Love Notice
夢を見る。
あの最期の日、君の命を奪った瞬間の、あの夢を。
その夢を見た日は、必ず最後に自分の声で目を覚ます。
ルルーシュの体を刺し貫いた瞬間、叫んだ声で。
その度に顔を覆って、襲ってくる闇にひたすら耐えた。
ああ、どうして。
最期の日はあんなにも穏やかに迎えたはずなのに。
彼の望むとおりに、彼を見送ることができたはずなのに。
どうして今になって、こんなにも苦しくなるのだろう。
「ゼロ様?」
突然目の前にひょっこりと顔を出した少女の声に、スザクははっと我に返った。
慌てて辺りを見回せば、そこは廊下だった。
それを認識して、漸く思い出す。
自分は、会議室から自室に戻ろうとしていたのだと。
その途中で、従妹であり、自称ゼロの妻である神楽耶に声をかけられたのだ。
「あ……。これはこれは神楽耶様。どうなさいました?」
「ゼロ様こそ、どうなさったんですか?」
「え?」
その言葉の意味がわからず、思わず聞き返した。
その途端、神楽耶はその整えられた眉を、ますます不安げに寄せる。
「何だか、お疲れのようですわ。大丈夫ですか?」
「え……?私、が……?」
「ええ」
神楽耶が心配そうに手を伸ばす。
その手を、既に癖になっている動きで気づかれないように避けると、スザクは仮面の下の視線を逸らした。
「そんなことは……」
「隠しても無駄ですわよ。私はあなたのことなら何でもわかりますもの」
少し寂しそうな表情を浮かべた神楽耶が、けれどそれを気づかせないようににっこりと微笑む。
「話してくださいませ。私で力になれることなら、何でもさせていただきますわ」
「しかし、神楽耶様……」
「嫌なんです」
はっきりとそう言った神楽耶の意図がわからず、スザクは思わず彼女を見た。
真っ直ぐにこちらを見つめたままの彼女の拳が、ぎゅっと服を掴む。
昔と変わらない、形の良い可愛らしい唇を噛み締めて、震える声で口を開いた。
「もう、あなただけに全てを背負わせるのは、嫌なんです」
その言葉に、スザクははっと目を見開く。
そして、マントの下の拳を、ぎゅっと握り締めた。
ああ、そうだ。
彼女は、ずっと後悔していた。
ゼロに――ルルーシュに、全てを背負わせたことを。
全てを背負わせ、逝かせてしまったことを、酷く後悔していたのだ。
その後悔を、明日を掴む力に変えて、彼女は今生きている。
その従妹の姿を、スザクはずっと見ていて、知っていた。
仮面の下で、スザクは微笑む。
見えないとわかっていたけれど、それが彼女に対する精一杯の誠意だと信じていた。
「……では、話を聞いていただけますか?」
「……ええ。もちろん」
一瞬驚いた表情を浮かべた神楽耶は、けれどスザクの言葉ににっこりと笑った。
その神楽耶に笑みを深めたスザクは、けれどその笑みをすぐに消す。
ずきずきと、胸に原因不明の痛みが走る。
この痛みのことを口にするときに、笑ってなどいられるはずがなかった。
「実は、ある人のことを考えると、とても苦しくなるのです」
「え……」
ぽつりと、呟くように悩みを告白した途端、神楽耶が翡翠の瞳を丸くする。
その反応に気づかないまま、スザクは続ける。
「苦しくてたまらなくて、その人のことばかりに気持ちが行ってしまって……。こんなことではいけないとわかっているのに、止まれないのです」
それは、ルルーシュの夢を見たときに、決まって湧き上がる感情。
じわじわと襲ってくる闇と共に、体の中から溢れて出てくる、想い。
「この気持ちは、一体何なのでしょうか……?」
最初は、恐怖かと思った。
けれど、違う。
戦場で何度も感じたそれとは、その感情は違うことに気づいていた。
「ゼロ様……。それは……」
「神楽耶様?」
呆然とこちらを見ていた神楽耶が口を開く。
けれど、途中で戸惑うように切られたそれに、スザクは首を傾げた。
この気持ちは、彼女が口にすることを戸惑うほどの、悪いものなのだろうか。
そう思った、その瞬間だった。
「それは、恋ですわ」
ふわりと微笑んだ神楽耶が口にした、その言葉。
それが、一瞬頭に入ってこなくて、理解できなかった。
「え……?」
けれど、頭に入って、その意味を飲み込んでも、やはり理解はできなかった。
当然だ。
それはスザクにとって、ありえないはずの感情だったのだから。
「こ、い……?さ、魚の?」
「もう!妙なボケはよしてくださいな!」
必死に否定しようと、そう尋ねたのに、神楽耶にはスザクがふざけているように感じられたらしい。
怒ったようにそう言ったかと思うと、ふうっと盛大なため息を吐き出す。
それに目をぱちぱちと瞬かせていると、ちらりと自分を見た翡翠と視線がぶつかる。
その瞬間、神楽耶は本当に柔らかく微笑んだ。
「ゼロ様は、その方のことを、愛していらっしゃるんですのね」
幼い頃の彼女からは想像できない、優しい笑顔。
その笑顔も、今のスザクには目に入らなかった。
頭に響くのは、先ほど彼女が告げた言葉。
ありえないはずの、あってはいけないはずの、感情の名前。
「僕が、その人を、愛して……?」
呆然と呟かれたその言葉に、神楽耶ははっと我に返る。
ただその場に立ち尽くすゼロに不思議そうな視線を向けながら、先ほどとは違う、少女らしい悪戯っぽい笑顔でにこっと笑った。
「あ!もちろんその方とは、私のことですわよね?」
いつもならば、ここでゼロの苦笑が返ってくるはずだった。
そして、以前の彼なら軽い嫌味を、今の彼なら照れたような反応を返すのだ。
今回も、そのつもりで神楽耶はそう問いかけたというのに、ゼロは全く反応を返さない。
「ゼロ様?」
さすがの反応の鈍さに、神楽耶はその仮面を覗き込んだ。
その途端、ゼロはびくりと体を震わせる。
そんな反応が返ってくるとは思わなかった神楽耶は思わず目を丸くし、不思議そうに首を傾げた。
「ゼロ様?どうかし……」
「ごめ……すみません、神楽耶様。お……私はこれで、失礼いたします」
「あ!ゼロ様!」
神楽耶の静止を振り切り、スザクは走り出す。
この廊下の奥――ゼロのために用意された、私室に向かって。
脇の下から書類が落ちることも構わずに、ただひたすら走った。
部屋に辿り着いた瞬間、扉を開け放って中に飛び込み、ロックをかける。
そのまま仮面とマントを脱ぎ、床に落とすと、ぼすんとベッドに腰を下した。
ゼロのために用意された上質のベッドは、それだけでスプリングがぎしぎしと音を鳴らす。
その音すらも、今のスザクの耳には入ってこなかった。
口元を覆うマスクはそのままに、ただ呆然と膝の上に置いた手を見つめていた。
「恋……この気持ち、が……?」
無意識のうちに膝を離れた手が、胸元を掴む。
苦しさのあまりに、ぎゅうっと握り締めた。
「俺は、ルルーシュを……?」
呟いた瞬間、途端に襲ってくる、闇。
ざわざわとしたそれに飲み込まれそうになって、スザクはぶんぶんと首を振った。
「ちが……、違うっ!違うっ!!」
ぎゅっと自身の体を抱き締めて、必死に否定する。
そんなはずはないのだ。
自分が、彼に向けていた気持ちが、そんなもののはずがない。
だって、自分はずっと彼を憎んでいた。
ユフィを利用し、殺した彼を。
だから、これは、この気持ちは、違う。
「恋じゃない!恋なんかじゃ……っ!俺が、あいつを愛しているわけが……っ」
『スザク』
「っ!?」
その瞬間、頭の中に蘇った声に、息を呑み、顔を上げる。
そして、目の前に浮かび上がる姿に、息を呑んだ。
『スザク』
再び聞こえた声。見える姿。
それは幻だとわかっていた。
だって実際に、彼がそこにいるはずがない。
目の前に、現れてくれるはずもない。
だから、これは幻。
手を伸ばし、微笑んでくれる彼は、ただの、幻影の、はずで。
でも、その顔は、とてもとても優しくて。
自分は、彼のその笑顔が、とても、好き、だった。
「あ……」
そう思ってしまった瞬間、理解した。
彼に向けていた気持ちが、何だったのか。
自分が、彼をどう思っていたのか。
「あ……あぁぁああぁ……」
『スザク』
幻影のルルーシュが、笑う。
最期の二か月間に浮かべていた、あの全てを諦めてしまったかのような、穏やかな笑顔で。
その唇が、今のスザクにとって、最も残酷な言葉を紡ぐ。
『お前は、生きろ』
その瞬間、スザクはその翡翠の瞳を大きく見開いた。
幻影だとわかっているそのルルーシュに、手を伸ばす。
けれど、触れられると思った瞬間、その姿は霧のように消えてしまった。
届くはずだったその手は、崩れ落ちた体と共に、床へと落ちる。
「るるー……しゅ……っ、ルルーシュ……っ!!」
床に膝をついて、名前を呼んだ。
どんなに呼んだって、答えてくれる声は、もうないのに。
どんなに手を伸ばしたって、掴んでくれる手は、もうないのに。
喪ってしまった。
この手で、奪ってしまった。
もう、全てが遅い。
「あああぁ……っ、うわあぁぁあああああああぁぁ……っ!!」
君は、もう二度と戻らない。
「なんてことがあったんだ」
「……はあ?」
何の脈略もなく突然された話に、ライは思わずおかしな声を上げる。
ゼロの教育係として、時折この私室にやってくるライは、その日もいつものようにスザクの持つ書類に目を通していた。
そんな中、突然された話。
恐らくは、彼がコードがほしいと言い出す前の話だろうそれに、ライは思い切り嫌悪を隠さないため息をついた。
「何で今それを僕に話すんだ」
「さあ?何でだろう?」
「おい……」
首を傾げるスザクに、ライは今度こそ嫌悪を含んだ目で睨む。
そのライに向かって「ごめん」と頭を下げながら、スザクは苦笑した。
「誰かに、聞いてほしかったのかも」
そう呟くように告げたスザクに、ライは思わず嫌悪以外の視線を向ける。
気づかれないうちに視線を戻すと、そのまま天井を仰ぎ見た。
確かに、再会したばかりの頃のスザクは、少し病んでいた、と思う。
ゼロレクイエムの前よりも、ずっとずっとゼロでいることに執着しているように見えた。
永遠にゼロでいることを望み、そのためにコードを欲しがった彼に驚いたことも、まだ記憶に新しい。
あの頃の彼は、それがルルーシュに報いることができる唯一の方法だと、頑なに信じていたようだったけれど。
なるほど。こんな風に自覚したなら仕方ないのか……。
納得してしまう自分にため息をつきながら、ライはぎろりとスザクを睨んだ。
手の中でゼロの仮面を弄んでいたスザクは、ライと目が合った瞬間、びくりと体を震わせる。
「だからって、僕に話すな僕に」
「君とC.C.くらいしか、聞いてくれる人いないじゃない」
「あのなぁ。そういう話は、僕とC.C.には全部惚気にしか聞こえないってわかってるのか?」
「え?そういうことに、なる?」
「な・る・ん・だっ!」
きょとんと首を傾げたスザクの態度に、ライの口調が厳しくなってしまうのは仕方のないことだろう。
ライだって、ルルーシュに片思いをしていたのだ。
けれど、当のルルーシュがスザクと共にいることを望んでいると知っていたから、諦めた。
ギアスの契約以降、すっかり黒さが抜けきってしまったスザクが、悪気があってその言葉を口にしているのではないと知っている。
だから、いくら苛ついたとしても、それをぶつけることはできない。
変わりに盛大にため息をついて書類を置くと、ライはずいっと手を差し出した。
「もういい!ほら!仮面貸せっ!」
「え?」
驚くスザクを無視して席を立ち、部屋に備え付けられているクローゼットに歩み寄る。
そこからゼロの衣装を1セット取り出すと、おもむろに着替え始めた。
その行動に驚いたスザクが、慌てて彼に声をかける。
「ちょ、ちょっとライ?突然どうしたの?それ、僕のゼロ服……」
「いいからっ!さっさと貸せっ!!」
先ほどよりも強い声で怒鳴られ、スザクは思わず仮面を手渡した。
それを受け取ったライは、一旦クローゼットの中に置くと、手馴れた動作で首にスカーフを巻きつける。
「まったく……。今日のアンダー、これにしておいて正解だったな」
「ラ、ライ?」
ぶつぶつと文句を言いながら、ライはすっかり着替えを終えてしまった。
そのままマントを羽織って仮面を被れば、言うまでもない、完全にゼロだ。
突然のその行動の理由がわからないまま、スザクはぽかんとライを見つめる。
だから、一瞬反応できなかった。
ライが告げた、その優しい言葉に。
「会いに行って来ればいいだろう?」
「え?」
耳に届いた声に、顔を上げる。
ぱちぱちと目を瞬かせていると、思い切り呆れた表情を浮かべたライが、再び口を開いた。
「そんなに会いたいなら、会いに行って来ればいい」
今度こそその言葉を理解して、スザクはその翡翠の瞳を大きく見開く。
ぱちっと音を立ててマントを止めながら、ライは平然とした様子で言葉を続けた。
「その間だけ、僕が代わりをしてやる」
「で、でも。約束の日はまだまだ全然先……」
「そんな顔で会議に参加する方が迷惑だ」
「え……」
びしっと指を刺すのは、コード所有者となって以来のライの癖だ。
それにぱちぱちと目を瞬かせていると、ふっとライが笑った。
唐突なその笑顔に、スザクは無意識に目を瞠る。
「1日だけ許す。ルルーシュに会いに行って来い。これは先輩命令だ」
はっきりと告げられた、その言葉。
その言葉に驚き、大きく目を見開いたスザクの頭は、すぐには正常に動かなかったらしい。
「先輩命令って……」
「先輩だろう?ギアス能力者としても、コード所有者としても」
「いや、まだ僕コード継承してないよ」
どうでもいいところにツッコミを入れるスザクに、ライはため息をつく。
そのやり取りで、漸くライの言葉を理解したらしいスザクは、けれどゆっくりと首を横に振った。
「ありがたいけど、ライ。僕はルルーシュとの約束だけは……」
「ああっ!ったく!」
言うと思った。
律儀な彼が、そう言うことは予想していた。
だからこそ、ライは敢えて声を上げ、その言葉を遮る。
そのまま、再びスザクに向かって指を突きつけ、はっきりと叫んでやった。
「ルルーシュが君に会いたがってるんだっ!」
「え……?」
その言葉に、スザクは驚き、目を見開いた。
「ルルーシュが……?」
「そうだ」
思いもしていなかったのだろう。
半信半疑といった表情のまま目を瞬かせるスザクに、ライはため息をつく。
がりがりと頭を掻くと、そのままふいっと視線を逸らした。
「ルルーシュはいじっぱりだから、自分が言い出した約束を破ろうなんて、これっぽっちも考えない。なのに、最近寂しそうにしていることが多いって、C.C.から連絡をもらったんだ」
ルルーシュとC.C.、ライの3人は、EUの山奥で一緒に暮らしている。
スザクに助力するためにその家を離れている間、ライは定期的にC.C.と連絡を取り、ルルーシュの様子を聞いていた。
つい先日したその電話で、そんな話を聞いて以来、実はこっそりと考えていのだ。
たまには、ルルーシュとスザクを会わせてあげても良い。
その方が、2人の精神安定上良いだろうから。
「だから、会いに行ってやってくれ」
「ライ……」
真っ直ぐに視線をスザクに向けて、頼み込む。
こんな言い方をすれば、スザクも断ることはできないだろう。
枢木スザクとは、そういう人間だから。
「言っとくけど、あくまでルルーシュのためで、君のためじゃないからな」
「……うん。ありがとう」
少し肩を落として告げれば、帰ってきたのは満面の笑み。
ルルーシュが可愛いと豪語していたそれを見て、ライはため息をつく。
それを見て、何を勘違いしたのか、スザクは不安そうに首を傾げた。
「でも、本当にいいの?」
「ああ」
スザクが何を思ってそう尋ねてきたのか、しっかりと理解しているライは、不安そうに自分を覗きこむ彼に向かい、にやりと微笑む。
「元々僕は時々影武者でゼロをやっていたんだ。1日くらい、完璧に演じて見せるさ」
それは、黒の騎士団時代の話だ。
ルルーシュがどうしてもゼロになれないとき、ルルーシュという存在とは別に、ゼロが必要だったとき。
そんな時、ライはよく影武者としてゼロを演じていた。
スザクを演じることは、難しいかもしれない。
けれど、ゼロならば、それなりに彼らのゼロに近い演技はできるだろう。
その確信があったから、ライは笑う。
もしも何かヘマをしたとしても、スザクに押し付ければいい。
ルルーシュのパートナーの座を譲り渡したのだから、それくらいのことは許されるだろう。
「本当に、ありがとう、ライ」
ライがそんなことを考えているとは露知らず、スザクは嬉しそうに笑う。
そして、手早く着替えを始めた。
ゼロ服ばかりのクローゼットの中に、隠すように置かれている小さなプラスチックの箪笥。
その中から私服を取り出し、手早く身に着ける。
着替えを終えると、スザクはクローゼットを閉め、くるりと振り返った。
律儀にデスクの傍に移動していたライは、その姿を見て苦笑する。
少し汚れているように見える青のロングジャケット。
それは学生時代と何も変わらない、スザクの私服だった。
それしか見た記憶のないライは、いっそそれしか持っていないのかと疑う。
いや、むしろ、わざとその服を選んだのかもしれない。
その服は、ルルーシュとスザクが学園にいた頃に、スザクが着ていた服なのだから。
ライの考えなど知らないスザクが、部屋の中央に立つ。
目を閉じると、左腕を天井へと伸ばした。
再び目が開かれたとき、スザクの瞳の色は片方だけ色を変えていた。
左と同じだったはずの右の翡翠は真紅に染まり、その中には紅い刻印が浮かんでいる。
ギアス能力が発動している証であるその刻印が羽ばたくと共に、スザクの手が振り下ろされた。
彼の目の前、手が通った部分に黒い線が走り、ぱっくりと開く。
何度見ても珍しいそれに、ライは思わず感心した。
空間跳躍――空間を切り裂き、別の場所と繋げることで、瞬間移動を可能とする能力。
それが、スザクがルルーシュとの契約で手に入れたギアスだった。
「じゃあ、行ってきます!」
「ああ。行ってらっしゃい」
くるりと振り向いたスザクを、ライは笑顔で送り出す。
それに笑顔で答えると、スザクは自ら作り出した穴の中に飛び込んだ。
一瞬の後、その穴が閉じ、空間に走った黒い線が消える。
完全にそれがなくなったことを確認すると、ライはふうっとため息をついた。
「まったく……。僕も甘いな」
ルルーシュとスザクが、新たに交わした約束のために、互いに会おうとしていないことは知っている。
そのために、ルルーシュがいつも寂しそうにしていることだって、知っていた。
だから、せめて今夜くらいは。
愛する人と過ごす日であるその聖なる夜くらいは、2人一緒で過ごせる時間をあげたいと思った。
そんなことを言えば、きっとC.C.が甘いと言って怒ることは、予想していたけれど。
くすくすと笑っていると、扉をノックする音が聞こえた。
声が違うことに気づかれないように低い声音で、短く返事をすれば、聞こえてきたのは懐かしい声。
「失礼します、ゼロ様」
それに思わす頬を緩ませて、仮面を被る。
「そろそろ会議のお時間です」
「今行きますよ、神楽耶様」
変声機を通して答え、扉のロックを解除する。
一度だけ室内を振り返ると、ライはそのまま部屋を後にした。
(ルルーシュ!会いに来たよ!)
(スザクっ!?お前、約束はどうした!?)
(やれやれ……。あいつは本当にこいつらに甘いな)
(メリークリスマス、ルルーシュ)