先ほどの表情に戻ると、座り込んだままのルルーシュに向かって手を伸ばす。
「突き飛ばしてごめん。立てるか?L.L.」
「あ、ああ」
伸ばされた手を取って、立ち上がる。
その途端、紅く汚れた服が目に入ってしまい、思わず体が震えた。
大丈夫だと、なんともないのだということは、わかっていた。
けれど、一度湧き上がってしまったその衝動を抑えることは出来なくて、そのまま再び男たちを見ようとするライに手を伸ばし、その体を抱き締めた。
「L.L.?」
突然のルルーシュの行動に驚いたライが、不思議そうにルルーシュを見る。
肩口に顔を埋めてしまったルルーシュの表情は、ライからではわからない。
けれど、雰囲気で悟ったのだろう。
ライはそっとルルーシュの体を抱き締めると、銃を持っていない左手でその頭を撫でた。
「大丈夫だよ。もう塞がった」
「わかってる」
そう答えつつも、離れようとしないルルーシュに、ライは苦笑を漏らす。
その笑みにほんの少し不安になったけれど、それでもルルーシュは離れようとはしなかった。

だって、知っているから。
こういうとき、ライは決して自分を邪険にしたりしない。

予想したとおり、離れようとしないルルーシュを強い力で抱き締める。
それにルルーシュが安堵の息を漏らしたことに気づくと、くすりと笑みを漏らした。
ふと、その紫紺の瞳が動く。
愛しい者に向ける柔らかな光が一瞬で消え、代わりに鋭利な光が浮かぶ。
「おい、貴様ら」
「ひぃっ!?」
殺気が篭っていると嫌でもわかってしまうその紫紺に睨みつけられ、男は思わずし悲鳴を上げる。
それを鬱陶しいものでも見るかのような目で見下ろして、ライは再び口を開いた。

「二度と私たちに近づくな」

先ほどよりもずっとどすの聞いた、低い声。
こんな少年の外見をした存在に、こんな声が出せることが信じられず、男たちは震え上がる。

「これで二度目だ。三度目はない。次に貴様らが私たちに関わろうとしたら……」

そんな男たちの様子を無視し、続けたライの言葉が、唐突に止まる。
怒りを浮かべていたはずのその顔が歪み、口元に笑みが浮かんだ。

「そのときは組織が丸ごと潰れると思え」

そう宣告した銀の少年は、その腕に抱かれた少年よりもずっと恐ろしく、まるで本物の魔王のようだった。






ルルーシュが落ち着くのを待たずに研究所の外へ出る。
人目につくことを避けるように立てられたその周囲は森になっていて、その一角にルルーシュを連れて飛び込んだ。
ここにやってきたときも使ったその場所には、荷物を入れたバックが置かれている。
ルルーシュが拘束服を着せられていることを予想して、用意して来た荷物だった。
ライ自身の服も血に染まっていたから、中から服を2セット取り出し、そのうちひとつをルルーシュに渡す。
まだ怯えているかと思ったルルーシュは、意外にもしっかりとした表情でそれを受け取った。
「ルルーシュ。大丈夫?本当に何もされていない」
「ああ。お前が来てくれたからな」
心配して尋ねれば、穏やかな笑顔が返ってくる。
それに安堵の息をつきかけたその瞬間、ルルーシュが口にした言葉にびくりと体が震えた。
「もう少し遅かったら、危なかったが……」
「ごめん。僕がもう少し早く異変に気づけば……」
「冗談だ。今回は油断した俺も悪い。そんなに気にするな」
肩を落として謝罪すれば、ルルーシュは苦笑して手を伸ばし、ライの銀の髪を撫でた。
「それにしても、C.C.の忠告のとおりだったな」
「町には出るな、か。彼女も最近は自重しているみたいだからね」
着替えを終えたルルーシュの言葉に、ライは苦笑して答える。

外界に出て行こうとする自分たちと入れ替わりに『あの場所』にやってきた彼女は、ちゃんと忠告をくれたのだ。
最近ギアス嚮団を名乗る組織の動きがおかしい。
だから、外界には行かないほうがよいと。
それを軽くあしらって『あの場所』から外に出た結果がこれだ。

もうずいぶんと長い間別行動を取っている共犯者の言葉を思い出したのか、ルルーシュが思い切りため息を吐き出す。
「せっかくお前とまた学生生活を送れると思ったんだが」
「こればっかりは仕方ないよ。また暫く雲隠れしよう」
「そうだな」
ライの言葉に、ルルーシュは素直に頷く。
その表情が僅かに曇ったような気がして、ライはルルーシュを抱き締めた。
「ちょ……っ、ライっ!?」
「大丈夫。そんなに心配しないで、ルルーシュ。君は僕が守るから」
抱き締める腕に力を込めてそう囁けば、ルルーシュは驚いたように目を瞠った。
けれど、それは一瞬。
すぐにそれは心配そうな表情に変わる。
「お前だって、今回のこれで奴らのターゲットになったかも知れないんだ。気をつけろよ」
「うん。ありがとう」
背に腕を回し、ぎゅうっと抱きついてくるルルーシュに言葉に、漸く彼が何を不安がっていたのか悟り、思わず笑みが浮かぶ。
ルルーシュが自分を心配してくれると言う事実が、こんなにも嬉しい。
その気持ちを隠すことなく伝えると、ルルーシュは真っ赤になって「お前のためじゃない」と言い張り、顔を背けた。
こんな素直でないところも、初めて出会った頃と変わらない。
それがたまらなく愛おしかった。

「それじゃあ、行こうか」
「ああ」

体を放して荷物を取り、手を差し出す。
そうすれば、ルルーシュは抵抗することなくその手を取ってくれる。

向かう先はただひとつ、自分たち以外の誰もが立ち寄ることのない、外界と切り離された場所。
遠い昔、ライが一度は眠る場所として選び、ルルーシュが過去の真実を知った、神の名を持つ島だった。




旧サイト1周年企画「L.L.になったルルがR.R.になったライと一緒に暮らしている設定で、L.L.がC.C.みたいにどこかの研究所につかまったのをR.R.が助ける」。
設定はたぶん最終話の数百年後。
ぽんと浮かんだ話なので、細かい設定とかは特に考えてないです。
タイトルの和訳は「異端の檻」。
意味はご想像にお任せします。



2009.6.16