月光の希望-Lunalight Hope-

傍にある優しい世界

「本日より復学します、ルルーシュ・ランペルージです。また宜しくお願いします」

そう言ってクラス全員の前で頭を下げたのは、数か月前に突然本国へ留学した麗しの生徒会副会長だった。






「しっかし、本当に久しぶりだよなぁ、ルルーシュ」
「そうよねぇ。ルルーシュの留学、突然だったから」

昼休みの中庭。
その中でも人気のスポットを陣取った生徒会メンバーで、最初に口を開いたのはリヴァルとミレイだった。
しみじみと言う2人に、ルルーシュは苦笑を浮かべる。
「ライとカレンも来る回数減っちゃって、書類が大変だったんだからぁ」
「あれは会長が悪いんでしょう。僕とカレンが来るのをぎりぎりまで待つから」
「そうです!私たちだって、一応忙しいんですから」
並んで座る2人は、恨みがましく自分を睨むミレイにはっきりと言い返す。

特区が軌道に乗るにつれ、黒の騎士団の幹部は、ゼロ以外のほとんどが公の場で顔を晒すようになっていた。
ゼロの片腕であるライとカレンも同様で、2人が黒の騎士団の幹部であり、ブリタニアと日本人のハーフだという事実は、既にエリア11中に知れ渡っている。
それとともにカレンは『病弱なお嬢様』の仮面を完全に捨て、『紅月カレン』としての自分を曝け出すようになっていた。
最初は大変だったそれも、ライのフォローによって今ではすっかり馴染んでしまっている。

まだミレイに食いつかれている2人を微笑ましく見ていると、突然リヴァルが振り返った。
「そうだ。ルルーシュ、知ってる?ライとカレンって、黒の騎士団だったんだぜ」
「ああ、知ってるよ」
「え?そうなの?」
「ナナリーとの電話で話は聞いてたし、本国でも特区のことはやっていたから」
そう説明すれば、リヴァルは納得したとばかりに頷いた。
その顔を見て、ルルーシュは内心でほうっと安堵の息を吐く。
その途端、直前までライとカレンに食いかかっていたミレイが、ぐるりとこちらを向いた。
「やっぱりナナちゃんのところにはちゃんと電話してたのね」
「そりゃあ、たった1人の大切な妹ですから。急に決まった留学とはいえ、心配でしたし」

これは、本当だ。
特区の仕事をしていても、1人学園に残ったナナリーが心配だった。
学園に顔を出すことのできるライとカレンに、ナナリーのことを頼んではいたが、それだけでは不安で。
だから毎日電話をしていたのは、自分とナナリーだけの秘密だ。
そんなことを言っても、きっとライとカレンにはお見通しだとは思うけれど。

「そういや、何であんなに突然だったんだ?しかも、ナナリー置いてなんてさ」
突然思い出したと言わんばかりの口調で、リヴァルが尋ねる。
その問いに、ルルーシュは困ったような笑みを浮かべた。
「亡くなった母の関係でちょっと、な。まだ少しごたごたしているから、すぐには無理だけれど、少しずつ生徒会にも復帰するさ」
「早めにお願いね。頼りにしてるんだから!」
「はいはい」
ミレイの言葉を、ルルーシュは軽く笑って返す。

それは、いつものやり取りだった。
学園祭まで、特区が成立する前まで、当たり前のようにあったやり取り。
それが今でも続いていることに、幸せを感じてしまうのは仕方がない。

だって、もう、戻ってくることはできないと思っていたのだ。

ギアスが暴走し、仮面が外せなくなった今、ここに戻ってくることは、ただのルルーシュとして、こうやって過ごせることは、二度とないと思っていた。
その自分が戻ってくることができたのは、C.C.に貰ったコンタクトのおかげだった。
ギアスの力を抑えることのできるカラーコンタクト。
それがなければ、自分がここに戻ってくることは、きっとなかっただろう。

『ライとカレンに泣きつかれてな。大人しく受け取れ』

そう言った魔女の言葉が、本心か照れ隠しだったのかは、わからない。
けれど、彼女は確かに、幸せを授けてくれた。
ここに戻ってくるという幸せを。
そして。

「お兄様ぁーっ!」

ナナリーと、もう一度一緒に暮らせるという幸せを。

「ナナリー」

呼ばれて振り返った先に、咲世子に車椅子を押してもらうナナリーの姿があった。
名を呼べば、傍まで寄ってきた彼女は、ほんわりと微笑む。
「お待たせしました、お兄様。遅れてすみません」
「遅れてなんかないさ。中等部の校舎からここまでなら、十分想定内の時間だよ」
「でも、少しでも早くお会いしたかったですから」
にこにこと笑いながらルルーシュの手を掴むナナリーは、いつより積極的に見えた。
そんなに寂しい思いをさせていたのかとほんの少しの後悔をしながら、ルルーシュは「俺もだよ」と頭を撫でる。
そうすれば、ナナリーの顔がますます嬉しそうに綻んだ。
「おーおー。相変わらずこの兄妹はラブラブだねぇ!」
「いいじゃないですか、ミレイさん」
「そうそう。仲良きことは美しきことかなって日本の言葉もありますし」
「……ちょっと、うらやましいかも」
「何か言った?シャーリー?」
「え?い、いえっ!何でもないです!」
小さく呟いたはずの言葉に反応したミレイに驚き、シャーリーは慌てて首を振る。
そんなやり取りにも懐かしさを感じていると、目の前のナナリーがぱんっと手を叩いた。
「ああ、そうだ。忘れていました」
何かと思って視線を戻せば、気配でそれがわかったのか、ナナリーはにっこりと笑った。

「お帰りなさい、お兄様」

その言葉に、ルルーシュは思わず目を瞠る。
にっこりと微笑む妹は、そういえば昨日は突然の帰宅に喜んで、自分に抱きついて泣いてばかりいた。
そのナナリーの姿ですっかり頭から抜け落ちていたが、まだその言葉を言ってもらっていなかったのだ。
漸く言えたとばかりに微笑むナナリーは、本当に嬉しそうで。
その表情に、自分も嬉しくなって、ルルーシュは微笑む。
「そういえば、まだ言ってなかったわねぇ」
「駄目ですよ、ミレイさん。そういうのはもっと早く言ってあげなくちゃ」
「なーに言ってるの!そういうあんただって言ってなかったでしょうが!」
「いてっ!」
ぱしんっと頭を叩かれて、ライが大げさに痛がる。
それすら懐かしくて、暖かくて、嬉しくて。
気を抜けば溢れそうになる想いを、押さえ込むので必死だった。
そんな自分に気づいたのか、ライとカレンが悪戯っぽく微笑む。
互いがすぐ傍にいる友人に合図して、みんなが真っ直ぐに、ルルーシュを見て。

「お帰り、ルルーシュ」
「……ただいま」

そうして伸ばされた手を、まだ取ることが許されていることが、何故かはわからなかったけれど、言葉にできないくらい嬉しかった。




しゃべってませんが、ニーナはいます。
スザクは特区でお仕事中。



2008.8.15