月光の希望-Lunalight Hope-

Last Knights After

皇帝陛下のおもてなし

きょろきょろと辺りを見回すたびに、結い上げられた銀の髪が揺れる。
落ち着きなく体をもじもじと動かす天子を見て、隣に座る星刻はくすりと笑みを零した。
「天子様。そう緊張なさらずに」
「わかっています。けど、初めてなんですもの」
「ふふっ。お気持ちはわかりますわ」
星刻とは逆隣に腰を下ろした神楽耶が、天子を見てにっこりと微笑む。
「でも大丈夫です、天子様。あの方はきっと、昔と何にも変わっていませんわ」
「……ゼロはすごかったけど、怖かったです」
「まあ」
天子の言葉を聞いた神楽耶は、くすくすと笑った。

神楽耶と天子は、星刻を護衛に連れ、非公式にペンドラゴンを訪れていた。
フレイヤによって消失した本来の首都の代わりに首都と定められ、名を変えたその街に作られた新皇宮。
その敷地内に建てられた屋敷の一室に通された彼らは、そこで屋敷の主であるルルーシュを待っているのだった。

談笑していると、唐突に扉がノックされた。
その音に、それまで笑顔を浮かべていた天子がびくりと震える。

「どうぞ」
「失礼いたします」

神楽耶が答えると同時に扉が開き、2人の少年が入ってきた。
銀に塗装されたワゴンを押す、黒い騎士服を身につけた銀の少年。
その後ろから、やはりワゴンを押した同じ服の茶色い髪の少年が入ってくる。
茶色い髪の少年が扉を閉めると、先に入ってきた銀の少年はワゴンから手を離し、神楽耶たちに向かって一礼した。

「お待たせいたしました。お久しぶりです、神楽耶様」
「ええ。お久しぶりです、ライ。それに……」

神楽耶の視線がライと呼ばれた少年から外れ、もう1人の少年に向けられる。
同じ色の瞳が交わった瞬間、彼は綺麗に微笑んだ。

「久しぶりだね、神楽耶」
「……お久しぶりですわ、スザク」

邪気のないその笑顔に、神楽耶はほんの少しだけ他の力を抜く。
それでも、彼を睨みつけることだけは忘れなかった。

「あなたがライと並んでいる光景は、未だ慣れないものですわね」
「そう?」
「ええ。ライの隣はカレンさんというイメージがありますもの」

はっきりと言い返せば、スザクは途端に目を丸くした。
そのやり取りを見ていたライが、ふっと小さく笑いを零す。
「まあ、長い間ずっとそうでしたからね。仕方ありません」
神楽耶の予想とは違い、否定も嫌悪の言葉も口にしなかったライは、くすくすと笑いながらワゴンに向かう。
そしてその上に乗った料理の蓋に手をかけ、慣れた手つきでそれを取った。

「わあ……!」

途端に部屋中に広がった香りにワゴンに目を向けた天子が感嘆の声を上げた。
ワゴンの上には、数々の料理が乗せられていた。
そのほとんどから湯気が上がっていて、近づかなくても出来立てということが見て取れる。
「これは……」
「我らが陛下からのおもてなしにございます」
無意識にこぼれ落ちた星刻のその一言に答えを返したのはスザクだった。
その言葉に驚いた神楽耶が、勢いよく彼を見る。
「ルルーシュ陛下からの、ですか?」
「ええ。ちょうどそろそろ夕食の時間でしょう?」
当然のことであるかのようにそう言うと、スザクはにこりと笑う。
それが理由で、ルルーシュがわざわざこれを用意させたのかと驚いていると、配膳を始めていたライがふうっと息を吐き出した。
驚いて視線を向けば、その顔は本当に微かにだったけれど、悲しそうに歪んでいた。

「信用できないならば、毒味役を用意していただいてもかまいません」

ライのその言葉に、神楽耶は覚悟を決めた。

「いいえ。いただきますわ」

もしもこれが罠だったとしたら、毒味係を用意していいだなんて、ライなら絶対に言わないだろう。
毒など入っていないと自信を持っているからこそ、口にされた言葉。
そう信じさせることが作戦であるのだと、以前なら考えたかもしれない。
けれど、彼らを信じて受け入れると決めた今、そんなことは考えない。

「どうぞ、神楽耶様」
「ありがとう、ライ」
自分の前に料理を置いたライに向かって微笑めば、彼もにこりと微笑みを返す。
「天子様も、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。えっと……」
「こちらをお使いください、天子様」
きょろりと辺りを見回した天子の意を汲み取り、ライはフォークとナイフを差し出す。
それを受け取った天子は、再び何かを探すように辺りを見回した。
「あ、あの……」
「はい?」
「えっと、その……」
「ルルーシュ皇帝はいらっしゃらないのか?」
天子が何を訪ねたいのか悟った星刻が、彼女の代わりに口を開く。
その問いに一瞬きょとんとしたライは、すぐににこりと微笑んだ。
「もうすぐいらっしゃいます。皆様はどうぞ、冷めないうちにお食事を始めてください」
「で、でも……」
困惑した天子が、隣にいる神楽耶を見上げる。
一瞬迷うように視線を彷徨わせた神楽耶は、一度目を閉じるとすぐにそれを開き、真っ直ぐにライを見つめた。
「わかりました。いただきますわ」
はっきりと答えを返すと、用意されたフォークとナイフを手に取り、目の前の料理に手をつける。
目の前に置かれていたのは肉料理だった。
きっとそれは、ブリタニアの料理なのだろう。
中華連邦の伝統的な料理ばかりを食べて育った天子には、どんな味なのかさっぱりわからない代物だ。
神楽耶に倣って肉を切り分け、恐る恐る口に入れる。
その瞬間、舌の上で感じた感触に驚いた。
肉という食材には、堅いというイメージが強かった。
けれど、これは堅いどころか柔らかくて、舌の上で溶けていくような感じで。

「まあ!これは……」
「すごくおいしいです!」

神楽耶が驚いて言葉を口にするより先に、そう叫んでしまったのは無意識だった。
ちらりと横を見れば、星刻もその味に驚いているようだった。
「そうですか。よかった」
「陛下もお喜びになられます」
そんな3人を見て、2人の騎士は安心したように微笑んだ。






それからどれくらい時間が経ったのか。
そう思って時計を見上げたときには、既に食事は終わっていた。
「すごくおしいかったです。ごちそうまでした」
にっこりと笑った天子がそう告げた途端、唐突に扉がノックされた。
それに振り返ったライが返事をするより早く、扉が開かれる。

「失礼する」

その言葉と共に入ってきたのは、天子と神楽耶、星刻がずっと待っていた人物だった。
「あ」
「ルルーシュ」
ライとスザクが笑顔で彼を迎える。
彼らに微笑みを返したその人物を見て、天子はごくりと息を飲んだ。
「ルルーシュ、陛下……」
思わず名前を呼ぶと、綺麗な紫玉の瞳がこちらを見る。
目が合ってしまった途端、体がぶるりと震えてしまったのは無意識だった。
そんな天子を見て、ルルーシュは苦笑を零すと、そのまま彼女に向かい軽く頭を下げる。

「遅れてしまい、申し訳ありません」
「い、いえ!そんなことは……」
「こちらこそ、急な訪問をお詫び申し上げます」

どうしたらよいかわからずに慌てる天子の代わりに神楽耶が薄く笑みを浮かべて答えた。
彼女に向かい笑みを返すと、ルルーシュはこちらから視線を外し、後ろに控える己の騎士たちを振り返る。
「ライ」
「もう外に?」
「ああ。咲世子が用意をしている」
「了解」
彼が何を命じるのかわかっていたらしいライは、笑顔で頷くとこちらに背を向ける。
そのやり取りは、まだルルーシュがゼロであり、ライがその補佐だった頃に、黒の騎士団でよく見られた光景だった。
変わらないそのやりとりに、神楽耶は懐かしさと同時に痛みを感じて目を細めた。
そんな彼女の変化には気づかなかったのか、ルルーシュはくるりとこちらを振り返ると笑みを浮かべて尋ねた。
「お食事はいかがでしたか?」
「は、はい。とてもおしいかったです」
「それはよかった」
天子が素直に感想を伝えれば、ルルーシュは満足そうににこりと微笑む。
その笑顔を見た星刻が、わざとらしく大きなため息を吐き出した。
「さすがブリタニア皇帝の屋敷と言ったところか。いいシェフがいるのだな」
今は植民エリアを解放したとは言っても、元々は世界の三分の一を武力で支配していた国の皇帝の住む屋敷だ。
腕のいい料理人がいて当たり前。
そう思って口にした言葉だった。
だから一瞬、ルルーシュが何を言ったのか、わからなかった。

「この屋敷で料理を作れるのは俺と咲世子だけだ」
「……は?」

おそらく、ルルーシュを見つめ返す自分の顔は、ずいぶん間抜けに見えたことだろう。
「ということは、この料理は全部咲世子さんが作られたんですか?」
「いいえ。彼女には手伝って貰っただけですよ」
神楽耶の問いかけに、ルルーシュはあっさりと首を振る。
その答えに神楽耶はもちろん、天子も星刻も驚いた。
その屋敷に料理ができるのは2人だけ。
そして、その1人である咲世子が手伝っただけ、ということは。

「ということは、ゼロ様がお作りになったのですか!?」
「ええ」

思わず声を上げた神楽耶の問いに、ルルーシュは笑顔で答える。
遅れてルルーシュが「俺はもうゼロではありませんよ」と的外れな指摘をしたけれど、神楽耶も天子も、もうそんな言葉は聞いてはいなかった。
「ど、どうしてシェフがいないんですか?」
「この屋敷に住んでいるのは私たち4人とナナリーにC.C.、ジェレミアにアーニャだけですから。わざわざ人を雇うほどではありませんよ」
天子の問いに、ルルーシュは当然と言わんばかりににっこりと微笑む。
その言葉に唖然としていると、ルルーシュは聞いてもいないのに先を続けた。
「さすがに昼間は、咲世子1人に全てを任せるのは悪いので、皇宮から何人か回してはいますけどね」
つまり、他のことは全て彼と咲世子でやっているこということか。
ブリタニアの皇族という言葉からは想像もできないその言葉に、神楽耶と星刻は言葉を失う。
呆然とルルーシュを見つめていると、不意にくすりと笑いを零した声が聞こえた。
思わずそちらに目を向ければ、ルルーシュの後ろに控えているスザクが、楽しいと言わんばかりにくすくすと笑っていた。

「それに、そこらのシェフよりルルーシュと咲世子さんの作る料理の方がおいしいですから」

あっさりと言い放たれたその言葉に、神楽耶と星刻は再び目を丸くする。
「こらスザク」
「僕は本当のことを言ったまでだよ」
ほんの少しだけ頬を赤く染め、後ろを振り返ったルルーシュに、スザクはにこりと笑顔を返す。
そのとき、再び扉がノックされた。
我に返って扉を見れば、先ほど出て行ったライが新たなワゴンを押しながら入ってくるところだった。
「失礼いたします、天子様」
一礼した彼は、ワゴンの上に置いてあったシルバーの器を取ると、天子の前へとそれを置いた。

「わあ……!綺麗……!」

目の前に置かれたそれを見た瞬間、天子は目を見開いて声を上げた。
「杏仁豆腐です。と言っても、咲世子に作り方を教わったので日本風ですから、お口に合うかはわかりませんが」
「いえ!いただきます!」
困ったように笑うルルーシュに向け、天子はぶんぶんと首を振る。
きらきらと輝く杏仁豆腐を彩る、数々のフルーツ。
明らかに美味しいそうなそれを見てごくりと息を飲むと、スプーンで掬って口に入れた。
その瞬間、甘くもさっぱりとした味が口の中に広がる。

「おいしい……っ!?」
「それはよかった」

素直な天子の言葉に、ルルーシュはにこりと微笑む。
その顔は邪気などまるでなく、本当に嬉しそうだった。
「よろしければお茶はいかがです?この前ナナリーが貴国へ滞在した際に買ってきてくれたものがあるのですが」
「い、いただきたいです!」
慌てた様子で答えた天子に微笑むと、ルルーシュは失礼と言って席を立つ。
ライが杏仁豆腐とともに運んできたティーセットを手に取ると、自ら慣れた手つきでお茶を入れた。
神楽耶たちがそれに驚いている間に戻ってきたルルーシュが、にっこりと笑ってカップを差し出す。
「どうぞ、天子様」
杏仁豆腐に夢中だった天子は、目の前に出されたお茶にごくりと息を飲むと、スプーンを置いてカップを手に取ると、恐る恐るそれに口を付けた。
「おいしい……っ!?」
「これは、朱禁城の給士顔負けですわね」
「……お恥ずかしながら、反論はできません」
神楽耶の言葉に、星刻が同意する。
彼女の言うとおり、朱禁城にもここまでうまく茶を入れられる者はいなかった。
「すごいです!ルルーシュ陛下って何でもできるんですね!」
全く予想していなかったブリタニア皇帝の特技を知り、天子は目をきらきらと輝かせてルルーシュを見つめる。
その言葉にルルーシュは苦笑を浮かべた。
「天子様も、練習すればできるようになりますよ。おかわりはいかがですか?」
「えっと……その……」
「遠慮しなくていいですよ」
「い、いただいてもいいですか?」
「もちろん。ライ」
「イエス、ユアマジェスティ」
控えていたライに声をかければ、彼は微笑んで天子の前に置かれたカップを下げる。
それに軽く礼を告げると、ルルーシュは再び立ち上がり、ティーセットを手に取った。



ワゴンの片づけを始めていたライは、寄ってきた気配に気づいて振り返った。
そこにいた苦い笑みを浮かべる人物を見て、首を傾げてみせる。
「どうかしましたか?星刻総司令」
「いや……。ルルーシュ皇帝は、あんな人物だったのだな」
ため息混じりに吐き出された言葉に、ライは一瞬きょとんとした表情を浮かべる。
けれど、すぐにそれが悪い意味ではないことに気づいて、にこりと微笑んだ。
「ええ。ゼロの時には気づかなかったでしょう?彼が年下に優しいこと」
「まあ、気づく要素もなかったが」
「ほとんどが年上でしたからね。ルルーシュも、最初は天子様のこと、苦手みたいでしたし」
くすくすと笑いながらそう言えば、星刻は途端に眉を寄せた。
その理由を正確に理解したライは、わざとにこりと微笑んでみせる。

「誰かの意志で人形のように生かされて生きることは、ルルーシュが最も嫌うことですから」

そう言えば、聡明な星刻はそれだけで先ほどの言葉を理解したらしい。
先ほどとは違う表情で眉を寄せた彼に、ライは笑みを浮かべた。

「自分の意志で歩き出されてから、ルルーシュの天子様を見る目はいつだって優しかったですよ。ゼロの時もね」
「そうか……」

ほんの少し星刻の表情が後悔に歪んだのを読み取って、ライは彼から視線を外し、仕事に戻る。
給士の真似事なんて騎士の仕事ではないと思われているだろうが、仕方がない。
咲世子は先ほど別の用事で出かけてしまったから、他にできる人間がいないのだ。
ルルーシュ本人にやらせるわけにはいかないから、ライが進んで申し出た。
そうして黙々と仕事をしていると、それを黙って見ていたはずの星刻が唐突にため息を吐き出した。

「それにしても、少し世話を焼きすぎではないか……?」

その言葉に顔を上げる。
見れば、星刻の視線はとっくにライから外れていて、真っ直ぐにテーブルを見ていた。
そこには、ルルーシュと食事を終えた天子がにこやかに談笑している姿がある。
天子が夢中になって何か失敗をするたびに、さりげなくルルーシュがそれをフォローしているのだが、星刻はどうやらそれが気になって仕方ないらしい。
それを見て、ライは二重の意味で苦笑した。
「気にしないでください。ルルーシュが年下に世話を焼いてしまうのは長年培った性格です」
「性格?」
「ええ」
星刻の問いに、ライは頷く。

「ルルーシュは先帝に捨てられてから、盲目のナナリーと2人きりで生きてきたんです」

ライのその言葉に、星刻は僅かに目を見開いた。
ルルーシュの過去を、星刻と神楽耶は既に知っている。
それを思い出し、再び寄せられた眉を見て、ライは気づかれないように苦笑した。
ルルーシュは自分の『事情』を人に知られるのを嫌がるから、きっと後で怒られるだろうなと思いながら言葉を続ける。

「だから、危なっかしい子にはつい手を貸してしまうんですよ。特に年下の女の子には甘いです」

ナナリーはもちろん、完全に新皇帝派についたアーニャに対しても、ルルーシュは甘い。
まあ、それは年下に限らず、身内全般に関してなのだけれど、それは教えないでおく。
代わりに釘を指しておこうと、ライはにやりとした笑みを浮かべ、星刻を見た。
「安心してください星刻さん。ルルーシュが天子様を妹みたいに見ることはあっても、恋愛対象として見ることはありませんから」
「わ、私は別に……」
ライが言わんとしたことに気づいたのか、少し頬を染めた星刻が、慌てて視線を逸らしたそのときだった。

「もう!スザク!」

突然神楽耶の声が上がり、ライと星刻はテーブルへと視線を向ける。
天子と共にルルーシュと話をしていたはずの神楽耶が、眉を吊り上げてルルーシュの後ろに控える自身の従兄を睨みつけていた。
「あなた、ゼロ様の正体がルルーシュ様だと知っていて先帝に売ったくせに、生意気です!」
「ええっ!?そうなのですか!?」
神楽耶の暴露に、天子が大声を上げる。
ああ、そんなこともあったな、なんて暢気に呟いたのは、売られた張本人であるルルーシュだった。
「仕方ないだろう。あの頃は誤解とか……、そういうのもいろいろあったんだ」
「だからって、ルルーシュ陛下と引き替えにラウンズになるなんて、酷いですわ!ねえ?天子様?」
「酷いです。枢木卿はルルーシュ陛下のお友達ではなかったんですか?」
「いえ、ですから天子様……」
スザクは敵だと刷り込もうとせんばかりに神楽耶が天子に話を振り、天子が軽蔑の眼差しでスザクを見つめる。
スザクは落ち着いているように見えるものの、実は誤解を解こうと必死だ。
そのやり取りを見て、ライは思い切りため息をついた。
そのまま、呆れたと言わんばかりの目で星刻を見る。
「誰から聞いたんですか?あれ」
「紅月君だったな、確か」
「ああ、なるほど……」

スザクがゼロの正体を知った上で彼を捕らえ、先帝に差し出してラウンズの地位を得たことを知っている人間は限られている。
一体誰がそこまで話したのかと思って訪ねれば、当事者の1人とも言える友人の名前が返ってきて、ライはがっくりと肩を落とした。

「それにしても、彼はそれでラウンズになったのか」
星刻がじっとスザクを見つめ、呟く。
そこに嫌悪が混じっていることに気づくと、ライはもう一度ため息を吐き出し、わざとらしい笑みを浮かべた。
「星刻総司令。言っておきますが、あなたはスザクのことを言えませんからね」
「何?」
星刻が思い切り眉を寄せてこちらを見る。
その彼の目を真っ直ぐに見て、ライはにっこりと笑った。

「扇たちの言い分をあっさり信じた件について、まだ僕はあなたを許したわけではありませんから」

はっきりとそう言いきったライの目は、全く笑っていなかった。
その目に見つめられた星刻の背に、悪寒が駆け抜ける。

「……あら?」
「星刻さん?」
「何をしているんだ、あいつらは……?」
「星刻ぅ~」

テーブルで話をしていた4人が気づいたとき、星刻はライに向かって全力で土下座をしていた。
その姿に4人は何があったのかと首を傾げた。
それ以降、天子がスザクに悪い印象を抱きそうになると、何故か星刻が全力でスザクのフォローを入れるようになるのだが、彼らがその理由を知ることはなかった。




2009.6.27
2014.9.28 加筆修正