張り合い
生徒会室の扉を開く。
「あら?カレン?」
その途端、中にいたミレイに声をかけられ、カレンはぺこりと頭を下げた。
「こんにちは、ミレイさん」
「どうしたの?今日は仕事じゃなかった?」
「えっと……」
ミレイのその問いに、カレンは困ったような表情を浮かべる。
「ライが急に休むって言うから、何かあったのかと思って様子を見に着たんですけど……」
「ああー……」
ミレイが納得したといわんばかりの表情を浮かべ、室内を振り返った。
彼女が顔を向けた方向に、カレンの探し人はいた。
1人ではなく、本当は2人。
ライともう1人の探し人であるルルーシュは、互いに背を向けるように座り、それぞれノートパソコンに向き合っていた。
「何してるんですか?あの2人」
「どうやら喧嘩したみたいなのよねぇ」
「喧嘩ぁ?」
普段仲の良い2人が、喧嘩をするなんて信じられなくて、カレンは思わず間の抜けた声を上げる。
「なんか、昨日すごかったって咲世子さんが言ってたのよねぇ」
「カレン、何か聞いてないの?」
「聞いてたら聞かないわよ」
シャーリーの問いに、カレンははっきりとそう答える。
そもそもライもルルーシュも、昨日は2人して休みを申請していて、特区で仕事をしていたカレンは会っていないのだ。
喧嘩をしていた事実も知らないのに、事情なんて知るはずもない。
「ねぇ、ちょっと2人とも……」
とりあえず問いただそうと声をかけようとしたそのときだった。
「よしっ」
突然ルルーシュがパソコンから顔を上げ、声を出した。
かと思うと、そのまま喧嘩をしているというライの方を振り返る。
「1億だ!」
得意げな顔をしてライにそう宣言したルルーシュを、何事かと思いながら呆然と見ていると、ライがゆっくり彼を振り返った。
「残念だな、ルルーシュ」
「何?」
ライの言葉に、ルルーシュが眉を寄せる。
それを見た途端、ライの唇が綺麗な弧を描いた。
「2億」
「な……っ!?」
ライが人差し指と中指を立て、にいっと笑う。
それを見た瞬間、ルルーシュは目を見開き、絶句した。
「賭けは僕の勝ちだな」
「ぐ……っ」
にやりと笑うライを見て、言い返す言葉がないのか、ルルーシュは拳を握り締めて唇を噛み、ぶるぶると肩を震わせている。
そんな2人のやりとりを見て、カレンは思い切り、わざとらしいくらいのため息をついた。
「あんたたち……」
その声で、初めて彼女がここにいることに気づいたらしい。
ライが漸く、驚きの表情を浮かべてこちらを見た。
「あれ?カレン?今日は会議じゃなかったか?」
「あんた、が来ないから中止になったわよ!」
本当はあんたたちと言いたいところを何とか押さえ、カレンはライにだけ向かって文句を叫ぶ。
もちろん、それはルルーシュに対しての文句でもあったのだけれど、それはここで面と向かって言うことはできないから後回しだ。
「ああ……。それはすまない」
あっさりとそう言ってのけるライが憎らしい。
その気持ちを、もう一度大きなため息をついて無理矢理吐き出すと、カレンはライを睨みつけながら尋ねた。
「で?あんたは会議をすっぽかしてルルーシュ相手に何やってたわけ!」
本当はルルーシュ対してもしたいその問いを、ライにだけ向かって投げる。
その途端、ライは困ったような笑顔を浮かべた。
「いや、ちょっと勝負をしようってことになって」
「勝負?」
「どっちが株で多く稼げるかって」
「はあっ!?」
なんだかとんでもないことをさらりと言われたような気がした。
「もしかして……さっき言ってた2億って……」
「あ、あはは」
リヴァルの問いに、ライは笑って誤魔化す。
つまりその数字は、今日株で稼いだ金だというのだろうか。
「1日で、2億……」
「さ、さすが……っていうべき?ここは……」
呆然とするシャーリーに、苦笑いをするミレイ。
突拍子もない話に、誰もついて行くことができなくなっているのだ。
彼女たちのその声を聞いて、同じく呆然としていたカレンは我に返った。
その途端、怒りがふつふつと沸き上がってくる。
日本の未来がかかった会議よりも、勝負を優先したというのか、この2人は。
「あんた会議さぼってそんなこと……っ!」
「あ、えっと、僕の方のは手元に来たら利益分は特区の運営資金として寄付するから」
慌ててそう言い訳するライに、カレンは振り上げようとした腕を止めた。
特区の運営は、ブリタニア政庁から組まれた予算の上でされている。
だから何かしようとするにも、ユーフェミアからコーネリアにお伺いを立てているというのが現状だ。
ライの利益がどれだけのものかは知らないが、それでも寄付されればもっと融通の聞いた政策が可能になるかもしれない。
少しはそう言った政策関係のことも学び始めたカレンは、ライがそう言うのならと、振り上げかけた手を降ろした。
「まったく……。ルルーシュ!」
代わりにルルーシュに文句を言おうとそちらを見た途端、カレンは目を丸くした。
ルルーシュは、額に手を当てたまま動きを止めていた。
わかりやすく言うならそう、フリーズしていたと言うべきか。
「……何?あれ」
「ライに負けたのがよっぽどショックだったみたいねぇ……」
思わず口に出した疑問に答えたのは、カレンのすぐ側で成り行きを見守っていたミレイだった。
そういえば、彼はずいぶんと負けず嫌いだったなと、思い出す。
「ああ、カレン」
そんなことを考えていたら、突然ライに呼ばれた。
驚いて彼を見ると、彼はにっこりと笑った。
「たぶん明日もゼロは休暇だろうから、少しシフトを組み直してもらってくれ」
「へ?」
笑顔で言われたその言葉の意味が分からず、カレンはきょとんとした表情を浮かべて首を傾げた。
翌日、漸くその意味に気づいたカレンが、ゼロの代わりにゼロの執務室で仕事をしていたライの顔面に拳を叩き込むのだが、それはまだ先のお話。