月光の希望-Lunalight Hope-

ずっと傍に

「お帰り、ルルーシュ」

誰もいない、いてもC.C.だと思っていた自室に、予想外の声が響いた。
ベッドに座っていたラフな格好の少年が、にこりと微笑んでいる。
その姿を失礼なくらいにじいっと見つめ、思わずぱちぱちと目を瞬いた。
反応しないこちらを不思議に思ったのか、彼はこてんと首を傾げる。
「ルルーシュ?」
「あ、ああ。ただいま、ライ。来ていたのか」
「暇だったんで、つい」
我に返って慌てて答えれば、銀の少年はにこりと笑った。
その声を聞いて、思わず呆れ、ため息をつく。
「昨日疲れが溜まっているってぼやいていなかったか?」
「ああ、うん。それもそうなんだけど」
何故か歯切れ悪く答えるライ。
それにほんの少しだけ黒い感情が湧き上がる。
それをため息をつくことで誤魔化して、ハンガーを手に取り、着ていた上着をかけた。
「まったく……。なら自分の部屋でゆっくり休んでいればよかっただろう」
「いや、それが……」
呆れたふりをしてそう告げれば、ライは困ったように笑う。
くすくすと笑みを零すライを思わず睨みつけようと振り返ったその瞬間、彼はふわりと微笑んだ。

「ルルーシュの顔見ないと、ゆっくり休もうって気にならなくて」

ルルーシュが、その紫玉の瞳を僅かに見開く。
思わずぽかんとした表情を向ければ、ライはにこりと微笑んだ。
「……それでこんな時間まで待ってたのか?」
「ああ」
あっけらかんと返事をしたライに、ますます目を丸くする。
暫くの間、その表情のままライを見つめてしまう。
にこにこと笑顔を浮かべたままの彼を見ているうちに、徐々に冷静さが戻ってきた。

「……馬鹿だろう?お前」

もう何度目になるのか、大きなため息をついて、ほんの少し厳しい声でそう言ってしまったのは、半分無意識だった。
口にしてしまってから、いくらなんでも待っていてくれた相手に失礼だったと気づき、慌てて訂正しようと顔を上げた、そのとき。

「うん。馬鹿だな」

あっさりと、いともあっさりと返ってきたその答えに、思わず動きを止める。
完全に固まってしまったルルーシュを不思議に思ったのか、ライは不思議そうに名前を呼んだ。
「ルルーシュ?」
「普通そこは怒るか否定するところだろうが……」
「え?何でだい?」
「何でって、お前な……」
完全にわかっていないらしいライに、思わずため息をつく。
その途端、ライはくすりと笑みを零した。
悪態をつこうとしたルルーシュと、先ほどからまったく目を逸らそうとしないライの視線が、合う。

「僕は自他共に認めるルルーシュ馬鹿のつもりだけど?」

その瞬間、ライはにっこりと微笑み、恥かしげもなくそう断言した。
一瞬、何を言われたのかわからなくて、思わずびたりと動きを止める。
数拍置いて、漸くそれを理解した瞬間、ルルーシュの顔が一気に真っ赤に染まった。
片手で口元を覆い隠し、勢いよく視線を逸らす。
「……お前、よくそんな恥かしいことを……」
「大丈夫。人前では言わないよ」
何が楽しいのか、くすくすと笑い続けるライを睨みつけるけれど、すぐにやめる。
どうせ彼には、こういうときの自分の睨みなど通用しない。
もう一度ため息をつくと、ぼすんと音を立ててライの隣に腰を下す。
そのまま体を倒し、こてんとライに寄りかかった。
ルルーシュの頭を己の肩で支えることになったライが、柔らかな声で名前を呼ぶ。
「ルルーシュ」
「うるさい」
「呼んだだけだぞ?」
「うるさい。黙って肩を貸してろ」
顔を見ないようにして、突き放すように命じる。
その途端、小さな笑い声が耳に届いた。
「はいはい」
くすりというそれと共に落ちてきた、ライの声。
それと同時に、温かな何かが頭に乗せられる。
優しく頭を撫ぜるそれは、ライの手だ。
自分より少し強張ったそれに撫でられると、酷く安心する。
優しくて、温かな感触に、徐々に眠気が襲ってくる。
疲れが溜まっていたせいも、もちろんある。
けれど、それだけではないと知っていた。

「ルルーシュ」

先ほどよりもずっと柔らかな声で、名前を呼ばれる。
眠気に蕩け始めた目を向ければ、ライは柔らかく、慈しみを込めて微笑んだ。
「いいよ」
「……何が?」
「このまま寝ても」
優しくそう言ってくれる彼の言葉に、甘えてしまいたい気持ちはもちろんあった。
安心できるこの温もりから、離れたくない。
けれど、このまま寝てしまうわけにはいかない。
だって、このまま寝てしまえば、全体重をライに預けてしまうことになる。
「お前が、疲れるだろう……?」
「大丈夫。スザクほどじゃないけど、体力には自身あるから」
「あいつと同じだったら化け物だ」
「あははは」
苦笑いするけれど、否定しないということは、少なくともライもそう思っているのだろう。
ライが自分と同じ考えを持っていてくれることに満足すると、いよいよ本格的に眠気が襲ってきた。
ふと、頭を撫でてくれるのとは逆の、自分の頭で押さえつける形になっている方のライの手が目に入る。
その手に、そっと触れた。
「……なあ、ライ」
「ん?」
名前を呼べば、優しい声が返ってくる。
尋ねたい言葉があったはずだったけれど、その声を聞いただけで、もうよかった。
だって、聞いても絶対に、予想どおりの言葉しか返ってこないのだ。
だったら、やっぱり聞かなくて、いい。
「いや、なんでもない……」
「そう?」
「ああ……」
くすりと、ライが笑ったような気がした。
けれど、そのときにはもう、意識は眠りに吸い込まれていた。



ライの肩に頭を預けたまま、まどろんでいたルルーシュが目を閉じる。
その頭を撫でていたライは、そっと肩を外すと、17歳にしてはずいぶんと軽いルルーシュの体を抱き上げ、ベッドに潜り込んだ。
無意識だろう、擦り寄ってくるその体を、柔らかく抱き締める。

「大丈夫。僕はずっとここにいるよ、ルルーシュ」

眠ってしまったルルーシュに囁いて、ライもまた目を閉じる。
彼が尋ねたかった言葉なんて、とっくにお見通しだ。
ここのところの、どこか疲れたような視線で、何かを求めるように見つめられれば、嫌でもわかる。
けれど、ルルーシュはどうせライならわかるからと言って、言葉にしてくれないから。
だから、これはほんの少しの、いじわる。
明日の朝、目覚めたルルーシュが驚いてくれれば、ライの勝ち。
その反応を想像して微笑むと、腕の中のルルーシュをもう一度抱き締めた。

翌朝、ライの目論見どおり、目覚めたルルーシュは目の前にライの顔があったことに驚き、大声を上げるのだけれど、それはまた別のお話。




甘えたいけど口にはできないルルとお見通しなライ。
うちのライはルルーシュを甘やかすとき、頭を撫でます。
(Last Knights Afterでも一度やってますが)
というかライに頭を撫でられて気持ちよさそうにしているルルーシュに萌えたのです。



2009.1.10~1.25