月光の希望-Lunalight Hope-

完璧な代役

朝起きたら、目の前に自分の顔があった。
そんな事態が、まさか自分たちに起こるとは思っていなった。



「落ち着いたかい?ルルーシュ」
「一応な……」
ベッドに座ったままがっくりと項垂れているルルーシュを、ライが覗き込む。
と言っても、中身が入れ変わってしまっているから、端から見れば、ルルーシュがライを覗き込んでいるという奇妙な光景ができあがっていた。
顔を上げれば、そこにいるのは見られた銀髪の青年ではなく、写真や鏡でしか見ることのないはずの自分の顔で、ルルーシュはやはりそのまま頭を抱える。
「しかし、一体何がどうしてこうなった……!」
「僕に言われても」
目の前で自分がきょとんと首を傾げる奇妙な光景。
その動作をした本人は、ルルーシュの顔のままため息をついた。
「まあ、だいたい犯人は見当はつくけどな」
「あいつか……!」
2人の脳裏に真っ先に浮かんだのは、全く同じ碧の髪を持つ女の顔だった。
というか、こんなことができるのは彼女以外に思いつかなかった。
「あの魔女……!一体何がしたくてこんなことを……!」
「あ、あはははは」
衝動のままに枕を叩けば、目の前にいる自分が苦笑を浮かべる。
その顔が、少しだけ緩んだかと思うと、先ほどとは違う意味合いのため息をついた。
「でも、ある意味よかったよな」
「何がだ!」
「入れ替わったのが僕とで」
「ほんの1ミリだってよいわけがないだろう!」
そもそも中身が入れ替わるなんて非常事態が起こることに、いいことなんてあるはずがない。
そう思って、怒鳴りつけようとしたとき、ルルーシュの顔をしたライの表情が、不意に真剣なものに変化した。
「だって、もしもスザクとかカレンだったらどうするんだ?今日は確か作戦日だろう?そんな日に、ゼロが不在ってわけにもいかないじゃないか」
その言葉に、ライの顔をしたルルーシュは、はっとサイドテーブルに置かれたカレンダーを見る。
確かに今日は、黒の騎士団の活動日で、ブリタニアの施設を狙った作戦の日だった。
それに気づき、ルルーシュは再び頭を抱える。
「そうだった……!あの魔女!そんな大事な日になんてことをしてくれたんだ……!」
「まあまあ」
「まあまあ、じゃない!こんな状態で作戦など……!」
「まあ、ほら。君は仮面を被ってしまえばわからないから大丈夫だよ」
確かに、仮面を被ってしまえば、ゼロの中身が違うなんてことは誰も気づかないだろう。
あの仮面は頭部の全てを覆い隠すフルフェイスで、声は変声機を通すため、実際の人間の耳には男とも女ともわからないものとなって届く。
加えて、ルルーシュとライの身長は、ライの方が若干高いが、ぱっと見ただけでは解らない程度の差しかない。
ならばゼロの方は問題がない。
「問題は、僕が戦力に数えられないってことだけど」
ルルーシュの方は顔を隠してしまえるけれど、ライの方はそうもいかない。
ナイトメアのパイロットにはヘルメットがない。
だから、ルルーシュの姿になってしまっているライは、今日の作戦には参加できない。
「負担がカレンに偏るのがちょっと気になるけど、仕方ない。僕は別任務ってことで作戦を変更してもらうしかないかな」
「仕方ないな……。わかった」
ライの戦力としての価値は、黒の騎士団ではとても貴重だ。
そんな彼を作戦から外さなければならないのは痛いけれど、そこは藤堂や四聖剣を配置してカバーするしかないだろう。
頭の中で作戦を練り直していると、不意に目の前の自分が心配そうに笑った。
「ついていけないのが心配だけど、十分気をつけて」
「わかった。ライ、お前は1日この部屋に……」
「いや、僕は普通に授業に出るから」
さすがに普通に生活するわけにはいかないだろう。
そう思って提案した言葉は、しかしあっさりとライに却下される。
一瞬思考を停止したルルーシュは、次の瞬間勢いよくライを見た。
「なんだと……っ!?」
「だってちょうどいい機会じゃないか。ゼロがいるときに君の姿が学園で目撃されれば、今後予測できる君への疑いを否定する材料になるだろう?」
ルルーシュの顔のままにっこりとライが笑う。
確かに、それが実際に出来れば、ルルーシュがゼロだと疑われる可能性を一気に潰すことが出来る。
けれど、他人を演じるなんてこと、そう簡単にできるばもないとも思っていた。
「大丈夫。疑われる隙なんてないくらいに君を演じてみせるよ」
ライはそんなルルーシュの心配など気にもしていないかのように、とびきりの笑顔で笑って宣言した。






翌日、2人の身体は無事に自分のものに戻っていた。
作戦も成功し、ほっとして登校の準備をする。
昨日の心配をしつつ、教室に着いたルルーシュは、早々に目を丸くすることとなった。
「あ、ルルおはよう」
「おはようシャーリー」
「昨日の会長の案なんだけどさー」
朝一番で声をかけてきたシャーリーが、何の疑問も持たずに昨日の生徒会で出たのだろう案件の相談に来た。
内容はライから聞いていたから、その相談にすらすらと答える。
そうしていると、後ろからぽんっと肩を叩かれた。
「よう、ルルーシュ。昨日のバイト凄かったなー。またよろしく頼むぜー」
にこにこと笑うリヴァルは、とても上機嫌だ。
確か、昨日ルルーシュの姿をしたライを誘い、賭チェスに言ったと聞いていた。
ライはあっさりと「勝ったよ」と話しただけだったが、リヴァルの顔を見ると、その勝負はきっと見事な勝利だったのだろう。
思わずライに視線を向けようとしたとき、スザクが教室の中に駆け込んできた。
「ルルーシュおはよう。昨日は急に抜けてしまってごめん」
「あ、ああ。いいんだ。おはようスザク」
スザクまでもがそんな風に自然に話しかけてきた。
「ルルちゃん!昨日はあっりがとー!相変わらず完璧な書類で助かっちゃった」
放課後、生徒会室で顔を合わせたミレイも、ご機嫌で声をかけてくる。
さすがにナナリーとは顔を合わせないようにしたらしく、彼女は賭チェスで夜遅くなったことに怒っているだけであったのだが。

「ここまで、誰もあれが俺じゃないことに気づかないとは……」
「完璧だったぞ、ライのルルーシュは。私も最初は失敗したかと思ったくらいだ」
自室に帰り、ベッドに腰を下ろして呟くと、いつの間にかやってたC.C.が感心したようにそう呟いた。
その言葉に怒りよりも先に、信じられないという感情が浮かんできて、思わず共に部屋にやってきて、ソファで本を読んでいたライが顔を上げる。
そうして、にっこりと笑った。

「疑う隙なんてないくらいに演じてみせるって言っただろう?」

自信満々にそう言ってのけたライの笑顔は、とても自信に溢れていた。
それを見たルルーシュは、たっぷり数秒固まった後、盛大なため息をついた。
「次からゼロの影武者はライに頼むか……」
「そうしろ。その方が私も楽だ」
ため息をつきながら、呆れたようにそう言ったC.C.の言葉を聞いて、ルルーシュはもう一度ため息をついた。




ずっとポメラの中に放置してましたライルル入れ替わりネタ。
こういうのはきっと漫画の方が面白いなと思いつつ。



2013.10.20