力と呪いを受けし者
全てを狂わせる力がある。
全てを狂わせる呪いがある。
その力を欲し、父や仲間のために未来を勝ち取ろうとした者がいた。
力と呪いを以て世界を変えようとする者がいる。
寂しさを埋めるために力を欲した者がいた。
現状を打破するために力を欲した者がいる。
未来を欲した者がいた。
愛する者の仇を討つために戦う者がいる。
友の剣となって戦う者がいる。
受けた呪いに抗う者がいる。
得た力が、受けた呪いがどんな者であろうと、人は前へ進む。
人は幸せを求め続ける存在。
一縷の望みは、仄かなる願いは、絶望からこそ生まれ出づる。
そんな世界の中で。
「お前は何を望む?」
誰もいない島の海辺にある遺跡。
先ほどまで、誰かがいた、争っていた形跡のあるその場所。
全身を水に濡らした少女はその場所に立つ。
外では、ここでの争いを見ていた、赤い髪の少女が待っている。
「かつて力を手にし、呪いを受けかけたお前は、何を望むんだろうな?」
誰もいないはずのその場所に、少女は話しかける。
もう誰もいないはずのその場所に。
「決まっている」
唐突に、何の前触れもなく声が聞こえた。
そう思った瞬間、その場に光が溢れる。
「私が望むのは、彼と同じ」
光が収まったとき、遺跡の奥の扉のように見える壁の前に、誰かが立っていた。
天井から差し込む僅かな光を受けて輝くその髪は、銀髪。
ゆっくりと開かれたその双眸は、少女の契約者によく似た紫紺。
アッシュフォード学園の制服を着たその少年は、その強い意志の宿った瞳で、真っ直ぐに少女を見た。
「未来……それだけだ」
「そうか」
はっきりとそう言った少年に、少女は微笑む。
そして、その右手をゆっくりと差し出した。
「ならばその未来のために、一緒に行かないか?」
「それで彼を取り戻し、彼とともに未来が歩めるのならば」
「なら、決まりだな」
「ああ、よろしく」
差し出された手を、少年は取る。
その胸に、確かな決意を抱えて。
彼も、そう。
呪いに抗いながら、未来を欲して戦う者。
振り返り、立ち止まることがあっても、必ず再び前を見て進む者。
こんな者たちと歩けるのならば、私も前を向かなければならないだろう。
まずは、未来を欲したあの少年を、私たちのところに取り戻す。
全ては彼から始まって、彼で終わるのだから。
亡国編と双貌編の時間の流れがよくわからなかったんですが、なるほどと思いました。