月光の希望-Lunalight Hope-

信じていたなんて、嘘

ルルーシュの傍にいればよかった。
ずっとずっと、傍についていればよかった。
少しでも希望をなくしたくないと思って、ジェレミアと共に外に出ているうちに、こんなことになるとは思わなかったんだ。



「これはどういうことですか?」

帰艦し、蒼月から降りた途端に目にした光景に、ライは愕然としていた。
戻った直後に目にしたのは、天井部分が破壊された四号格納庫。
探索任務を理由に、次々と発進していく暁隊。
そして、蜃気楼の姿ない、空っぽの彼専用格納庫。
驚きはいつしか焦りに変わり、その感情のままに、ライはパイロットスーツのままブリッジに乗り込んだのだ。
そこにはカレン以外の騎士団創立時からの幹部たちが揃っており、エレベーターの扉が開いた瞬間、現れたライの姿に誰もが目を瞠った。

「蜃気楼が奪取されたって、ゼロがいないって、どういうことですか?」

格納庫にいた団員から聞き出した言葉を頼りに、問いかける。
主だった幹部の誰もが視線を逸らす。
居合わせてしまったオペレーターの3人は、何とも居づらそうに俯いてしまった。
しんと静まり返る室内。
けれど、答えが返らない限り、ライも引くつもりはない。
もう一度問いかけようとしたそのとき、俯いたままの杉山が、ゆっくりと口を開いた。

「ゼロは、殺されたよ。あの、ロロって奴に」
「嘘だっ!」

杉山が言い切るか否かのタイミングで、ライは叫ぶ。
迷いのないその言葉に、ようやく何人かの団員が彼へと視線を向けた。

「ロロがゼロを殺すはずがありません。他の誰を殺しても、彼はゼロだけは殺さない」
「……なんでそんなこと」
「ロロが、ゼロを兄と呼んでいるからです」

ロロは、ルルーシュを自分の兄と呼び、慕っている。
ルルーシュがロロを憎んでいることは、ライだって気づいている。
ライ自身、シャーリーを殺したロロを憎んでいる。
けれど、今のロロの根底にあるものだけは、信じていた。

「ロロは自分の兄であるゼロを守るために、ブリタニアを捨てた子だ。あの子が、ゼロを殺すわけがない」

ロロは、ルルーシュのことが好きだ。
大好きで大切だから、何に変えても守ろうとしている。
彼と共にいる未来のために、どんなことでもやると、そう覚悟していることも知っている。
そのロロが、ルルーシュを殺すなんてことがあるはずはないのだ。

「ロロの責任にするということは、蜃気楼を奪ったのは、ロロですね」

すうっと目を細めてそう核心を込めて訪ねれば、途端に幹部たちはびくんと肩を震わせる。
ライがそれに気づかないはずもない。

「あの子が行動を起こすなら、必ずゼロが理由だ。答えてください。ゼロは何処です?あなたたちは、彼らに何をしたんだ」

ぎろりとした瞳で全員を見回すと、それを細め、答えを要求する。
その視線から逃げるように視線を逸らした扇が、おもむろに口を開いた。
「何かしたのは、ゼロの方だ」
「え?」
「そうだ。何かしたのはゼロの方だっ!ゼロが、俺たちを裏切ったからっ!」
「は……?」
玉城の吐き捨てた言葉の意味がわからず、ライは思わず言葉を止める。

彼らが何を言っているのか、本気でわからなかった。
だって、そんなはずないのだ。
たったひとつの思いのために作り上げたこの組織を、ゼロが捨てるはずがない。
だから、尋ねた。
彼らの言葉の真意を、確認したかったから。

「ゼロが裏切ったって、どういうことですか?」
「ゼロは、俺たちを利用していたんだ」

杉山がはっきりと言い捨てる。
それを聞いた途端、ライの瞳が先ほどのように細められた。

「……何を言っているんです?そんなの、今更でしょう?」

そう告げた途端、その場にいる全員の視線がこちらに向けられる。
驚いている者。目を細めている者。
様々な反応を見せる彼らを、ライは冷ややかな目で見下ろしていた。

「ゼロは確かにあなたたちを利用していた。でも、あなたたちだってゼロを利用していたじゃないですか」

そう、ゼロだけじゃない。
彼らだって、ゼロを利用していた。
日本を取り戻すために、ブリタニアを敵とする彼を利用していたのだ。

「ゼロの起こす奇跡を信じ、彼を救世主として持ち上げることで利用していたのは、あなたたちだって同じだ」

だからゼロは結果を出してきた。
奇跡を起こし、彼らを信じさせるために。
それに不安を抱かなかったといえば、嘘になるけれど。
けれど、今までずっと、ゼロは知略を駆使して結果を出し続けてきたのだ。

「だが、この奇跡の力はペテンだった」
「ペテン?」
ずっと顔を背けていた扇が、こちらを見る。
視線が絡み合った瞬間、ライは思わず息を呑んだ。
人の良い――いや、テロリストをするには良さ過ぎる扇の目に浮かんでいた、色。
それは、ゼロが、そしてスザクが浮かべていた色――『怒り』だった。

「ゼロの正体は、ブリタニアの皇子。彼の奇跡は、ギアスという力で人を操る力だ」

扇の言葉に、ライは紫紺の瞳を見開く。
震えそうになる体を、拳を握って懸命に押さえ込む。
けれど、動揺は完全には隠し切れず、パイロットスーツを着たままの肩がぶるりと震えた。

ブリタニアの皇子。
ギアスという力。
それは、ゼロが――ルルーシュが隠し続けてきた真実だ。
1年前は、本人とC.C.以外では、自分しか知らなかった事実。
今では、正規の団員としては、自分とカレンしか知らない事実のはずだ。
けれど何故、どうしてそれを、彼らが知っている。

「その力でゼロは俺たちを操り、利用していた。俺たちは、ずっと騙されていたんだ」

そう告げる扇の声には、憎しみが篭っている。
いや、扇だけではない。
「信じていたんだ。井上だって、吉田だって……っ!」
「なのに、あいつ、俺たち日本人を操って、騙し続けて……」
杉山も南も、その場にいる誰もが、憎しみを込めてゼロを呼んだ。
その姿を見ているうちに、ライの心は冷えていく。
明かされた真実ばかりを見て、過去を見ない彼らに、怒りが募っていく。

「でも、それがあなたたちにとってマイナスになったことがありましたか?なったことはないでしょう?いつだって、全て黒の騎士団にとってプラスになっていた」

確かにルルーシュは、彼らを利用していた。
それでも、騎士団のマイナスになるような行動は起こしていない。
日本を取り戻し、ブリタニアを破壊するために、彼は常に行動してきたというのに。

「じゃあ行政特区の虐殺も、俺たちにプラスにするためだったというのかっ!?」

ひゅっと息を呑む。
紫紺の瞳が、先ほどよりもずっと大きく見開かれた。
ライのその反応をどう取ったのか、扇は僅かに目を細め、続ける。
彼らの知る「行政特区の真実」を、ライに言い聞かせるかのように。

「俺たちは、あれがユーフェミアのやったことだと思っていた。けど!実際は違った!あれは、ゼロが命じたんだ!ユーフェミアに、日本人を虐殺しろと!!」

そう、確かにあれは、ギアスの力によるものだ。
けれど、違う。
ルルーシュが、望んでそのギアスをかけたわけではない。
かけようとして、かけてしまったんじゃない。

「それに、ゼロは先の戦いで、フレイヤのことを事前に知っていた。だが、奴はそれを我らに伝えなかった。あの男は、トウキョウがああなる可能性を知っておきながら、我らに伝えなかったのだ!」

千葉の言葉に、ライの紫紺がますます大きく見開かれる。
彼女の告げた「真実」ではない。
ライの知る「真実」のルルーシュが取った行動が生んだ結果に、愕然とした。

ライは知っていた。
何故ルルーシュが、フレイヤのことを騎士団に伝えなかった、その理由を。
彼は信じていなかっただけだ。
スザクの言葉を、信じられなかっただけなのだ。
信じていない情報を仲間に伝えるほど、彼は浅はかではない。

『スザクに、裏切られた……っ!』

戦闘開始前、通信でそう告げてきたルルーシュの顔が蘇る。
痛みと憎しみに歪んだ、その顔。
自分が泣いていることにも気づかず、ただ怒りに任せてスザクを罵っていたときの、あの顔が。

「あの男が伝えてさえいれば、朝比奈は……っ」
「そんな……ゼロ……」

あの行動が、傷ついた彼が取ってしまった行動が、こんな結果を呼ぶなんて。
予想していなかったかといえば、嘘になるかもしれない。
けれど、それでも、信じていたのだ。
最初からゼロを疑っていた千葉や朝比奈はともかく、自分が参加する前から騎士団に居た扇や玉城は、ゼロを信じようとしてくれると信じていた。
創設当時の黒の騎士団を知っていたからこそ、信じていたかった。

「全ては、シュナイゼルとちぐ……ヴィレッタが教えてくれた」

言葉を失い、自らの思考に沈みかけたライは、扇の口から出たその言葉にぴくりと反応した。

「……シュナイゼル?」

それは、ブリタニアの第二皇子の名前。
ゼロの正体を知り、スザクを使ってルルーシュを嵌め、ルルーシュを絶望に突き落とした男の名前。

「どうして、ここでブリタニアの宰相の名が出てくるんです?」
「ここに来たんだ。特使として。そのときに……」
「ちょっと待ってください」

扇の言葉を、ライが止める。
一瞬で光を取り戻した紫紺が、真っ直ぐに扇を、周囲にいる幹部を射抜く。

「全部、シュナイゼルから聞いたんですか?今の話、全部?」
「……ああ、そうだ」
「それを、信じたんですか?何の証拠もなく!?」
「証拠ならある」

扇がそう言うと同時に、ディートハルトが動く。
ライの傍まで来た彼は、ブリタニアの国旗が描かれたファイルを差し出した。

「シュナイゼルが用意した、ギアスにかけられた可能性のある人間のリストです」

渡されたファイルを開く。
それを見たライは僅かに目を見開き、唇を噛み締めた。
そこに納められていたのは、今までルルーシュが接触した、あるいはブリタニア側が可能性を考えた全ての人間。
おそらくはスザクの証言からの憶測も混じっているのだろうそのリストに、ライは込み上げてくる衝動を抑えることに必死になる。

「彼は証拠のテープを持っていた。ゼロは、枢木スザクの前で、ユーフェミアにギアスをかけたと証言したよ」

リストに目を落としたまま黙り込むライに、扇は淡々とした声で告げる。
その言葉に、ライはぎりっと歯を噛み締めた。
湧き上がる怒りを、押し込める。
声に感情が入らないよう理性を総動員させ、口を開いた。

「……その前後の会話は?」
「え?」
「その前後の会話を、あなたたちは聞いたんですか?」
「い、いや。聞いていないが……」
「っ!?馬鹿かあんたたちはっ!!」

扇の答えに、ついにライの怒りが爆発する。
手にしたリストを床に叩きつけ、怒りの篭った紫紺で目の前の幹部を睨みつけた。

「たったこれだけで?その言葉だけで!?あなたたちはシュナイゼルを信じたのかっ!?今まであなたたちを率いてきたゼロではなく、敵国の宰相をっ!」
「だがっ!ゼロも認めたんだっ!それをっ!!」

激昂するライに、扇も負けじと叫び返す。

「あいつは、俺たちを駒だと言ったっ!全部ゲームだったんだって言ったんだっ!」
「それは全部……」

そこまで言いかけて、はっと言葉を止める。
振り上げていた手を下ろしたライは、愕然とした表情でその場にいる全員を見下ろした。

「まさか……」

彼らにゼロの正体と力を教えたのは、シュナイゼルだと言った。
そして、枢木神社でスザクの後ろにいたのはシュナイゼルだったと、ルルーシュ本人から聞いた。
その共通点から導き出される真実。
スザクと今の黒の騎士団から思い浮かぶ、それは。

「あなたたちは、売ったんですか?ゼロを、ブリタニアに」
「……そうだ」

震える声で尋ねた問いを肯定したのは、扇ではなく藤堂だった。
憎しみを込めた瞳でこちらを見上げる彼は、淡々と告げる。
彼らがゼロに叩きつけた、現実を。

「シュナイゼルと取引をした。ゼロを引き渡せば、日本を返すと」

その瞬間、体を駆け抜けた衝撃に、膝が折れそうになった。
落ちる瞬間に踏ん張り、何とか倒れなかったものの、体がぐらりとふらつき、壁に手をついて必死に耐える。

「そんな……。じゃあ、まさか……」

がたがたと体が、声が震える。
ルルーシュに襲い掛かった現実。
ナナリーを、生きる理由だった彼女を失った直後に、それが突きつけられたのならば。

「ルルーシュ……、君は……っ!」

死ぬつもりだったのか。
全部全部背負って、受け入れて。
全てを諦めて、たった独りで。

ぐっと拳を握り、体を起こす。
そのまま踵を返した瞬間、下方から声が上がった。

「何処に行くんだ!ライ!」
「あなたたちには関係ないっ!!」

感情のまま吐き捨てて、エレベーターのボタンに手を伸ばそうとする。
あと少しで触れそうだった手は、しかし、別の誰かに捕まれ、体を入口から引き離された。
階段を転げ落ちそうになった体を、傍の柵を掴むことで支え、自分を突き飛ばした男を睨みつける。

「どいてください、藤堂さん」
「それはできない」

目の前に立ちはだかるのは、先ほどまで扇の傍にいた男。
奇跡の男、藤堂。
かつてゼロに二度命を救われ、超合集国連合設立のそのときまでは確かにゼロを信用していたはずの豪傑。

「君は、ゼロを追いかけるつもりか」
「当たり前ですっ!」
「なら、行かせるわけにはいかない」
抜かせないように立ちはだかる藤堂を、ライは鋭い目で睨みつける。
感情のままに怒りを乗せた目ではなく、戦場で敵を睨みつけるときの、その目で。
「どいてください。邪魔をするなら、藤堂将軍でも容赦しません」
「ライ。君はギアスにかかっているんだ」
「そうだ、ライ!ギアスにかかっているから、君はゼロを信じている!でもそれは、君の意思じゃないんだ!」
静かに告げた藤堂の言葉に、扇が必死で呼びかける。
その言葉に、ライの感情に変化が起こる。
怒りに塗れていた心に、別の感情が浮かび上がり、支配する。

「……僕が、ルルーシュのギアスにかかっている?」

がっくりと首を落とし、ぽつりと呟く。
その言葉に、藤堂が僅かに、扇があからさまにほっとしたような表情を浮かべた。
ライが彼らの言葉を聞いたと思ったらしいその愚かな行為に、腹の底から笑いが込み上げる。
その笑いを表には出さなかった。
ただ口の端をくっと持ち上げ、ゆっくりと顔を上げる。

「……ありえない」

その表情に、言葉に、目の前にいた藤堂が目を瞠る。
伏せられた紫紺が、真っ直ぐに藤堂を射抜く。
視線が絡み合った瞬間、ライは笑った。
普段の彼からは想像することができるはずもないその冷たすぎる笑みに、それを目にした誰もが息を呑み、あるいは小さな悲鳴を上げる。

それは、『ライ』が決して浮かべることのなかった笑み。
記憶を失う以前、ルルーシュに出会う以前の彼が浮かべていた、『王』の笑み。

「彼は僕にギアスをかけていない。僕に、ギアスをかける理由がない」

くすくすと笑うライは、確信を持ってそう告げる。
けれど、今の彼らがその言葉を信じるはずがない。

「それすらギアスで信じ込まされているだけだと、何故気づけないっ!?」
「違うと否定できるからですよ、藤堂将軍」

そう告げた直後、ライの顔から笑みが消えた。
瞳に浮かべた冷たい色を隠すことなく、藤堂を見つめ、幹部たちを見下ろす。
すうっと細められた瞳に、藤堂は思わず息を呑んだ。

「だって僕はルルーシュを知っている。ゼロではない彼を。ルルーシュという人間の、『本当の姿』を知っている。あなたたちが知ろうとすらしなかった彼を、知っている」

アッシュフォード学園で生活していた彼を。
最愛の妹に接していたときの彼を。
カレンを取り戻そうと必死になっていた彼を、シャーリーを喪い、自分を責めていた彼を、知っている。

「なに、を……」
「本当のことです」
動揺する扇に、ライははっきりと言い捨てる。

「あなたたちは知ろうとしましたか?ゼロのことを。彼に、本当の意味で歩み寄ろうとしたことが、ありましたか?なかったでしょう?ゼロはどうせ何も言わないからと決め付け、話をしようともしなかった」

自分はずっと見てきた。
最初の頃の彼らを、ゼロに助け出された後の彼らを、ずっと見てきた。
だから気づいた。だから知った。
彼らは、ゼロを認め、受け入れている裏で、彼を拒絶し、突き放してきたのだ。
今まで目を逸らしてきたそれに改めて気づいて、ライは薄く笑みを浮かべた。

「……ああ、なんだ。あなたたち、最初からゼロのことを信じてなんかいなかったじゃないですか」

くつりと笑ったライのその言葉に、扇がはっと顔を上げる。
彼はそのまま頭を振ると、冷ややかに自分たちを見下ろすライを見上げ、叫んだ。

「そんなことはないっ!俺たちは……」
「信じていたというのなら、何故聞こうとしなかった?」

その言葉すら一蹴して、ライは問いかける。
ゆっくりと階段を下りながら、冷ややかな目で彼らを睨みつけたまま。

「本当に信じたいと思っていたなら、どうして歩み寄ろうとしなかった?何故、話し合おうとしなかった!」

感情の篭っていなかった言葉に、徐々に怒りが混じり始める。
完全に階段を下りきったとき、冷ややかだったその紫紺には、怒りと憎しみが浮かび上がっていた。

「信じていなかったからだろう?あなたたちは、一度だってゼロを、本当の意味で信じていたことなんてなかっただろう!?」

否定はさせない、させはしない。
彼らは知ろうとしなかった。
ルルーシュが仮面で覆い隠した本心も、何故ブリタニアを壊そうとしているのかも、知ろうとしなかった。
話さないからと諦め、全ての責任を押し付け、背負わせてきただけだった。

「彼の考えも、願いも、夢も、本当の想いも、何ひとつ知ろうとしなかったあなたたちが、彼を信じていただと?ふざけるなっ!!」

その事実を突きつけるように、自覚させようとでも言うように、ライは叫ぶ。
ルルーシュが、本当は誰よりも優しい彼が、どれほど傷ついてきたのか。
どれほどのものを喪ってきたのか。
彼らはそれを知らずに、ルルーシュをブリタニアに売った。
彼が一番憎しみ、一番傷ついた最悪な方法で、彼を裏切った。
それが悔しくて、辛くて、痛くて、悲しくて仕方がなかった。

激昂し、叫ぶライを、幹部たちは――藤堂さえも呆然と見つめる。
その叫びを沈めたのは、扇でも藤堂でも、ライ自身でもなかった。

「そのくらいにしておけ、ライ。どうせそいつらには通じない」

司令室に響いたその声に、ライははっと叫びを止める。
勢いよく振り返ったその場所――藤堂の隣には、いつの間にか1人の少女が立っていた。

「C.C.!?」

白のアンダーとホットパンツを身につけただけの翠の魔女。
ギアス響団殲滅作戦以来、記憶を喪い退行していたはずの少女の姿に、ライは目を瞠り、体調不良で臥せていると聞いていた他の団員は意外な人物の登場に驚く。
そんな彼らを冷ややかに見つめた彼女は、肩に掛かった髪を払いながら、ふうっとため息をついた。

「敵の情報を、それも奴らの都合の良いように組み替えられた情報を鵜呑みにしてあいつを切り捨てるような奴らに、それ以上何を言っても無駄だ」

すうっとライの目が細められる。
その姿に、態度に、確かに驚いた。
けれど、それすら予想できたことではあったから、ライは感情を吐き出すように息を吐き、静かな瞳で彼女を見上げる。
「……戻ったのか」
「ああ。無理矢理戻されたというべきか。そんなことよりも……」
魔女が手を伸ばす。
その金色の瞳で、紫紺の瞳を持つ銀の少年だけを見つめる。

「共に行くか?ライ。私たちの共犯者のもとへ」

C.C.のその問いに、ライは目を瞠った。
「ルルーシュが何処にいるか、知っているのか?」
「ああ、知っている」
「どこだ?」
「お前が1年前眠りについた場所だ。ルルーシュは、そこに向かっている」
「あそこに……っ!?」

自分が黒の騎士団を、ルルーシュの傍を離れている間にいた場所。
眠りについていたあの場所が、ただの遺跡ではないことには気づいていた。
その場所に、ルルーシュは向かっている。
ロロと共にか1人か、それはわからないけれど。

「私と共に行くか?」

真っ直ぐにこちらを見つめる魔女が、再び問う。
一度記憶を捨てた彼女が、何を考えているかもわからない。
けれど、ライにはもう、ここに残るつもりなどなかった。
自分の居場所は、ただひとつだと決めている。
それは、もう黒の騎士団でないと、知っていたから。

「ああ、行こう。君とともに、ルルーシュのもとに」

扇や藤堂たちが驚き、ライを止めようと叫ぶ。
けれど、ライはもう彼らの言葉など聞いていなかった。
ただ手を伸ばす魔女の手を取る。
ただ1人、絶対と決めた少年の傍に向かうために。

そして、かつて希望を齎した銀の少年は、魔女と共に黒の騎士団を去った。






ひと月後、団員たちはブリタニア帝都から発信された国際放送に驚愕することになる。
そこには映っていたのは、アッシュフォード学園の制服を着た3人の少年。
1人は真紅の双眸を持った新皇帝。
1人は死神の名を持つ白の騎士。
最後の1人は、ただ1人の主のために騎士団を捨てた銀の騎士だった。







TURN19-21派生。
公式騎士皇帝にやられた。
でもライにも騎士になってほしかったので、やっちゃった。
カレンがこの場にいないのは、彼女だけは団員と違う気持ちでいてほしいから。
2017.12.31 ほんの少しだけ修正。



2008.9.6