月光の希望-Lunalight Hope-

ずっと一緒に

「シャーリーっ!」

廊下を歩いていると、呼び止められた。
振り返れば、向こうから見慣れた黒髪の少年が走ってくる。
駆け寄ってきた、ほんの少しだけ息の上がった彼に、首を傾げた。
「ルル?どうしたの?」
「今時間、大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
今日は水泳部の練習はない。
加えて生徒会の用事も入っていなかったから、そのまま帰ろうと思っていたところだったのだ。
だから素直にそう答えれば、目の前にいるルルーシュはほっとしたような表情を浮かべた。
「ちょっと一緒に来てくれるか?」
「え?いいけど」
不思議に思ったけれど、すぐに同意する。
彼の誘いを断る理由なんて、彼女にはなかったから。



ルルーシュに連れられてやってきたのは、クラブハウスの生徒会室だった。
通い慣れたその前に立ち、シャーリーは首を傾げる。
まだルルーシュに、自分を探していた理由を教えてもらっていないのだ。
生徒会の仕事なら、彼は真っ先にそれを告げるはずだから、たぶん違う。
それなら何だろうと思っていると、扉の前で立ち止まったルルーシュが振り返った。
「驚くなよ」
「え?」
にこりと微笑んだルルーシュの言葉を理解するより先に、彼が生徒会室の扉を開いた。
その瞬間、ぱんっと破裂音が鳴り響いた。
一瞬遅れて降り注ぐ紙吹雪。
それと同時にかけられた声に、広がった光景に、シャーリーは思わず見入ってしまった。

「ハッピーバースデーっ!シャーリーっ!」

目の前に広がったのは、クラッカーを持った生徒会メンバーと、テーブルの上に広げられた料理の数々。
その中でも一際目を引く、イチゴのデコレーションケーキ。

「わあ……っ!」

漸くこれが自分の誕生パーティだと認識したシャーリーが、感嘆の声を上げる。
「すっごーいっ!これ、みんなで考えてくれたの!?」
「そうよぉ~!驚いた?」
「驚きました!うわぁっ!すっごーいっ!!」
並べられた料理は、おそらくミレイとルルーシュで用意したのだろう。
品よく並べられていて、こう言ったら言い過ぎかもしれないが、とても綺麗で美味しそうだ。

「あ、ちなみにそのケーキ、ルルーシュの手作りな!」
「えっ!?」

リヴァルが中央のデコレーションケーキを示す。
その言葉に反応したシャーリーは、勢いよくケーキを見た後、いつの間にかテーブルの側へ移動していたルルーシュを見た。

「これ、ルルが作ってくれたの?」
「あ、ああ」

予想外の反応だったのか、ルルーシュは驚いたような表情で頷く。
その答えを聞いた途端、ぱあっと顔を輝かせたシャーリーの肩に、ミレイが手を回した。

「全部食べてもいいのよ?シャーリー」
「えっ!?」
「そうそう。ルルーシュのプレゼントなんだから、独り占め全然オッケーだぜ」
「か、会長!リヴァルも、何言ってるのよっ!みんなだって、食べたいでしょう?ねぇ?ニーナ!」
「私もいいわよ。シャーリーがそうしたいなら」
「そ、そそそ、そんなこと!ナ、ナナちゃん!ナナちゃんもルルのケーキ食べたいよね!」
「そうですね。お兄様のお菓子は美味しくて、大好きですけど」
ふわふわとした笑顔で、ナナリーがルルーシュの立つ方向へ顔を向ける。
兄が自分を見たことがわかったのか、にこりと微笑むと、その笑顔のままシャーリーに顔を向けた。

「今日は、シャーリーさんに譲ってあげます」
「ナ、ナナちゃんっ!?」

予想外の言葉に、シャーリーの頭はますます混乱する。
真っ赤になって暴走を始めたシャーリーを見て、ミレイが、リヴァルが、ニーナが微笑ましい笑みを浮かべていることに気づかない。
そんな中、1人状況を理解していない少年が、恐る恐るといった様子で彼女に声をかけた。

「えっと、シャーリー?」
「はいぃぃぃぃっ!!」

暴走中のシャーリーの、まるで悲鳴でも上げるかのような声に、ルルーシュはびくりと体を震わせた。
一瞬きょとんとした表情を浮かべた彼は、シャーリーの暴走を何と解釈したのか、すまなそうな表情を浮かべる。

「苦手だったか?イチゴ」
「そ、そんなことないよ!そんなことないっ!すごくおいしそうだしっ!」
「そうか……?」
「そうそう!いただきますっ!」
自分のせいで翳ってしまったルルーシュの表情。
それを見た瞬間、そんな表情をさせてはいけないとばかりに、傍に置かれていたフォークを切り分けられていないケーキの端に突き刺す。
勢いのままにそれを口に含んだ途端、程よい甘さが口の中に広がった。

「……おいしぃ~っ!!」

ルルーシュの料理の腕は知っていた。
咲世子というお手伝いと共にキッチンに立つことも多々あり、その料理の腕はミレイがパーティを企画すると必ず振舞われていたから。
けれど、彼の作ったお菓子を食べるのは初めてで、その初めて食べたケーキの美味しさに、溜まらず頬を押さえる。
隣でよかったと微笑むルルーシュの笑顔が、美味しさを倍増させているのかもしれないなんて思ったのは、シャーリーだけの秘密だ。

「でも、ホントにルルが作ってくれたんだ」
「ああ。俺、ここのところ忙しくて、会長たちと違って、プレゼント用意できなかったしな」
「ううん。すっごく嬉しい!ありがとう、ルル」

ルルーシュは申し訳なさそうに言うけれど、シャーリーにとって、これは十分すぎるプレゼントだった。
ルルーシュが、自分のために一生懸命にケーキを作ってくれた。
それだけで心が温かくなる。
この場で踊り出したくなるほど弾んだ心は、直後のナナリーの言葉で思い切り跳ね上がった。

「お兄様。よろしければこの後、シャーリーさんと出かけていらっしゃったらどうですか?」
「え?」
「ナ、ナナちゃんっ!?」
「いいですよね?お兄様?」
「え?あ、ああ。別に構わないけど」
ルルーシュの合意を得たナナリーが、くるりとシャーリーの方を向く。
声を頼りに近づいてきた車椅子の少女に手招きされて顔を寄せると、耳の傍でそっと囁かれた。

「シャーリーさんに、今日だけお兄様を貸してあげます。ですから、楽しんできてくださいね」

予想できるはずもなかったその言葉に、シャーリーは勢いよくナナリーを見る。
気配でシャーリーの動きを察したらしいナナリーは、「それが私からのプレゼントです」と小声で告げて、にっこりと微笑んだ。

それは、ルルーシュが何よりも大切にしている妹から、認めてもらえた瞬間だった。

「ありがとう!ナナちゃん大好きっ!」

あまりの嬉しさに、ナナリーに抱きつく。
後ろでルルーシュが慌てていたけれど、それも気にならなかった。
ただただ嬉しくて、幸せで。
昨日終わってしまった七夕の恋人たちに、心の底から願った。



ルルーシュやみんなと、ずっとずっと一緒にいられますように。




シャリー追悼&1日遅れの生誕誕生祝い。
生まれてきてくれて、ルルーシュを好きになってくれてありがとう。



2008.7.9