月光の希望-Lunalight Hope-

笑顔

それは何気ない、本当に何気ない、いつもどおりの時間の中で起ったことだった。
またルルーシュに部屋を追い出されたのか、ライのベッドを占領し、ピザを食べていたC.C.が、何の前触れもなく切り出したのだ。

「何だお前。ルルーシュのことが好きなのか」

何の脈略もなく、突然告げられた言葉。
ソファで雑誌を読んでいたライは、耳に飛び込んできたそれに、口にした紅茶を盛大に拭いた。
「ごほ……っげ……っ」
「汚い奴だな」
「誰のせ……っ!というか、突然何を言い出すんだC.C.っ!!」
思い切り咳き込みながら自分を睨みつけるライに、C.C.はにやりと笑う。
「1日1回必ずルルーシュを捜しに来るんだ。そう思われても仕方ないだろう」
「う゛……」
図星だったらしい彼は、その一言で黙り込んでしまった。

最初の頃と比べ、ずいぶんと表情の増えたライは、けれどまだ感情のコントロールは苦手らしい。
綺麗な顔が真っ赤になっているのが楽しいといわんばかりに、C.C.はにやにやと笑う。
ちなみに、彼にルルーシュに対しての気持ちを自覚させたのは、数日前の彼女自身だったりする。
恋をしてみたいという彼にギアスを教え、自分を見てほしい人間はいないか尋ねれば、真っ先にあがってきたのがルルーシュだった。
そのときも同じ質問をしたのだけれど、その日のライは首を傾げるだけだったというのに。

少しは自分の感情にも色を見出したということか。

ほんの僅かに目を細め、未だ咳き込むライを見つめる。
漸く呼吸が落ち着いてきたらしいライの姿に、再び口元に笑みを浮かべると、にやにやという笑いを引っ込めずに尋ねた。
「いっそのこと、使ったらどうだ?その力」
「え?」
「お前の持つ王の力を使えば、ルルーシュはすぐにお前を好きになるぞ」
C.C.の言葉に、ライは軽く目を瞠る。
けれど、この紫紺はすぐに鋭く細められた。
「駄目だ」
「何故だ?」
「そんな力で心を手に入れたって、何の意味もないだろう」
ライの言葉に、今度はC.C.が目を瞠った。

「そんな風にルルーシュの心を手に入れたって、嬉しくない。僕は、本当の彼に、好きになってほしい」

真っ直ぐにこちらを見つめて告げる彼の目に、迷いはない。
それを悟って、C.C.は笑みを浮かべた。

まったく似ている。
この2人は、こんなところまで。

実は、C.C.はルルーシュにも同じことを同じことを言ったことがある。
ライが気になるのならば、ギアスをかけて自分ものにしてしまえばいいだろう、と。
けれど、そのときのルルーシュから帰ってきたのは、今のライとまったく同じ答え。
人を信じることを怖がっているあの子は、はっきりと口にしたのだ。

『そんな風にライの心を手に入れても、空しいだけだ』

人を好きになることが怖いくせに。
信じることが怖いくせに。
それでもあの子は求めている。
偽りばかりの中で生きてきたからこそ、たったひとつの『真実』を。

「だったらさっさと告白しろ。あいつを狙っている奴は多い。油断していると取られるぞ」
「君も含めて?」
「何の話だ」
「いいや、別に」
くすりと笑みを零すと、ライは雑誌を置いて立ち上がった。
そのまま扉へ向かうライを、C.C.は思わず視線で追いかける。
「ライ?」
不思議に思って呼びかければ、彼は不敵な笑みを浮かべて振り返った。
「そんなに言うなら、ちょっとアタックしてくるよ。ルルーシュ、部屋にいるんだろう?」
「ああ。せいぜいがんばれ」
興味がないといわんばかりの表情を浮かべてエールを送れば、ライは満足そうに微笑んで部屋を出て行く。
その背を見送って、C.C.は小さくため息をついた。

「……まあ、うまくいくとは思うがな」

一歩を踏み出せずにいるだけで、ルルーシュもライばかりを見ているから。
一番大切にしているナナリーよりも、あんなに固執していた枢木よりも、最近のルルーシュはライを気にし、ライばかりを追いかけている。
その鈍感さゆえに、ライが同じ感情を自分に向けていることには、気づいていないようだったけれど。

「私も馬鹿だな」

空になったピザの箱を閉じ、ふうっと息を吐き出す。
全てを知ったうえで、それでもこれを願うのは愚かなことだと知っている。
それでも、だからこそ、願わずにはいられないのだ。

「ああ、わかっているよ、マリアンヌ。だが仕方ないだろう」

偽りの中で、常に何かに怯えて生きているルルーシュ。
愛しいあの子に、本当の意味で笑っていてほしいと思う自分が、確かにいるのだから。




ライ→←ルルーシュ←C.C.になってしまった。
青月篇ルルーシュ攻略は「ギアスを使わずに」がモットー。
(でもナナリーには使う)
いや、ギアスで「動悸が……」と言い出すルルーシュも萌えなのですが。



2008,9,23~9.29 拍手掲載