月光の希望-Lunalight Hope-

ハンデと負担と現状

蓬莱島への上陸作業の最中、斑鳩のブリッジに呼び出され、中華連邦とブリタニアの政略結婚の話を聞いた後、作成開始時刻まで準備をしようと自室に引き上げる。
とりあえず朱禁城への道を開くために、C.C.、カレン、ライを呼び出して、打ち合わせを始めようとした、そのときだった。
「ルルーシュ……ちょっと筋肉落ちたんじゃないか?」
「は?」
仮面を取り、マントを脱いだ途端に言われたライの言葉に、ルルーシュはきょとんとした表情で彼を振り返った。
「腕が前より細くなってる気がするんだけど」
「気のせいだろう?」
いきなり何を言い出すんだとばかりに言い返して、そのままスーツの上着を脱ごうと背中を向ける。
その途端、ふと背中に気配を感じて、ルルーシュは振り返った。
ソファに座っていたはずのライが、何故かそこに立っていた。
「ライ?」
不思議に思って名前を読んだ途端、肩をがしっと掴まれた。
そのままくるりと、それはもう簡単に体ごと振り向かされる。
「は?」
それはあまりにも突然の出来事で、一瞬何が起こったのかわからなかった。
肩を掴んでいたはずのライの手が、突然スーツのファスナーを掴んだ。
そのままそれを下ろそうとする彼の行動にぎょっとしたルルーシュは、漸く我に返って叫ぶ。
「お、おい!ちょっと待て!何をするやめ……ほわああああ!?」
抵抗しようとしたら、そのまま足をかけられて床に押し付けられた。
勢いよく叩きつけられたわけではなく、ちゃんと背中に手を入れて支え、やんわりと押し倒されたのであるが。
「ちょっとライ……」
「何をしているんだお前たち……」
ルルーシュの叫びで漸くこちらの様子に気づいたらしいカレンとC.C.が顔を上げる。
その呆れたような二対の瞳を見て、ルルーシュはとうとう拳を振り上げた。
「おい!離せ!」
「ああ、ごめん」
放った拳を簡単に避け、あっさりと謝罪の言葉を口にするライが憎らしい。
しかもいつの間にか彼の手には、スーツの上着とベストが握られている。
押し倒されてもがいている間に、ルルーシュは見事に上半身を剥かれていた。
残ったのは首に巻いたスカーフと、服の一番下に来ている黒のハイネックと黒のロング手袋だけだった。
ルルーシュが殴りかかる直前まで彼の二の腕を触っていたライは、彼の上から退きながらも首を傾げる。
「でもやっぱり、1年前より筋肉が落ちてる気がするんだが……」
「悪かったな、貧弱で!」
「そういう意味じゃなくって……。この1年で、生活が何か変わったか?」
奪い返したベストと上着を調え、順番に身につける。
その間に問われたその言葉を聞き、ルルーシュは米神に青筋を浮かべながらライを睨みつけた。
「お前、俺に屈辱の1年を思い出せっていうのか」
「あー……。そ、そうだ。カレン、君は何か気づかなかったかい?」
ライが誤魔化すようにルルーシュから視線を逸らし、呆れ顔でこちらを見ていたカレンに尋ねる。
「そうねぇ……」
突然自分に白の矢を向けられ、一瞬驚きの表情を浮かべたカレンは、けれど真面目な表情で考え込むような仕草を見せた。
「一番の変化は、やっぱりナナリーがあの偽者の弟と入れ替わったことよね」
「そうだな」
一番思い出したくないことを口にされ、ルルーシュは米神の青筋をますます浮かび上がらせる。
その様子を呆れ顔で見つめていたC.C.が、ふと何かを思いついたように顔を上げた。
「そういえばルルーシュ。お前、あの弟は抱き上げないのか?」
「はあ?」
突然のその質問の意味が、ルルーシュにわかるはずもない。
何を言い出すんだとばかりに聞き返せば、C.C.はにやにやと見慣れた腹の立つ笑みを浮かべる。
「ナナリーのときは抱き上げてベッドに移してやったりしていただろう?しないのか?」
「ナナリーは目が見えなくて足が悪いから運んでいたんだ。どこからどう見ても健康なあいつにやる必要はないだろう」
ロロは、体だけで判断するならば全くの健康体だった。
記憶を書きかえられていた頃の自分は、彼に対してナナリーのように接していたけれど、健康体である以上、そこまでの世話はしていなかったはずだ。
というか、初期の頃にやろうとして、本人に拒絶された覚えがある。
そのときの自分の落ち込み具合まで思い出してしまい、あんな偽者に対してそんな感情を抱いた自分に腹が立って、その怒りをC.C.にぶつけようとしたそのときだった。

「それだっ!!」

急にライが叫んだ。
それも右の人差し指を、思い切りルルーシュに突きつけたポーズで。
「は?」
「え?どれ?」
C.C.とカレンも、彼の行動は理解できなかったらしい。
2人ともきょとんとした様子でライを見つめた。
「ナナリーを抱き上げてベッドに移すことがなくなった!いや、そもそもそれ以前に、偽りの弟は一通りのことは自分でできる健康体だから、補助する必要がなくなった」
確かにそうだ。
ルルーシュは今、確かにそう言った。
けれど、それが何だというのか。
「こういう言い方は気に障るかもしれないけど、ハンデを持ったナナリーがいなくなったことで、ルルーシュにかかる負荷が減った。だから今まで自然とついていた筋力が落ちたんだ」
「ああ、なるほど」
「復讐心が奪われていたから、体を鍛えようとも思わなかっただろうしな」
カレンとC.C.は、ライのその説明で納得できたらしい。
カレンがポンッと手を叩き、C.C.はあからさまにため息を吐き出す。
いろいろライに言いたいことはあった。
けれど、それを口に擦るより先に、ルルーシュは自分に向けられている視線に気づく。
ふと視線を向ければ、何故かカレンが、じっとこちらを見つめていた。
「なんだその目は」
「ううん。細いなぁって」
「悪かったな」
「うらやましいのよ!」
こんなに動いているのに細くならないと文句を吐き出すカレンに頭を抱える。
そのままぶつぶつと文句なのか自虐なのか妬みなのか、よくわからないことを呟き始めたカレンを、妙に気に障るから止めようと思ったそのときだった。
「とりあえず、だ!」
ばんっとテーブルを叩く音と共にライが叫ぶ。
さっきまで本棚の方にいたと言うのに、いつのまにそんなところへ移動したのだろうか。
ルルーシュのそんな疑問など知る由もないライは、そのまま右の人差し指を彼に向かって突きつける。
「ナイトメアに乗るのにその程度の筋力しかないのは認められない!」
「別に、新型は特殊なタイプを作っているし、いいだろう」
「よくない!」
叫ぶと同時に、もう一度ライがテーブルを力いっぱい叩く。
「君、1年前だって散々吹っ飛ばされてたじゃないか!1年前だって散々怪我していたのに、あのときより筋力やら体力やらが落ちていて、あの衝撃に耐えられると思ってるのか?」
「それは……」
「というわけで、ルルーシュ。こっちにいる間は筋トレに付き合ってもらうから、よろしく」
「は?」
どう答えを返そうか。
そう考え始めていたルルーシュは、ライが何を言ったのか、最初は理解できなかった。
唖然とした表情で見つめ返すと、ライはそのままにっこりと笑う。

「君に怪我でもされると困るからね。みっちりやらせてもらう」

そう言って細められた紫紺の瞳には笑みなど浮かんではいなかった。
それを見た瞬間、ルルーシュは反射的に同意の返事を返していた。




MMDで動画を上げたらあまりにも「咲世子だろ」と言われたのでちょっと考えてみた。
二期のが貧弱演出が強まっている気がするのは、つまりはそういう理由ではないだろうかと。



2012.7.30