月光の希望-Lunalight Hope-

離別の理由だったもの

行政特区日本の設立式典を利用して、日本国外に逃亡した黒の騎士団。
その新たな拠点である蓬莱島に届けられていた新型の空中戦艦『斑鳩』のゼロの部屋で、ルルーシュの持ち込んだ荷物の整理を手伝っていたときだった。
「そういえばライ。ずっと気になっていたんだが」
「ん?」
仮面と外套を外したまま作業をするルルーシュに声をかけられ、ライは本棚に本を納める手を止め、彼を振り返った。
「お前、ここを去るときに、『もう長く生きられない』と言っていた気がするんだが?」
「えっ!?そうなの!?」
ルルーシュの問いに、反対側の棚の整理をしていたカレンが持っていた本を盛大に落としながら叫ぶ。
大事な本らしく、ルルーシュがぎろりと彼女を睨んでいたけれど、その視線には気づいていないようだった。
「そうだったっけ?」
そういえば、そんな話もしたなと今更思い出して、ライは笑顔を浮かべてみせる。
その途端、ルルーシュの目が、ぎろりとこちらを向いた。
「それで俺が誤魔化されるとでも思っているのか?」
「誤魔化されてくれたら嬉しいなって」
ちょっと可愛らしく言ってみたけれど、逆効果だったらしい。
「・・・・・・ライ」
逆にますます機嫌の悪そうな目で睨まれて、ライは慌てて首を振った。
「いや、嘘は言ってない。あの時は本当にそうだったんだ」
「あの時は?」
そう、あのときは――記憶を取り戻したときは本当にそうだった。
けれど、それをなんと説明すればよいのか。
それを考えているうちに、先にC.C.が口を開いた。
「ライの命を縮めていたのは、ギアスの暴走だ」
「なんだと?」
「ギアスの暴走?」
ソファの上で黄色いぬいぐるみを抱えたまま寝転がっていた彼女の言葉に、ルルーシュとカレンはそちらを見た。
ルルーシュは驚きに目を見開いて、カレンは不思議そうな表情で。
「そうだ。ギアスは使い方次第で暴走する。今のルルーシュのようにな」
C.C.に指摘され、ルルーシュは僅かに目を瞠ると、左目を隠すように手を当て、顔を逸らす。
彼の左目は、ギアスの暴走で力が発動したままになっている。
C.C.が用意したという特別製のコンタクトがなければ、彼はC.C.とカレン以外の誰とも仮面を外して話すことは出来なかっただろう。
「ライのギアスは暴走の果てに、こいつ自身の肉体にまでダメージを与えていたらしい」
「あのとき言っていたのは、ギアスが原因だったのか」
「だから、君の申し出を待たなかったんだよ、ルルーシュ」
1年前、黒の騎士団を去る際にゼロの部屋を訪れたとき、ルルーシュはライの命を引き伸ばす方法を探すと言ってくれた。
けれど、ライはそのまま日本を去った。
普通の方法でそれが出来るはずがないと知っていたから。
「契約したときの縛りで自殺は出来なかったから、せめて眠ろうと思って、僕はもう一度自分を封印した。みんなの記憶を奪って」
自分で口にしておきながら、最後の言葉に痛みが走る。
うっかり表情に出してしまったのだろうか、カレンが心配そうに顔を覗き込んできた。
「暴走のせいってことは、今は平気なの?」
「いや、そのままなら平気じゃなかったんだけど」
そのままなら、近いうちに自分の命は終わるはずだった。
それなのに、今は平然としている。
ギアスが暴走していないからだろうかと首を傾げたそのとき、ソファに転がったままのC.C.が得意そうに笑った。
「私が平気にしてやった」
その言葉に、カレンが驚いたように彼女を見る。
「あんたが?」
「なんだ。その有り得ないと言わんばかりの顔は?」
「だってC.C.よ」
「そうだな。C.C.だな」
「お前ら・・・」
カレンの言葉にルルーシュまでも同意する。
それに顔を引きつらせるC.C.を見て、ライは思わず苦笑を浮かべた。
そして、ふと思い出す。
「そういえば、僕も聞いていないんだが?」
C.C.に目覚めさせられ、尋ねたとき、彼女にはもう体の心配はないと言われただけだった。
そのあとにされたルルーシュの話で頭がいっぱいになってすっかり忘れてしまっていたけれど、大丈夫という根拠を何も聞いていない。
だから尋ねたのだけれど、彼女はしれっとした顔であっさりと言い放った。
「まあ、当然だな。私は何もしていない」
「はあ?」
「じゃあ、ライは……」
ルルーシュとカレンの視線が、ライへと戻る。
「安心しろ。ラクシャータのメディカルチェックで、異常は発見されなかっただろう」
「確かに、報告は受けていないが……」
ルルーシュは視線を伏せ、思い出すかのように呟いた。
扇たちが長い間投獄生活を強いられていたということもあり、合流後、黒の騎士団は全員彼女のメディカルチェックを受けている。
地下活動を続けていたライやカレンたちも、その際に一緒に診察を受けていた。
「お前の命が短いというのは、ギアスの暴走によるダメージだろう?これは推測だが、おそらくお前が最初に眠ってから封印が解かれるまでの間に、そのダメージは癒えているのではないか?」
「確かに、外的要因に因るダメージなら、その可能性はあると思うが……」
「ライ。お前、ルルーシュを取り戻すまでにお前のいた時代がどれくらい前か調べたのだろう?どれくらい経っていたんだ?」
考え込むルルーシュを無視して、C.C.はこちらに顔を向けて尋ねる。
「確か、150年、だったかな」
「ひゃく……っ!?」
「そんなに長い間眠っていたんだ。ダメージが癒えていても、何の不思議もないな」
驚くカレンを尻目に、C.C.はあっさりとそう告げる。
「だけど、僕のいた空間って時間が流れないんじゃないのか?それなら、体の傷が癒えるとか、そういうのはないんじゃないかと思うんだが」
「さあな」
疑問に思って尋ねたというのに、C.C.は興味がないと言わんばかりに一言答えただけだった。
「さあなって、あんたねぇ」
「私は仮説を述べたまでだ」
カレンがぎろりと彼女を睨みつけるが、全く効果はない。
「ギアスの関わる遺跡は特殊でな。神根島の遺跡については調べたが、お前が元々はどこで眠っていたかがわからなければな」
確かに彼女の言うとおり、ライは自分が眠いっていた遺跡の詳しい場所を知らない。
それではその遺跡の持つ力なんて、調べられるはずもなかった。
「とにかくだ。今は体に異常はないんだな?」
「正直、忘れていたくらいだからね」
ルルーシュの、確認するような問いかけに、ライは苦笑を浮かべながら答える。
「ルルーシュが戻ってくるまで、ずいぶんと必死だったもんねぇ。まるで他のことなんか目に入らないって感じでさ」
「カ、カレン!内緒にしてくれって言ったじゃないか!」
「ほう……」
カレンがにやにやとはしたない笑みを浮かべながらそんなことを言ったもんだから、ライは思わず反射的にそう叫んでいた。
それを聞いたルルーシュが、にやりと笑みを浮かべる。
「な、何かな?ルルーシュ」
「いいや、なんでも」
思わずそちらに睨みつけるような視線を向ければ、彼は楽しそうな笑みを浮かべたままそう答えるだけだった。
「まったく……」
「あんたたち……」
それを見ていたC.C.とカレンにため息を吐かれてしまう。
思わず睨みつければ、C.C.は知らんと言わんばかりにぬいぐるみを抱いたまま丸くなり、カレンはくすくすと笑った。
「まあ、なんでもないなら安心したわ」
「そうだな。これからもせいぜいがんばってもらうぞ、ライ」
カレンとルルーシュが笑う。
「ああ、改めてよろしく」
その笑みに何の打算もないと知っているから、ライも素直に笑顔を浮かべた。




ものすごい今更な話。
ギアス篇をプレイし直していて、旧移転前に連載していた長編でしか定義づけをしていなかったことに気づきましたので改めて。
ギアス篇以外では命を削るという定義がなかったので、そういう解釈でいいかなと思ってみたり。



2012.5.13