月光の希望-Lunalight Hope-

羽根つき大会

皇暦2018年1月2日。
クリスマス休暇中のアッシュフォード学園は、普段ならばほとんどの生徒が帰省し、静まり返っている。
違うのはランペルージ兄妹の住むクラブハウスくらいで、そこで咲世子に教わったささやかな日本風のお正月を祝っているくらいだ。

けれど、今年は違った。
きっかけは、当然といえば当然のごとく、生徒会の最高権力者が言い出したこの一言。

「せっかく日本人が3人もいるんだもの!エリア11風のニューイヤーを祝ってみましょう!」

その一言で、生徒会のニューイヤーパーティは決まったのだった。






「羽子板対決よーっ!?」

ばんっと生徒会室の扉が開いたかと思うと、振袖姿のミレイが入ってくる。
カレンと咲世子によって着付けられたそれは、彼女によく似合う青紫を基調としたのだった。

「はい?」
「羽子板対決?」

咲世子と共にお節料理を並べていたルルーシュとスザクが、不思議そうに振り返る。
その間も、ルルーシュは横から伸びるリヴァルのつまみ食いの手を叩くことを忘れない。
「って、羽子板を作るんですか?今から」
「ちっがうわよぅ!何言ってるの!スザク君!」
こてんと首を傾げて尋ねたスザクに、ミレイは笑いながらぱたぱたと手を振る。
「ほら。日本の習慣にあるじゃない?ニューイヤーに、これを使ってやるバトミントンが!」
手にした袋の中から板と色のつけられた黒い玉を取り出して、ミレイが高々と掲げる。
「それは羽根つきです、会長」
「羽子板って、その板の名前ですよ」
呆れたようにルルーシュが、苦笑しながらスザクがミレイの間違いを訂正する。
「あら?」
「会長……」
頬に片手を当てて首を傾げるミレイを見て、ルルーシュは思わずため息をついた。
「まあ、細かいことは気にしない」
「日本人としては思いっきり気になります」
「まあまあ、カレン。会長もわざとじゃないから」
ぶすっとした表情で呟いたカレンをライが宥める。
カレンの姿は、ミレイ同様振袖だ。
淡い赤のそれは、元々行政特区の式典用に準備したものだった。
「そういうわけで、ニーナっ!」
「はーい」
ミレイが声をかけると、パソコンの前に座っていたニーナが、がらがらとホワイトボードを押してやってくる。
そのホワイトボードには、既に大きな紙が張られていた。
「せっかく8人いるんだし、トーナメント表作ったの。みんなで楽しみましょう」
「対戦相手はくじで決めるわよぉ!覚悟はいいわね!」
いつの間に用意していたのか、ミレイは持っていた袋からくじが入っているらしい取り出し、高々と掲げる。
それを見て、ルルーシュはため息をついた。
「どうせ強制参加でしょう?わかりましたよ」
「ふふーん。ルルちゃんわかってるぅ~。そういうわけだから、よっろしくぅ!」
スザクに道具一式を押し付けて、ミレイはさっさとくじを引く。
ニーナに番号を告げると、彼女はその場所にミレイの名前を書き加えた。

「いいなぁ。皆さん楽しそうです」
生徒会室の隅でお皿を並べるのを手伝っていたナナリーが、ぽつりと呟いた。
傍でその手伝いをしていた咲世子が、それを聞き取ってにこりと微笑む。
「ナナリー様。皆さんがやってらっしゃる間、温かいものを準備したいと思うのですが、お手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「え?」
一瞬きょとんとした表情を浮かべたナナリーは、次の瞬間ぱあっと表情を明るくする。
「ええ!よろこんで、咲世子さん!」
にっこりと笑うナナリーに向かい、咲世子もにこりと微笑んだ。



「……で、第一回戦の対戦相手がこうなったわけだけど」

先ほどとは打って変わり、腰に手を当て仁王立ちをしたミレイが、不機嫌そうな表情でため息をつく。
さすがに室内で羽根つきはできないため、場所を中庭に移動した彼らの少し離れた場所に立つのは、一回戦第一試合を行うことになった2人。
純日本人の枢木スザクと、半分日本人であるライ・エイド。
それぞれ特区の式典のために用意された袴姿の2人は、それぞれ羽子板を持ち、中庭の中央で対峙していた。

「わーお。いきなり大盛り上がり~」
「決勝が3人の中の誰かの組み合わせだったら、もっと盛り上がったのにねぇ」
「会長。私とライをスザクと一緒にしないでください」
思い切りため息をつくミレイが自分を見たのを見て、カレンが嫌そうに呟く。
それを聞いて、傍でリヴァルとシャーリーが苦笑した。
「対戦相手になった以上、全力で行かせてもらうよ、ライ!」
「望むところだよ、スザク」
そんな彼女たちの会話を知る由もなく、スザクとライは微笑み合う。
「では!開始っ!」
またどこから持ち出してきたのか、ミレイが片手を上げ、ホイッスルを吹く。
軽いその音と共に、スザクが手にしていた羽根を空中に投げる。
落ちてきたそれを見た瞬間、スザクの翡翠の瞳がぎらっと光った。

「轟けサンダーボルト!雷ランスロットユグドラシルサーブっ!!」

突然叫んだかと思うと、スザクが羽子板を振り切る。
見事中央に当たった羽根が、物凄いスピードでライに向かって飛んでいった。
一瞬怯んだ表情をしたライは、的確な動きで羽根の飛んでくるコースへ飛び込み、それを打ち返す。

「ブラックホールダイニングトルネードスマーシュっ!!」

くるくると回転しながら、飛んできた羽根を思い切り打ち返す。
さらに勢いを増して飛んできたそれを、またしてもライは的確に打ち返した。
あまりの勢いの強さに、羽子板がほんの少しだけへこむ。
それに舌打ちをしたい気分だったけれど、そんな暇はなかった。

「超マグナム枢木スペシャルデラッぁぁぁクスっ!!」

もはや何だかよくわからない動きをしたスザクの、さらに勢いを増した剛速球を、やはりライは的確に打ち返す。
既に人の目には映らなくなっているその羽根の打ち合いを見て、ぽかんと口を開けたままのリヴァルが呟いた。
「すげぇ……。全部打ち返してるぞ、ライ」
「しかも見えないし……」
「訂正します、会長。私をあの2人と一緒にしないでください」
「あ、ははははははは……」
カレンの冷たい一言に、ミレイが乾いた笑いを浮かべる。
「やるじゃないか!ライ!さすがだね!」
「スザク……」
楽しそうに笑うスザクに、ライは冷ややかな視線を返す。
羽を打ち返しながら、ひとつため息をついた。
「僕の中に流れる皇の血が、君を日本人として認めるなと叫んでるんだけど?」
「あははははっ!気のせいだよっ!」
冷たいその一言に楽しそうな笑顔で答えて、羽根を打ち返す。
それを返しながら、ライは再びため息をついた。
「ぜぇったい、気のせいじゃないと思うわ」
「ははは……」
ぼそっと呟いたカレンの横で、今度はシャーリーが乾いた笑いを零す。
スザクの打ち方は、ブリタニア人の彼女から見ても確かに無茶苦茶だった。
「しっかし、これじゃあ埒があかねぇなぁ」
「あの2人にはポイント制も無意味なんじゃないですか?会長」
「そうねぇ……」
ルルーシュの言葉に、ミレイが本気で考え込む。
相手がアウトになれば1ポイント、3ポイント先取したほうが勝ち、というルールだったのだが、この2人の場合、全く決着がつきそうにない。
どうしたらよいものかと考えていると、不意に傍から声が聞こえた。

「いい方法があります、お兄様」

突然かかったその声に、ルルーシュは驚いて振り返る。
そこには、咲世子と共に厨房に行ったはずのナナリーがいた。
「ナナリー!?来ていたのか」
「はい」
「それでナナちゃん?いい方法って?」
「簡単です」
シャーリーが尋ねれば、ナナリーはにっこりと微笑む。
全員が首を傾げていると、彼女はその笑顔のまま、傍に立つ兄を見上げた。

「お兄様が一声ライさんを応援すればいいんです」

一瞬、その場にいる誰もが、ナナリーが何を言ったのかわからなかった。
「は?」
「へ?」
「ああ……。それは確かに名案かも」
「カレンまで!?」
ルルーシュとリヴァルが間抜けな声を上げる傍で、カレンがぽんっと手を打つ。
その反応に驚き、声を上げてしまったのはシャーリーだった。
そんな彼女の反応は綺麗に無視して、カレンはくるりとルルーシュを振り返る。
「いいじゃない。このままじゃいつまでかかるかわかんないし。ちょっとやってみてよ」
「やってみてって、お前なぁ……」
「それに、私の紅月の血も、スザクのあのスタイルはちょーっと許せないわ」
にっこりと微笑んだカレンの米神に青筋を見た気がして、ルルーシュは顔を引き攣らせた。
「あれで仮にもキョウト六家の跡取りだって言うんだから、ちょっと信じられないわよねぇ」
「あ、あははは……」
カレンの傍に立つシャーリーが、苦笑いを浮かべる。
それを見て、ルルーシュはため息をついた。
「仕方がない。やればいいんだろう」
「とびっきりの笑顔でね!」
「わかったわかった」
変に気合が入ってしまったらしいカレンの声に、投げやりな答えを返して、数歩前に出る。
すうっと息を吸い込むと、未だに打ち合いを続ける2人を見た。

「ライ!」

ルルーシュの声に、ライは羽根に集中していた意識をこちらに意識を向けた。
その中でも、しっかりと打ち返しているのは、日ごろの成果の賜物か。
それに内心で感心しながら、ルルーシュはもう一度息を吸い込む。
真っ直ぐに視線をライに向けると、目が合うのを待ってから、にっこりと微笑んだ。

「がんばれ!」

その瞬間、ライがその紫紺の瞳を大きく見開いた。
「ルルーシュ……!」
一瞬ライが呆けたような表情をする。
気を抜いたその瞬間を狙うかのように、目の前に黒い玉が迫る。
それの気配を察したかのようにライはルルーシュから視線を外すと、ぎっと目の前のスザクを睨みつけた。

「白兜覚悟ぉっ!!!」
「えっ!?うわあっ!?」

がきんっと音がしたかと思うと、スザクの顔の側を何かがすり抜けた。
一瞬遅れて、どすっという音が聞こえる。
何かと思って振り返れば、先ほどまでライの目の前に合ったはずの羽根が、そこにあったはずの芝生を抉り、地面の中にめり込んでいた。

突然の事態の変化に、一瞬その場が静まり返る。
真っ先に我に返ったのは、地面を抉るほどのその羽根を打たれたスザク本人だった。
「じ、地面抉った……っ!?」
「えーっと、スザク君アウトーっ!」
その声に遅れて我に返ったミレイがホイッスルを吹くと、次いで我に返ったニーナがスコアボードを捲る。
呆然とその光景を見ていたスザクは、じゃりっと地面を踏みしめる音に我に返った。
シャーリーから新しい羽根を受け取ったライが、ゆっくりと頭を動かす。
その先ほどまでとは明らかに違うその雰囲気に、スザクは負わず後ずさった。

「ちょ……っ!?ライ……!?」
「ふ、ふふふふふふ……」

漸く顔を上げたライの目は、全く笑っていない。
それどころか、今までに見たことのない光を浮かべていて、それが物凄く恐ろしかった。

「女神の微笑みを受けた私に勝てると思うなよ。愚民が」

明らかにいつもより低い、声。
「ひ……っ!?」
その声に、スザクはびくりと体を震わせ、情けのない声を上げた。
それを見ていたリヴァルが、思い切り顔を引き攣らせる。
「な、なんか降臨しちゃってるんですけど……」
「あら。ちょっと効果ありすぎたみたいですね」
「しょうがないわよ。スザク相手だし」
「というか、女神って俺か?」
「ルルじゃないかなぁ?間違いなく」
ナナリーが首を傾げ、カレンが平然と呟く横で、ルルーシュが複雑そうな視線を2人に向ける。
そんなルルーシュから視線を逸らし、シャーリーがぼそりと呟いた。

「ちょ、ちょちょちょちょっ、ちょっと待ってっ!ライっ!!」
「問答無用っ!!」
「だから待っ……うわあぁっ!?」

そんな彼らのやり取りには見向きもせず、ライが空中に羽根を放り投げ、スザクに向かって思い切り打ち落とす。
本気のライと初めて対峙するスザクに、それが打ち返せるはずもない。
あっという間に3ポイントをもぎ取ったライは、満面の笑顔でルルーシュの傍に戻っていき、すっかり意気消失してしまったスザクは、暫くの間呆然とそこに座り込む羽目になった。




元旦でないのは、特区組がお正月式典で不在だったからです あれおかしいな?このシリーズではライは狂王モードにはならない予定だったのに スザクの技名は、R2のSE1よりです。



2009.1.2~1.10 拍手掲載