新しい誕生日
「「「ライ、ハッピーバースディっ!!」」」
生徒会室にクラッカーの音が響く。
紙吹雪が舞う中、その中心にいたライはにっこりと笑った。
「ありがとう、みんな」
本当に嬉しそうなその笑顔を見ると、一瞬きょとんとした生徒会の面々はすぐににっこりと笑った。
すぐ傍にいたミレイが、ぽんぽんとライの肩を叩く。
「うんうん!いい笑顔するようになったわね!ライっ!」
「本当ですか?」
「うん。すっごくいい笑顔だよ。こっちも嬉しくなっちゃうくらい」
「最初はどうなることかと思ったけどなぁ」
「ずいぶん雰囲気も柔らかくなったものね」
シャーリーがにっこりと笑い、リヴァルが、ニーナが笑顔で答える。
「みんなのおかげだよ。ありがとう」
恥かしさと同時に嬉しさを感じて、ライはにっこりと微笑んだ。
その言葉に、ミレイがぎゅっとライを抱き締める。
「……もう!本当にいい子なんだから!」
「褒めすぎですよ、ミレイさん」
苦笑を浮かべたライは、ミレイの抱擁がさらに強いものになるより先にその腕から抜け出す。
以前されるがままになっていたら、顔を胸に押し付けられるという恥かしいことこの上ないことをされたことがあった。
その後ちょっとややこしいことになったので、今では二度とあんなことが起こらないように軽く交わすようになったのだ。
少し不満そうな顔をしたミレイに、事情知る他のメンバーは苦笑する。
同じように笑っていたカレンが、ほっと息をついていたライの前に小さな箱を差し出した。
「はい、ライ」
「ん?何だい?カレン」
「誕生日プレゼント」
開けてみてと促され、丁寧に包装を解く。
中から現れたのは、透明な箱に入っている腕時計だった。
「わあ。時計だ」
「この前ほしいって言ってたでしょう?」
「覚えていてくれたんだ。ありがとう」
それは、つい最近、黒の騎士団のトレーラーにいくために、カレンと租界を歩いていたときの話だ。
ちらっと時計屋の前を通ったときに一言呟いただけだったのに、覚えていてくれたことが嬉しくて、素直に礼を言う。
そうすれば、カレンもにっこりと笑ってくれた。
「これは僕から」
「スザク、これは?」
スザクから少し大きな紙袋を渡される。
やはりにっこり笑って開けることを促され、素直にリボンを解いて中身を取り出した。
出てきたのは、真っ黒な体に金の瞳を持つ、ふわふわな物体だった。
「猫のぬいぐるみ……?」
「ライ、猫が好きって言ってたから」
「あー……、うん。ありがとう」
笑顔で答えるスザクに、ライは複雑な思いを抱きながら、とりあえず礼を言った。
確かに黒い猫が好きだと、スザクに話したことはある。
けれど、それは断じて本当の猫の話ではなかったのに、スザクは素直にそう取ってしまったらしい。
そうだと信じたい。
スザクの瞳の奥に見た、鋭い光は気のせいだ。
このぬいぐるみをどうしようかと本気で考えていると、くいっと制服の裾を引っ張られた。
振り向けば、そこには笑顔のナナリーがいた。
声をかければ、膝の上に置いた箱を差し出してにっこりと笑う。
「ライさん。これは私からです」
「ありがとう、ナナリー。開けても?」
「ええ。どうぞ」
何故か見覚えのある気がする包装を丁寧に解く。
箱を開け、中から出てきたものを見た瞬間、ライは息を呑んだ。
そこにあったのは、チョーカーだ。
白いベルトに、黒い十字架がつけられており、その十字架の中央には紫の石がはめ込まれている。
これと同じものを、ライは見たことがある。
ベルトと十字架の色が逆だったけれど、これは間違いなく、ナナリーがルルーシュの誕生日にプレゼントしたものと同じチョーカーだった。
「……これ!?」
「ふふっ。ぜひ普段つけてらっしゃるペンダントと一緒につけてくださいね」
驚いて勢いよく顔を上げれば、ナナリーはにっこりと笑う。
その綺麗な笑顔に、告げられた言葉に、ライは思わず固まった。
「あ、ありがとう……。ナナリー……」
顔を引き攣られないように気をつけて、笑顔を返す。
そうすれば、ナナリーは満足したように笑った。
その笑顔が、なんだかとても怖い。
ライがペンダントをつけていることは、彼本人を除けばルルーシュしか知らないはずだ。
気づいているとすれば、ルルーシュの部屋に居座る翠の魔女だけ。
あの魔女が話したのならばともかく、そうでないとすれば。
そこまで考えて、ライは思わず身を震わせた。
「じゃあ、次は俺なー!」
そんなライの心情など知らず、リヴァルが楽しそうに声をかけてくる。
考え込みたいのは山々だったが、今日の主役はライ自身だ。
無理矢理気持ちを浮上されると、ライは笑顔でそれを受けた。
その後、ミレイ、シャーリー、ニーナと順番にプレゼントを受け取り、ひと通り落ち着いたころ、生徒会室の扉が開いた。
「ずいぶん盛り上がってるな」
「あ、ルルーシュ」
その扉から聞こえた声に、スザクが振り返る。
彼の言葉どおり、そこから入ってきたのは制服の上着を脱ぎ、ワイシャツ姿になったルルーシュだった。
1人姿を見せていたなかったルルーシュを見た瞬間、シャーリーがずいっと彼に詰め寄る。
「もう!ルルったら!せっかくのライの誕生日に何処に行ってたのよ!?」
「どこって、キッチンだよ」
「キッチン?」
「ああ、ちょっとアクシデントがあって、時間がかかってしまったが」
言葉を途中できると、ルルーシュは再び開きっぱなしにした扉の向こうに消える。
すぐに戻ってきた彼は、ワゴンを押していた。
「うっわあっ!?」
その上に乗せられたものを見て、シャーリーが声を上げた。
「すっごいケーキっ!?」
「これ、一体どうしたの?」
「俺が作った」
「ルルーシュ……くんが!?」
はっきりと答えたルルーシュの言葉に、カレンが声を上げる。
その隣で、ミレイが満足そうにうんうんと頷いた。
「うーん。さすがルルちゃん。いい仕事するわねぇ。おいしそう~」
「当然です。俺の作ったものをまずいだなんて言わせません」
絶対の自信を持って胸を張るところがルルーシュらしい。
そんな彼の姿を微笑ましく思いながら、ライはケーキから視線を上げ、にっこりと微笑む。
「ルルーシュ、ありがとう。凄くおいしそうだ」
「別にお前だけのためじゃないからな」
「うん。でも、ありがとう」
ほんの少し頬を染め、ぶっきらぼうに言い返してきたルルーシュに吹き出しそうになって、それを懸命に堪える。
まったく、ルルーシュは本当に素直じゃない。
そんなところも、可愛くって好きなのだけれど。
「よーし、それじゃああれやりましょう!あれっ!」
温かい気持ちに浸っていると、突然ミレイが腕を振り上げ、大声を上げた。
突然の言葉が、それが示すものがわからなくて、ライはびくりと体を震わせ、ミレイを見る。
「あれ?」
「ミレイちゃん、あれって?」
「ふっふーん。スザク君、よろしく~」
「はーい」
ニーナの問いにも、ミレイはにやにやと楽しそうな笑みを浮かべるだけだ。
逆にスザクは、彼女の言いたいことが完全にわかっているらしい。
テーブルに置いてあったロウソクを手に取ると、それを一本ずつケーキに差し始めた。
「ライって僕らと同い年でいいのかな?」
「え?あ……。うん。たぶん」
「あ……っと、じゃあ17本にするよ」
スザクが少し戸惑ったような表情を浮かべたのは、一瞬。
すぐににっこりと笑うと、彼は手際よくロウソクを立てていく。
きっと記憶喪失の自分に酷いことを聞いてしまったと思っているのだろう。
それがわかってしまって、ライは申し訳ない気分になる。
だって、本当はもう、記憶は全て戻っているのだ。
だから自分の年齢が17でないということだって知っていた。
けれど、それはルルーシュと、彼の共犯者である魔女にしか話していないことだった。
生徒会のみんなには、断片的に戻ったとしか伝えていないのだ。
ギアスという力を知らない彼らに、本当のことを話す勇気は、まだ持てなかったから。
罪悪感に駆られ、思わず俯く。
ほぼ同時に、ケーキにロウソクを立てていたスザクが顔を上げた。
いつの間にかライターも手にしていたようで、ケーキの上に立てられた17本のロウソク全てに灯が灯り、ゆらゆらと揺れていた。
「準備できました」
「うん。手際いいわねぇ~。リヴァル!電気消してちょうだい!」
「アイアイサー!」
「あの……ミレイさん?なんですか?これ」
びしっと敬礼し、スイッチの元に走るリヴァルを見つめながら、ライは戸惑ったように尋ねる。
その問いに、ミレイは本当に楽しそうに笑った。
「バースディケーキにね、年の数だけ蝋燭を立てて、誕生日の人が一気に吹き消すの。まあ、一種の演出ね」
「は、はあ……」
説明を受けている間にリヴァルが電気を消す。
瞬く間に真っ暗になった室内に、ロウソクに照らし出されたバースディケーキがぼんやりと浮かび上がった。
「ライ、早くしろ。蝋がケーキに落ちる」
「あ、ああ。わかった」
幻想的なその光に思わず見入っていれば、ルルーシュに声をかけられる。
それに頷くと、ライは息を吸い込み、クリームまで吹き飛ばさないようにロウソクの火を吹き消す。
見事に全てが一度で消えた。
その途端、周囲から拍手が沸き起こる。
「「ハッピーバースディ、ライっ!」」
再び、今度はルルーシュも一緒になって贈られた言葉。
その言葉に心が温かくなる。
「ありがとう」
だから、精一杯の笑顔を浮かべて、気持ちを返す。
そうすれば、大切な人たちが笑ってくれると知っているから。
「じゃあルルちゃん。ケーキの切り分け、よろしくねぇ~ん」
「やっぱり俺がやるんですか……」
「だってぇ、ライにあげるケーキだもの。ルルちゃんがやるのが一番じゃない」
ミレイの言葉に、ルルーシュの頬が僅かに赤く染まる。
「……わかりましたよ」
それに気づかれないように友人たちに背を向けると、ルルーシュはワゴンからテーブルに移したケーキを丁寧に切り分け、皿に載せた。
そして少し大きめに切ったそれを、フォークと共にライへと差し出す。
「ほら」
「ありがとう、ルルーシュ」
渡されたケーキを早速口に運ぶ。
口に入れた瞬間、クリームとイチゴの甘さが広がる。
「少し甘さを控えてみたんだが、どうだ?」
「うん。凄くおいしいよ」
「そうか」
笑顔で答えれば、ルルーシュは嬉しそうにふわっと笑った。
その笑顔に、胸が高鳴る。
それを慌てて押さえ込み、友人たちにケーキを配るルルーシュを見つめた。
ケーキを受け取ったシャーリーが、ふとテーブルの上へ視線を向ける。
そこにあったのはケーキだけではなく、パーティ用にと配慮された料理の数々。
それを見つめ、シャーリーは感嘆のため息をついた。
「そういえば、この料理もほとんどルルの手作りなんだよね?」
「えっ!?そうなの!?」
「ルルーシュは主夫だからなぁ」
「咲世子さんにも手伝ってもらったけどな。ほら、ナナリー」
「ありがとうございます、お兄様」
驚くカレンに、リヴァルが笑顔で補足を入れる。
特に反論しようとしないルルーシュは、傍にいるナナリーにケーキの皿を手渡した。
笑い合う兄妹を見て、スザクが目を細める。
少し離れた場所でグラスを持ったミレイが、くるりとこちらを見た。
にこりと微笑む彼女に、ライも笑顔を返す。
そうすれば、ミレイはますます満足したように笑った。
この時代に目覚めて、本当に良かったと思う。
こんな温かい場所があることを、昔の自分は知らなかったから。
きっとこの時代まで生きていなければ、知らないままだったから。
そして、何より、とてもとても大切な人に出会えたから。
「ルルーシュ」
「ん?何だ?」
声をかければ、ルルーシュが不思議そうに振り返る。
その紫玉の瞳が自分を見ていることに満足して微笑むと、彼の側に寄り、そっと耳打ちをした。
「プレゼント、楽しみにしてるから」
その瞬間、ルルーシュの顔が真っ赤に染まる。
「お、おま……っ!?」
慌てるルルーシュにもう一度笑みを向けると、ライはくるりと背を向けた。
口を金魚のようにぱくぱくと動かし、それでも言葉を発せずにいるルルーシュが可愛くて、思わず笑みが零れる。
きっと自分がどんな反応をしているのか、ルルーシュにもわかっているのだろう。
「ルルーシュ?顔赤いよ?どうしたの?」
「何でもない……っ!!」
顔を真っ赤にしてこちらを怒鳴りつけようとしたルルーシュは、しかしスザクに顔を覗き込まれ、それを断念して顔を背けた。
その反応がやっぱり可愛くて、頬が緩むのを止められなかった。
ロスカラ発売1周年ということで、勝手にライの誕生日と決めつけ&お祝いです。
プレゼントについてはルル誕「全ては君のもの」参照で。
というわけで、裏に続きます(笑)