銀の目覚め
この出会いが偶然だったのか、必然だったのかわからない。
初めて出会ったとき、彼は僕をとても警戒していたように思う。
それが柔らいだのは、いつからだっただろうか。
気がつけば、いつの間にか彼が1番近くにいた。
僕に力のことを教えてくれた魔女よりも、記憶の奥底にしまい込んだ妹の姿を重ねていた少女よりも、彼が1番近くにいた。
いつも目で追うようになっていて。
彼の強さも、弱さも知った。
それでも折れない理由も知った。
だから魔女に連れられて参加することになった黒の騎士団のアジトでも、すぐにわかった。
彼は彼だと。
だから黒の騎士団に参加することを迷うことはなかった。
彼から境遇を聞かされていたこともあって、ブリタニアと戦うことにも抵抗はなかった。
離れようと思ったのは、自分が彼を傷つけてしまう可能性を思い出してしまったから。
あの頃は、彼も力の持ち主だとは、彼からも魔女からも聞いていなかったから。
だから離れてしまった。
嘘をついて、僕に関する、全ての記憶を奪って。
そうすることで、彼を傷つけるものから少しでも彼を遠ざけられると思っていた。
そう信じて、このの世界を去ったというのに。
その願いが打ち砕かれたのだと知ったのは、魔女に強制的に目覚めさせられたとき。
再びこの世界に足を下ろしたとき、世界は大きく変わっていた。
そして、知った。
彼が僕と同じ力を持つ者であったことを。
彼の身に起こったことを。
「戻ってこないか?」
全てを話し終えた魔女は問う。
びしょ濡れのままのパイロットスーツを身につけたままの魔女の言葉に、振り返る。
「黒の騎士団へ?」
「そうだ。いや」
魔女が静かに首を振る。
「正しくは、あいつの隣に、か?」
ふっと笑って問いかける彼女の言葉を、拒絶する理由を、今の僕は持っていなかった。
「そうだな」
ふっと笑う。
きっとその笑みは、僕がかつて浮かべていたものとは違うだろう。
「それで、どうするんだ?」
「行こう。君と一緒に」
差し出された手を取る。
満足そうに笑った魔女は、ふとその笑みを消した。
「そういえば、お前、名前は?」
「名前?」
「全てを思い出したから、お前はここに来たのだろう?」
そう思い出した。
彼女の言うとおり、全てを。
「名前は以前のままでいいのか?それとも別の名前があるのか?」
問いかけの意味に納得する。
確かにライは僕の本名ではない。
けれど。
「ライでいい。いや、そうだな……」
少しだけ、考える。
そうしてから顔を上げた。
「ライ・エイド。フルネームが必要なら、今後はそう呼んでくれ」
はっきりとそう告げると、魔女は驚いたように目を丸くする。
暫くして、その意味を理解したのか、楽しそうに笑った。
「お前はおもしろい奴だな」
「そうかな?」
にやりと笑みを返せば、ますます楽しそうに笑う。
そのまま再び差し出された手を、強く握り返した。
さあ、ここから始めよう。
僕たちの叛逆を。
だから待っていてくれ。
必ず君を迎えに行く。
劇場版に触発されました。久しぶりにライルル書きたい!
次回は「叛道」ですね!