月光の希望-Lunalight Hope-

好きなもの

黒の騎士団の本拠地となっているトレーラーの中にある自室に入り、仮面を取る。
共に中に入り、扉のロックをしているライに仮面を渡すと、ルルーシュは椅子にどっかりと腰を下した。
「……はあ」
椅子に沈んだ途端にため息を吐き出したルルーシュを見て、仮面をスタンドにかけたライは苦笑を浮かべた。
「疲れているみたいだな、ゼロ」
「最近は忙しかったからな。……ところで、ライ」
「ん?」
「仮面を外しているときまでそう呼ぶな」
びしっと指を突きつけて言うと、一瞬きょとんとしたライはくすりと笑みを零した。
「ごめん。どこで誰が聞いているかわからないし、一応ね」
「そんな気遣いはいらん」
正体を明かして以降、自分のことを気遣い、サポートしてくれようとしているライの行為は嬉しいと思う。
その気持ちも確かにあるけれど、それよりも優先させたい願いがあった。

「俺は、お前には名前で呼んでほしいんだ」

ぷいっとそっぽを向いて言えば、途端にライが笑い出す。
くすくすと、本当に楽しそうなそれが気に食わなくて、ぎろりと彼を睨みつけた。
「……何を笑っている?」
「いや、可愛いなぁって」
「かわ……っ!?」
にっこりと笑って告げられ、途端にルルーシュの顔は真っ赤に染まる。
それを見られないように慌てて腕で顔を隠し、視線を逸らした。
「男になんてこと言うんだ……っ!!」
「んー?こういうのは男女関係ないと思うけど?恋人を可愛いと思うのは自然なことだろ?」
にっこりと、本当に綺麗に笑ってそんな風に言われてしまえば、もうルルーシュには反論ができない。
何だかんだで、身近な人間には甘いという自覚はあった。
特に、ナナリーとライは特別だから。

恥かしさで顔を上げられないルルーシュは、気づいていなかった。
仮面から手を放したライが、懐から何かを取り出し、口に含む。
そのまま、足音を殺して自分に近づいてきていることに。

「ところでルルーシュ」
「何だ?」
「疲れてるならいいものあげるよ」
「は?……んっ」
顔を向けた途端、傍まで来ていたライに口付けられた。
とっさに口を閉じることが出来ず、舌を差し込まれる。
軽く吸い上げられ、びくんと体を震わせた途端、その熱はあっさりと放れていった。
「お前、突然何を……っ」
真っ赤になって怒鳴りつけようとした途端、口の中に何かがあることに気づいて、それを舌で転がす。
小さな、甘い固まり。
ぺろりと舐めた途端に口に広がるその味には、覚えがあった。
「……プリン」
「そう。プリンキャンディ。この前シャーリーにもらったんだ」
そう言ってライは手にしていた包装を見せる。
そこにははっきりと『カスタードプリンキャンディ』という文字が書かれていた。
それを見た瞬間、ルルーシュは顔をひくりと震わせ、盛大なため息をついた。
「……そういう物は普通に寄こせ」
「え?だってルルーシュ好きだろう?」
首を傾げて尋ねられ、訝しげにライを見た。
唇に人差し指を当てた彼は、くすりと笑みを浮かべ、微笑む。

「プリンも、僕のキスも」

一瞬、何を言われたのかわからなかった。
それを理解した瞬間、ルルーシュの顔がぼんっと音を立てて真っ赤に染まる。
「~~~~~っ!!!!?」
ぱくぱくと金魚のように口を動かすが、言葉が出てこない。
文句を言うこともできなくて、そのままライを睨みつけると、彼がスタンドにかけてくれた仮面を勢いよくもぎ取った。

「1人で言ってろっ!この馬鹿っ!!」

せめてもの反撃とばかりに大声で叫んで仮面をつけ、素早くロックを外し、部屋を出る。
早くそこから遠ざかりたくて、早足で階段を下りる。

この仮面があって、本当に良かったと初めて思った。
だって、きっと今、自分の顔は真っ赤になっていて、それを人に見られるなんて、冗談じゃなかった。






1人ゼロの私室に取り残されたライは、ルルーシュが出て行った扉を見つめていた。
唖然としていたはずのその表情が、不意に緩む。
「……ちょっとやりすぎたかな」
くすくすと笑いながら、仮面をもぎ取られた反動で倒れてしまったスタンドを直す。
同時に視界に入った、封の開けられたキャンディの包装を見て、口元に笑みを浮かべた。

「まあ、ムキになるルルーシュも可愛いんだけどね」

キャンディの包装をゴミ箱に入れながら、意地悪く微笑む。
おそらくルルーシュは顔を真っ赤にしたままトレーラーの外に飛び出していっただろう。
それをどうやって宥めるか考えながら、ライは満面の笑みを浮かべて部屋を出た。




最近見つけたプリンキャンディが美味しかったので。
別に味とネタ、全然関係ないですが。
もうプリン=ルルーシュとしか頭が動かなかったんです。



2009.3.21