完全捏造不完全
彼がそう言った瞬間、部屋中の空気が凍り付いたような気がした。
「だから何ですか?」
ソファに座ってにっこりと微笑むのは、黒の騎士団の『双璧』と呼ばれる存在のうちの1人、CEO補佐、ライ・エイド。
その腕には顔を隠すように抱き締められたゼロことルルーシュがいて、顔を耳まで真っ赤にしている。
四号格納庫から慌てて追ってきたカレンは、その2人の、そしてライの後ろでおろおろとしているC.C.の姿を見て、思わず固まった。
にっこりと笑うライは、明らかに笑ってなどいない目で自分の前に立つ扇、藤堂、杉山、南、千葉、そしてディートハルトを見ている。
玉城は、一緒にいると話がややこしくなると判断されたのか、比較的古参の団員たちに入室を阻まれ、廊下でぐちぐちと文句を零していた。
その光景を見て、パイロットスーツを着たままのカレンは必死に考える。
私、何でこんなに焦ってここまで来たんだっけ?
確か、扇に頼まれ、ゼロを四号格納庫に来てくれと呼びにここまで来た。
けれど、ナナリーを喪ったばかりのルルーシュは酷く憔悴しているように見えて、それを自分よりも感じただろうライが、彼の代わりに呼び出しを拒否した。
カレンはそのことを伝えるために四号格納庫に向かい、何故か扇たちに銃を向けられて。
ゼロは来ないと伝えた途端、格納庫を出ていってしまった扇たちの姿を呆然と見つめているうちに、その後をついていくシュナイゼルの姿を見つけ、嫌な予感がしてライに連絡を入れ、慌ててここに戻ってきた。
うん、そうだ。
確かそんな状況だったはず。
なのに、今目の前で繰り広げられているこれは、一体何をどう考えればよいのか。
まず問題なのは、ライの格好だ。
彼は何故か上半身に服を着ていなかった。
シルバーのチェーンに通した指輪を下げているだけで、他には何も身につけていない。
次に問題なのは、ルルーシュの格好だ。
カレンが出ていくまでゼロの衣装をきっちりと着込んでいたはずなのに、今はもうスカーフも上着もベストも着ていない。
上半身はいつものあの黒いハイネックのアンダーだけで、どうしてだろうと首を傾げたその直後、目に入ったものにカレンは気づいてしまった。
ゼロの衣装のズボンのファスナーが、開いているとこに。
カレンは2人の関係を知っている。
普段は誓約者など呼び合っているけれど、その真の意味か何なのか、面白がったC.C.にそれはもう嫌と言うほど聞かされた。
だから、ルルーシュのその格好を見た瞬間に答えに辿り着いてしまい、気がついたときには叫んでいた。
「ちょっとっ!!人にパシリやらせて何やってるのよあんたたちっ!!」
その声に、真っ直ぐ扇を睨みつけていたライの視線が動く。
カレンと目が合うと、ライはくすりと笑みを零した。
「何って、見たとおりだけど?」
「涼しい顔で言うんじゃないわよっ!!あんたいつの間にスザクみたいになったのよっ!!」
「酷いな。僕をあんな人非人と一緒にしないでくれ」
あっさりとそんなことを言って笑うライに、どこが違うのだと反論しようとして、やめた。
この中で、誰よりも記憶の戻ったライと親交のあるカレンにはわかる。
今のライに下手に反論すれば、言い負かされるのはこっちだ。
だから叫ぼうとした言葉は飲み込んで、代わりに大きなため息をついた。
「まったく……。男って『慰める』って言葉聞くとこの方向しか思いつかないものなのかしら」
「思いつかない男も中にはいるけどね」
くすくすと笑うライに、カレンはもう一度ため息をついた。
顔を上げた途端、大人たちの視線が自分に向けられていることに気づき、居心地が悪くなる。
けれど、このまま出ていくという選択肢が頭にあるはずもなく、彼女は大人たちを気にしながら、ライの後ろでおろおろとしているC.C.の傍に移動した。
「ラ、ライ……」
そのままC.C.に話しかけようとしていたカレンは、扇の声に口を閉じ、視線を大人たちに向けた。
「はい?何ですか?扇さん?」
答えるライは、ルルーシュを抱きしめたままにこりと微笑む。
後ろに回ってしまったカレンに、その表情を見ることはできない。
けれど、見なくても彼がどんな表情をしているのか、想像だけはできてしまった。
彼はきっと、顔は笑顔を浮かべていても、その紫紺の瞳には、笑みなど浮かべていないに違いない。
「君は、ゼロの正体を知っているのか……?」
「あはは。いやだな。だからこんな関係になってるんじゃないですか」
扇の問いに、ライは軽く笑って答える。
その答えに、大人たちが驚きの表情を浮かべ、藤堂が目を細めたそのとき、ぴくりとルルーシュが動いた。
震える手に腕を捕まれ、ライが扇たちに向けていた目をルルーシュに向ける。
「ライ……っ」
「ああ、うん。ごめんルルーシュ。ちょっとこのまま我慢してて」
ライが震える声で自分を呼ぶルルーシュの頭を撫でれば、ルルーシュはライの胸に顔を押しつけたままこくんと頷く。
その姿を目の前で見たカレンは、ルルーシュの思わぬ姿に目を丸くした。
「やけに素直ね」
「そうかな?こういうときはいつもこうだけど?」
「……そう」
あっさりと言い放ったライから、カレンは目を逸らした。
今はどう見ても緊迫した状況であるはずなのに、ライのこの雰囲気は何なのだろう。
本気で悩み始めたそのとき、扇が発した叫びにカレンは我に返った。
「ライっ!!君は……」
「ああ、さっきの話引き合いに出して、ゼロのギアスにかかっているとか馬鹿なことは言わないでくださいね?」
ライの言葉に、カレンはぎょっとする。
勢いよく扇を見れば、彼は図星だと言わんばかりに目を見開いていた。
その扇を、彼の後ろにいる杉山たちを見て、ライはくすりと笑う。
「だとしても、私たちの場合はお互い様だからな」
小刻みに体を震わせているルルーシュをぎゅっと抱き締め、低い声でくすくすと笑う。
耳元でそれをされるたびにルルーシュが震えているように見えるのは全力で気のせいだと言い聞かせながら、カレンはとりあえずC.C.の目を塞いだ。
「は?」
「お前……何を……」
ライの言葉の意味が理解できなかったのか、それとも理解したくなったのか、扇は目を見開いてライを見つめる。
そのやり取りを聞いていたカレンは、不思議そうに首を傾げた。
なんだか、その話を聞いたことがあったような気がしたのだ。
「もしかして、『あれ』の話?」
「そう。『あれ』の話だ」
小声で尋ねれば、ライは平然とそう返してくる。
一瞬唖然としたカレンは、ライの態度を見て思い切りため息を吐いた。
「……あれってただの対策じゃなかった?」
「ジェレミアがこっちについた以上、本当ならもう必要ないんだけどな」
あっさりとそう告げるライに首を傾げる。
ルルーシュとライが、お互いにギアスを掛け合っているのは、実は真実だ。
それはルルーシュが、コンタクトを取った状態でもライと話が出来るようにするためだった。
そしてライも、もしものときのためと言って、ルルーシュとカレンにギアスをかけた。
傍で見ていたC.C.からその内容を聞いたとき、カレンは思わず笑ってしまったものだ。
何せ、彼らがお互いに欠けたギアスは、『二度と自分を忘れるな』だったのだから。
それなのに、何故ジェレミアが仲間になっただけで、その『対策』が必要なくなるのか。
その理由を、カレンはまだ知らなかった。
不思議そうなカレンを見て、ライは楽しそうにくすくすと笑う。
けれど、それは一瞬。
扇たちの方へ視線を戻したとき、彼はもう元の表情に戻っていた。
ライの胸に顔を押し付けたままのルルーシュの後頭部に手を添え、さらに強く抱き締める。
「鎖で縛り付けるのも、一種の愛情表現だろう?」
「……ああ、そう」
くつくつと笑うライから、カレンはすっと目を逸らす。
ついでに背中に回されたルルーシュの手に力が入ったような気がしたことにも気づかなかったふりをした。
「カレン……?知ってるのか?」
「ええ、まあ……」
扇が呆然とこちらを見るが、正直答えたくない。
普段真面目なライが、いつもと違う笑みを浮かべて、完全におふざけモードに入っている。
何だかよくわからないが、完全にぷっつんしているらしい彼に余計に口出しをするつもりも、その敵意が向けられている扇たちを庇って自分が被害を受けるつもりも毛頭なかった。
以前スザクがぼろぼろにやられているところを見てしまっているから余計だ。
「それにしても……」
くすりと笑ったライの手がルルーシュの頭から離れ、その髪を優しく撫ぜる。
その手つきとは裏腹に、顔と瞳は冷たい笑みを浮かべ、真っ直ぐに目の前に立つ大人たちを見つめていた。
「貴様らは本当に愚かだな」
にやりと笑みを深めたライが言い放つ。
その瞬間、カレンは完全に視線を背けた。
塞いだままだったC.C.の目から手を離し、今度は耳を塞ぐ。
どう見ても見た目の年齢より幼くなっているC.C.に、これ以上を聞かせてはいけないと思った。
もちろん顔を自分の方に向け、見せないようにすることも忘れない。
「何を……!?」
「だって知らないのだろう?シュナイゼルが、わざわざこんなところまでやってきて、ゼロを寄こせといった意図を」
激昂する扇をばっさりと切り捨てて笑うライが、さりげなくルルーシュの耳を塞いでいることに気づいているのは、きっとカレンだけだろう。
「シュナイゼルの、意図?」
「ああ。ゼロの正体は、おそらく天子の祝賀会のときにバレていたからな」
「えっ!?」
ライのその言葉に、驚いたカレンは思わず声を上げた。
天子の祝賀会というのは、ゼロとシュナイゼルがチェスで勝負し、ライとスザクが華麗なる喧嘩を繰り広げたあの婚前パーティのことだろう。
あの時に既にゼロの正体がばれていたなんて、思いもしなかった。
そんなカレンを、ライは呆れたように振り返る。
「そうとしか考えられない。先ほどの作戦の前、シュナイゼルは枢木スザクを使ってルルーシュを捕獲しようとしている」
ライの言葉に、カレンは思わず上げそうになった叫びを慌てて飲み込む。
そんな馬鹿なと否定したい気持ちもあった。
けれど、それは真実だと、妙にあっさりと信じてしまえる自分がいる。
それはきっと、先ほどの戦場で聞いたルルーシュの叫びがあるからだ。
今までとは打って変わり、感情のままに「スザクを殺せ」と叫んだ彼の言葉を聞いていたから、カレンはライの言葉を否定することなんてできなかった。
「それに、シュナイゼルがゼロを見る視線がおかしいと思っていろいろ調べてみた。どうにも、シュナイゼルという男は、ルルーシュを溺愛していたらしいな」
びくりとルルーシュの体が震えた、ような気がした。
いつの間にか耳まで集まっていた熱は冷めていたらしい彼は、ただ必死にライに縋り付いているようだった。
そのルルーシュの髪を、ライは優しく撫ぜる。
「ルルーシュを手に入れるためなら、あの男は何でもするぞ?日本を返すという嘘だって何だって吐くだろう」
「な……っ!?」
扇が声を上げた途端、ライがその紫紺の瞳をすうっと細めた。
カレンがまずいと思ったときにはもう遅い。
弧を描いていたライの口元が、それまでよりも深い曲線を刻む。
「何だ?その反応は?もしかして図星か?」
くつくつと笑うライから、扇は視線を逸らす。
杉山と南も見たような反応をし、藤堂と千葉は黙って彼を見つめるだけだ。
その反応を見て、まさか、と思った。
まさか、シュナイゼルがここにいるのが、そのためだったなんて。
「だが、よくよく考えてみろ。ルルーシュを引き渡したとしても、日本が返ってくるはずなどないだろう?」
湧き上がってきた激情に任せ、カレンが叫ぼうとするより早く、再びライが口を開いた。
その目は、馬鹿にするように大人たちを見つめている。
「ブリタニアは帝政だ。最終決定権は皇帝にある。シュナイゼルのその取引は、皇帝の承認を得た上のものか?」
「え……?」
「皇帝の承認を得ていない、独断の取引。下手をすればシュナイゼル自身が廃嫡、追放され、貴様らとの取引は成り立たないな」
くつくつと笑いながら、ライは語る。
彼のその指摘など少しも思いついていなかったのか、扇たちは驚いたように目を瞠った。
ブリタニアの帝政については、ここにいる誰よりも詳しいのはライとルルーシュだろう。
そのライが、語る。
日本人にはあまり馴染みのない帝政という政治の形が、一体どんなものなのかを。
「第一、ゼロを売って日本を取り戻したとして、それで他の国が納得できると思っているのか?」
「な、何を……」
「そうだろう?今や黒の騎士団は日本人だけのものでない。中華もインドも、多くの国と契約する私設軍隊だ」
そう、彼の言うとおりだ。
カレンのいない間に、黒の騎士団は大きく変わった。
作戦の関係で、今のこの斑鳩には星刻たちと手を組む以前――日本のレジスタンスだった頃からずっと参加している者しか乗っていないが、別の場所にも黒の騎士団に在籍するものは存在する。
そして、おそらくその誰もが、扇たちがシュナイゼルと取引をしたことを知らない。
「そのCEOを勝手に売ったりすれば、裏切り者扱いになるのは誰だろうな?」
くすりと笑いライの顔を見ないように、カレンは目を逸らした。
ただ視界の隅に、扇たちの息を呑む顔を見てしまい、気づく。
やはりライは、自分の想像どおりの――『狂王』の顔をしているのだ。
「だが、ゼロはギアスで……」
「頭に血が上りすぎだな」
尚も反論しようとする千葉を、ライはばっさりと切り捨てる。
まるでくだらないものでも見るかのような目を彼女に向け、ルルーシュを抱きしていたはずの片手を差し出した。
「その力の証拠は?私たちがそれを認めたからと言って、世界がそんな世迷いごとを信じると思うのか?」
信じないと思う、普通は。
カレンだって、最初は信じていなかった。
C.C.の言葉を聞いて、ライが実際に使っているのを見るまでは半信半疑だった。
「だいたい、シュナイゼルの持ってきた証拠というのはどういうものだ?それはあらゆる可能性を潰した上で、決定的と呼べるものか?捏造の余地は?こんなリストなど、適当にでっち上げることなど簡単だぞ?音声データとて、現代の技術なら元のデータがあればばらして切り貼りすることは可能だ。発音がひとつひとつはっきりしている日本語なら特にな。私も作戦のためにやったことがあるが、短いデータなら素人でもかなり自然に繋げられる」
くつくつと笑いながら、ライは一気に詰めに入る。
難しいことを言っているようにも聞こえるが、違う。
彼が言っているのは、『捏造不可能な証拠を持って来い』という、とんでもなく無茶な要求だった。
「それで?今の私の言葉を覆せるだけの証拠を、お前たちは持っているのか?」
「それは……」
「ならば話にならないな」
口篭る扇を、ライはばっさりと切り捨てる。
そのとき、呆れるカレンの視界の端で何かが動いた。
「ライ……っ」
聞こえた声に、ふと視線を落とす。
先ほどからずっとライの胸に顔を埋めていたルルーシュが、いつの間にか顔を上げていた。
自分を呼ぶ声に、ライも初めてそれに気づいたのだろう。
一瞬で『狂王』の仮面を捨て去ると、不思議そうにルルーシュを見下ろす。
「ルルーシュ?どうかした?」
「どうかしたじゃない……っ。お前、いい加減にしろ……っ」
「え?ああ……」
くすりと、先ほどとはまた違う笑みを浮かべたライの腕が、ルルーシュの腰の傍で動く。
その途端、ルルーシュはぶるりと体を震わせた。
「こういうの好きだっただろう?我が君?」
「そういうお前は嫌いだ……っ」
「そうか?なら、いつもの僕の方がいいかな?」
くすくすと笑いながら尋ねるライを、ルルーシュはきっと睨みつける。
扇たちからは見えていないその表情は、けれどライの後ろにいるカレンには丸見えで、うるうると潤む瞳を見てしまった瞬間、何かいけないものを見てしまったような気がして、カレンはばっと視線を逸らした。
「いつもの……優しいお前がいい……っ」
顔を真っ赤にしたルルーシュが、ライに向けてそう告げる。
その途端、ライはふわりと微笑んだ。
「了解」
微笑んだまま、ルルーシュの額にキスを落とす。
そのまま体勢を変えると、立ち上がると同時にルルーシュを抱き上げた。
もちろん、所謂お姫様抱っこというやつで。
傍にかけてあった自身の上着をルルーシュにかけると、ライは扇たちに向かって微笑んだ。
「そういうわけですから、僕からゼロを奪いたいなら、さっさと証拠を揃えてください。まあ、それよりも前に、あなた方の失脚が先でしょうけど?」
くつりと笑うその顔は、ルルーシュには見せない王の顔。
それに扇、杉山、南は息を呑み、藤堂はライを睨みつける。
「何だと……っ!」
「カレン。C.C.」
反論しようとした千葉の言葉は綺麗に無視して、ライはこちらを振り返った。
「は、はいっ!」
名前を呼ばれ、反射的に返事をしたC.C.を離してやる。
ほっと息を吐き出した彼女を横目に、カレンは真っ直ぐにライを見つめた。
こちらを真っ直ぐに見つめる、紫紺の瞳。
その目が、僅かに笑った気がした。
それだけで、彼が何を言いたいのか悟ってしまったカレンは、気づいてしまった自分に思い切りため息を吐く。
「まったく……。後でちゃんと話し聞かせなさいよ」
「ああ、後でな」
にこりと笑ったライの言葉に、一応納得してやることにした。
これ以上ここで話を続ければ、千葉の――いいや、目の前にいる大人たちの怒りに火を注ぐだけだろうし、何よりルルーシュの精神的によろしくない。
先ほどはあんな風に言った彼が、ライに再び抱き締められたとき、酷く虚ろな目をしていたことに、カレンは気づいた。
ルルーシュがどれだけナナリーを大切にしてきたか、知っている。
その彼が今、どれだけ消耗しているのかも。
そのルルーシュの様子と、ライがしてくれた約束だけで、十分だった。
「C.C.」
「は、はいっ!?」
ライがルルーシュを抱きかかえたまま、片手を使って器用に、そして素早くロフトへ上がる。
あまりの素早さに扇たちが唖然としている間に、上から声をかけられたC.C.も慌てて梯子を上った。
彼女の姿が上に消えたのを確認し、カレンはその梯子の傍にある本棚の本を1冊抜き取る。
そして、その奥に隠されていたボタンを、拳を握り締めて思い切り叩いた。
その途端、警告音のような音が部屋中に響き、ロフトの天井からシャッターのようなものが下りてくる。
それを見て、漸くライが自分たちとの会話を拒絶したことに気づいたらしい扇が声を上げた。
「ライっ!?カレン、何を……っ!?」
「無駄よ。これラクシャータさん設計の特別性で、一回下りたら静脈か網膜登録してある人じゃないと開かないわ」
本を棚に戻し、真っ直ぐに扇を見つめ、カレンははっきりと言い放つ。
彼女のその言葉に、驚いたように目を見開いた扇を制止し、口を開いたのは藤堂だった。
「紅月君、君もゼロにつくというのか」
「ええ。当然でしょう?」
藤堂の問いに、カレンははっきりと答える。
そして、笑った。
「だって私も、ライと同じ考えだもの」
言葉と同時に、ここに戻ってくる間に用意し、パイロットスーツに取り付けたベルトに差していた銃を向ける。
銃口を向けられた瞬間、藤堂は目をそれまで以上に大きく見開き、扇は驚愕したようにカレンの名を叫んだ。
けれど、カレンにはもう、彼らの言葉を聞くつもりはなかった。
「出て行ってください。じゃないと、ライが何をするかわかりませんから」
変わりに、ただライに似せるつもりでにたりと笑う。
本人はまだまだだと思ったその笑みも、彼らからすれば衝撃的だったらしい。
カレンのその笑みを見た瞬間、大人たちはごくりと息を呑んだ。
彼らは結局気づかなかった。
斑鳩のゼロの自室のロフトは、実は何かあったときのための脱出口が用意してある。
カレンが銃を向け、扇たちをゼロの部屋から追い出そうとしている間、ライとC.C.は身なりを整え、そこからルルーシュを連れ出した。
そしてレーダーに細工し、格納庫に1人でいたロロを連れて斑鳩を抜け出したのだ。
向かった先は、キュウシュウに待機する星刻率いる陽動部隊。
途中で合流したカレンと共に神楽耶と星刻に会ったライは、それでの事情を説明した。
ルルーシュの素性もギアスの力も、全部含めてだ。
そして、その後神楽耶が収集した臨時評議会で、いつのまに用意したのか、ものの見事にギアスの部分の会話を抜いた扇たちとシュナイゼルの密会映像を流し、ものの見事に扇たちを裏切り者に仕立て上げたのだ。
「大勢を信じさせるなら、こういう風にするべきだったな」
神楽耶によって追放、及び斑鳩の明け渡しを言い渡された扇たちに向かい、そう一言言い放ったライの腕には、すっかり子供帰りしてしまったルルーシュがいて。
妙に甘ったるい空気を発する2人の後ろで、ルルーシュの代わりにゼロに扮して立っていたカレンは、思わず大きなため息をついた。
ばっさりメインになってしまった。
これでも一応リテイク4回目で漸く書けているのでご勘弁ください。
どうにも騎士団ばっさりはTURN19ネタかLKAが書きやすいんです。
そして気がついたらカレン視点になっていた。