月光の希望-Lunalight Hope-

Last Knights After

来訪予告

11月も終わりが近づく頃になると、ブリタニア政府はにわかに忙しくなってくる。
別にその時期だけ何か行事があるわけではない。
国のトップである2人のナイトオブゼロが、12月の頭に自分たちと皇帝の休暇をもぎ取るために、急ピッチで仕事を片づけにかかるのだ。
けれど、あいにく今年は超合集国の会議が入ってしまっていて、さすがの彼らも休暇が取れずにいた。
「それでせめて当日だけでも、という交渉をしたということですか……?」
『ええ。その通りですわ』
モニターの向こう側にいる神楽耶の言葉に、ルルーシュはため息をつく。
超合集国理事会の長である神楽耶が、重要な連絡があるからと皇帝直通回線の使用申請があったから何かと思えば、自分の騎士たちの勝手な行動についての連絡だったのだ。
ため息をつくなと言う方が無理な話である。
『というわけで、今回の超合集国評議会は、予定を変更してブリタニアで行います。そして、12月5日は休憩日とさせていただきたいと思いますわ』
そう言ってにっこり笑った神楽耶に、頭を抱えた。
「神楽耶様……。たかが私の誕生日くらいで、そんな日程を組まなくても……」
『まあ、何を仰いますのルルーシュ陛下!これは大切なことです!』
画面の向こうの神楽耶が、ばんっと執務机を叩く。
個人の誕生日なんて、政治に優先されるべきではない。
その主張の元、ルルーシュが反論しようとして口を開こうとした、そのときだった。
『ライが言っていました。あなたに、自分が生まれてきたことを喜んでほしいと』
その言葉に、ルルーシュは思わず口に仕掛けた言葉を飲み込む。
『そのために、あの日だけは絶対に譲れないと、そう申していましたわ』
「あの馬鹿……」
ふわりと微笑んだ神楽耶の顔を見て、ルルーシュは思わず顔を伏せた。
頬が熱い。
きっと真っ赤になっているに違いない。
こんな顔を神楽耶に見せられるはずもなかった。
『ふふ。ルルーシュ陛下ってばかわいいんですのね』
「かわ……っ!?」
とんでもないことを言われた気がして、ルルーシュはがばっと顔を上げる。
反論をしようとするより先に、にっこりと笑った神楽耶が口を開いた。
『そういうわけですから、ルルーシュ様。今年の誕生日は楽しみにしていてくださいまし』
「え?」
『この皇神楽耶、天子様と一緒にルルーシュ陛下をお祝いしに参ります』
「神楽耶様……!?」
今度こそとんでもないことを言い出した神楽耶に、ルルーシュは仰天する。
その顔を見てくすくすと笑いながら、画面の向こうの神楽耶は得意そうな
表情を浮かべる。
『断っても無駄です。ルルーシュ陛下の誕生会に招待してくださることを条件に評議会の日程提案を飲むと、エイヴァラル卿とお約束しましたので』

あの馬鹿……っ!

そう叫びそうになって、ルルーシュは慌ててその言葉を飲み込んだ。
『ですから、楽しみにしていてくださいね!』
「ちょ……っ、神楽耶様!」
『それでは、失礼いたしますわ』
詳細を問いただそうとするより先に、モニターに打っていた神楽耶の顔が消える。
どうやら向こうから回線を閉じられてしまったらしい。
思わず止めようと伸ばした手は行き場を失い、そのままルルーシュの額に当てられた。
「どうしてあいつらは勝手に……っ」
いや、わかっている。
自分に言えば、全力で反対するからだ。
そして反対しても、ライなら確実に押し切る。
そうなるのが目に見えているとはいえ、一言くらい話をしてくれてもいいだろうに。
そう思ってため息をつこうとしたとき、不意に先ほどの神楽耶の言葉が頭に浮かんだ。

『あなたに、自分が生まれてきたことを喜んでほしいと』

そう言って微笑んだ神楽耶の顔が目に浮かぶ。
きっと、彼女はそう言ったときのライを思い出していたのだろう。
その表情から、そのときライがどんな顔をしていたのか、想像することができてしまった。
「あの馬鹿が……」
そんな風に言われたら、反対できるはずがない。
ふと、モニターに映った自分の顔を見る。
そして気づいた。
いつの間にか、自分が笑っていることに。
「……俺も大概だな」
そんな自分に思わず苦笑して、モニターの電源を落とした。
そろそろライとの約束の時間だ。
「とりあえず文句だけは言っておくか」
もうそんな気も失せてしまってはいるけれど、一応皇帝として言うべきことは言っておかなければならない。
その決意だけはして、ルルーシュは席を立った。




2013.12.23